公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

切り取りダイジェストは再掲。新記事はたまに再開。裏表紙書きは過去記事の余白リサイクル。

KININARU技術50 CO2分離膜 ダイセル

2023-05-19 01:41:00 | 経済指標(製造業)
追補2023/05/19


Room-Temperature CO2 Hydrogenation to Methanol over Air-Stable hcp-PdMo Intermetallic Catalyst

  • Hironobu Sugiyama
  • Masayoshi Miyazaki
  • Masato Sasase
  • Masaaki Kitano*
  • , and 
  • Hideo Hosono*
Cite this: J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 17, 9410–9416
Publication Date:March 30, 2023
https://doi.org/10.1021/jacs.2c13801
Copyright © 2023 The Authors. Published by American Chemical Society
ACS AuthorChoiceCC: Creative CommonsBY: Credit must be given to the creator

KININARU技術50番目は、ダイセル、昔のダイセル化学工業 大日本セルロイド(世界のセルロイド生産の寡占企業)この会社は日立造船と同じく、社会のニーズを読み込みながら、主セグメントを果敢に変え続けている。 今回は大気中の薄いCO2を回収する技術。

2020年時点で、CCSの設備容量は全世界でおよそ40 Mtである。ネットゼロ排 出を達成するために、今日のCCSの設備容量を、2050年までに100 倍以上増やす必要がある。


Direct Air Capture(DAC)
大気中のCO2を直接回収する、CO2削減のための分離回収技術。工場や発電所などの排ガスを対象としてCO2を分離回収する技術と異なり、過去に排出されたCO2の削減、すなわち「ビヨンド・ゼロ」が可能である。

論文情報
掲載誌:ACS Omega
論文タイトル:Ionic liquid Mixtures for Direct Air Capture: High CO2 Permeation Driven by Superior CO2 Absorption with Lower Absolute Enthalpy
著者:河野 雄樹、金久保 光央、岩谷 真男、大和 洋、牧野 貴至

今後の予定
混合イオン液体膜を用いたDAC技術の実用化を目指し、イオン液体膜の製造技術を開発するとともに、DAC用膜のモジュール化を進めます。また、今回開発した技術は、複数のイオン液体を混合してCO2吸収機構を制御することで、イオン液体膜を高性能化する点に特徴があります。本記事では大気中CO2を対象としていますが、混合イオン液体の組成を適切に選択することで、多様な排出源を対象としたCO2分離用イオン液体膜への発展も見込めます。

概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)化学プロセス研究部門 河野 雄樹 主任研究員、金久保 光央 研究部門付、牧野 貴至 研究グループ長、は、株式会社 ダイセル(以下「ダイセル」という)と共同で、大気中CO2のような希薄なCO2を高選択に分離回収する膜を開発しました。

産総研は役割の異なる2種のCO2分離用イオン液体を組み合わせ多孔質材に染み込ませることで、希薄なCO2を高い選択率で分離回収できる高性能な膜を開発しました。この膜は、大気と同程度のCO2(約0.04%)のモデルガスの分離試験で、CO2をN2よりも1万倍以上速く透過させることができました。本技術を活用し、大気中のCO2を直接回収するDirect Air Capture(DAC)技術の開発を進めており、カーボンリサイクルの実現に貢献します。なお、この技術の詳細は、2022年11月11日(アメリカ時間)に「ACS Omega」に掲載される予定です。


開発の社会的背景
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、大気中に排出されるCO2を分離回収し、炭素資源として各種の炭素化合物の合成原料として再利用するカーボンリサイクル技術が注目されています。数々の排出源の中で、高炉や石炭火力発電所など、高濃度CO2を含む排ガスからのCO2の分離回収技術の開発が進んでいます。カーボンニュートラルの実現には、より低濃度なCO2排出源からの分離回収も求められており、大気中からCO2を分離回収するDAC技術は、近年、欧米を中心に化学吸収法や化学吸着法を用いた技術の実証が進められています。これらの技術では、分離材料に吸収もしくは吸着させたCO2の回収に多量の熱を消費することが欠点のひとつです。そこで、産総研とダイセルでは、原理的に熱エネルギーを必要としないCO2分離技術である、膜分離法に着目しました。


研究の経緯
イオン液体は揮発せず、熱的・化学的に安定であるため、有機溶媒に代わるものとして、多様な分野への応用が検討されています。産総研では、この溶媒を各種ガスの分離材料として捉え、さまざまな陽イオンと陰イオンからなるイオン液体を合成し、CO2吸収量など各種の性能を評価するとともに、イオン液体を用いたCO2分離回収技術を開発してきました。これまでに、CO2を化学吸収するイオン液体の分子構造を変え塩基性を制御することで、上市されている吸収液よりも20 ℃以上低い、100 ℃以下でCO2を回収できるイオン液体を開発しました。今回はこの技術を発展させ、熱エネルギー消費量の削減を目指して、イオン液体を多孔質材に含浸させたCO2分離膜(以下「イオン液体膜」という)の開発に取り組みました。

