中原中也といえば長谷川泰子と同棲するのは17の頃だ、愛してはいたのだろう犯されて人の子を産んだ泰子の世話までしている。中也の詩生活は不安定なものだったが、生家に帰るとしゃんとしていた。不思議に見合いで素直に結婚したことを世間は詮索するが、私は不思議に思わない。中也のトポスは生涯生家だけだった。それ以外のいわゆる自称詩生活は自己矛盾を脱ぎ捨てるだけの生き方だった。泰子もその一部だった。中原中也の代表作は「山羊の歌」サーカスが有名だが
渋つた仄 暗い池の面 で、
寄り合つた蓮の葉が揺れる。
蓮の葉は、図太いので
こそこそとしか音をたてない。
音をたてると私の心が揺れる、
目が薄明るい地平線を逐 ふ……
黒々と山がのぞきかかるばつかりだ
――失はれたものはかへつて来ない。
なにが悲しいつたつてこれほど悲しいことはない
草の根の匂ひが静かに鼻にくる、
畑の土が石といつしよに私を見てゐる。
――竟 に私は耕やさうとは思はない!
ぢいつと茫然 黄昏 の中に立つて、
なんだか父親の映像が気になりだすと一歩二歩歩みだすばかりです
寄り合つた蓮の葉が揺れる。
蓮の葉は、図太いので
こそこそとしか音をたてない。
音をたてると私の心が揺れる、
目が薄明るい地平線を
黒々と山がのぞきかかるばつかりだ
――失はれたものはかへつて来ない。
なにが悲しいつたつてこれほど悲しいことはない
草の根の匂ひが静かに鼻にくる、
畑の土が石といつしよに私を見てゐる。
――
ぢいつと
なんだか父親の映像が気になりだすと一歩二歩歩みだすばかりです
サーカスが有名だがこの「黄昏」がいい。
土に還るという死の表現一般があるが、一見奔放に生きているようで
草葉の影を意識させる黄昏は矛盾したまま「畑の土が石といつしよに私を見てゐる」
死者たちの期待に押し出される中也。トポスに囚われ受動的にしかなれない自分という、大きな矛盾、自己分裂を発症しては
中也は生家で癒しを得ていた。中也の正直さが現代の引きこもり若者に通じている。