なお、本研究開発の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果最適展開支援プログラム「希薄CO2の分離・回収のための膜分離システムの開発(2020〜2021年度)(課題番号JPMJTR203C)」による支援を受けました。

研究の内容
本研究ではまず、より高性能なCO2分離用イオン液体を開発しました。具体的には、イオン液体へのCO2の吸収と、吸収されたCO2をイオン液体から脱離させて回収する各ステップを共に高速化するため、役割の異なる2種類のイオン液体を混合することを着想しました。CO2と化学反応するイオン液体(IL1)と、化学反応により生成した化合物と溶媒和するイオン液体(IL2)の混合物(以下「混合イオン液体」とする)を開発しました。

この混合イオン液体を多孔質材に含浸させることで、イオン液体膜を作製しました。作製したイオン液体膜の特性は図1に示すシステムで計測しました。膜の上流側にCO2とN2を混合したモデルガス(CO2濃度:0.04%)を、下流側にスイープガスとしてHeをそれぞれ供給しました。膜を透過したCO2とN2はHeと混合した状態で回収され、混合ガス中のCO2濃度は図1右下の式で表しました。イオン液体膜のCO2透過係数およびCO2/N2選択率を図2に示します。従来高分子膜の性能上限は、CO2透過係数が上がるとCO2/N2選択率が下がるトレードオフの関係を示し、CO2透過係数20,000 BarrerにおいてCO2/N2選択率は約20でした(図2中の実線)。図2に示すように、混合イオン液体膜の性能は、従来高分子膜の性能上限を大きく超えました。具体的には、大気中CO2と同程度の0.04%のCO2を用いた試験で、CO2/N2選択率は従来膜の約200倍に達しました。さらに、IL1の陰イオンの分子構造を最適化したイオン液体(IL1’)を開発することで、 CO2/N2選択率が1万を超えるイオン液体膜を開発することに成功し、最終的には約70%のCO2とすることができました。これは、DAC用分離膜の材料として最高クラスの性能であり、そのCO2/N2選択率は同等のCO2透過係数を示す従来高分子膜の約500倍に相当します。

一般的に、化学反応を伴う膜材料を用いたCO2分離回収においては、膜中をCO2が速く移動するだけでなく、(a)化学反応によるCO2の吸収、(b)逆反応によるCO2の脱離の2ステップも速やかに進行する必要があります。CO2との反応性が高い材料を分離膜に用いると、CO2吸収量は増加するものの、強固な化学結合のためにCO2を吸収するときに発生する熱(以下、「CO2吸収熱」)が大きくなりCO2の脱離が速やかに進行しない関係にありました。そこで、本研究で開発したIL1とIL2からなる混合イオン液体について、CO2吸収量とCO2吸収熱を分析したところ、IL1およびIL2に比べてCO2吸収量は3倍以上となりながら、CO2吸収熱は0.9倍以下の低い値となりました。さらにCO2吸収後の混合イオン液体には単独イオン液体で観察されなかった化合物が生成していることが確認され、CO2吸収量の高いイオン液体(IL1)との化学反応により生成した化合物がイオン液体(IL2)により溶媒和されるといった、単独イオン液体で起こらないCO2吸収機構が発現していることが見いだされました。このように、役割の異なる2種類のイオン液体を混合することで高CO2吸収量と低CO2吸収熱が両立できることが明らかになりました。

 用語説明

[用語1] 共有結合性有機構造体(Covalent Organic Framework: COF) : 軽元素の有機化合物が共有結合を介して規則的に配列した構造体であり、多孔質材料として知られる。軽量で熱安定性や化学的安定性に優れる。

[用語2] 電解発生酸(Electrogenerated Acid: EGA) : 電解酸化により陽極近傍に生じる酸。有機溶媒中で生じる電解発生酸は水和されていない強い酸として作用する。通常は微量の水の酸化により生じるが、本研究のように、容易に酸化される前駆体を用いて発生させることもできる。

[用語3] モノマー : 重合を行う際の基質のこと。単量体ともいう。本研究では、アミノ基を3つ持つアミンモノマーとアルデヒド基を2つ持つアルデヒドモノマーを重合することにより、二次元状の高分子材料を得ている。

[用語4] イミン結合 : 炭素-窒素二重結合のこと。本研究では、アミンモノマーとアルデヒドモノマーの脱水縮合反応により、イミン結合からなるCOF材料が得られる。

[用語5] 小角X線散乱測定 : X線を物質に照射したときに、小さい散乱角で散乱されたX線を測定することにより物質の構造情報を得る手法である。物質の数ナノメートルレベルでの規則構造の分析に用いられる。


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