公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

切り取りダイジェストは再掲。新記事はたまに再開。裏表紙書きは過去記事の余白リサイクル。

今読み直す『幸福な王子』(The Happy Prince)

2019-02-08 19:48:00 | 今読んでる本

『幸福な王子』(The Happy Prince)オスカー・ワイルド*の作品は様々に邦訳されているが、最後の場面は大いに違う。王子の心臓とツバメは打ち捨てられ、それを神の指令で天使たちが地上に残された尊いものを探し当てるというミッションを王子の心臓とツバメを持って帰り天使たちが褒められるというのがオリジナルの終わり方だ。しかしこの最後は日本人には理解不能であろう。自己犠牲は尊いがそれで地上が救われたわけではない。地上の人々は王子の陰に隠れた善行(陰徳)をただの風化にしか見えない救いようのない有様であったし、ツバメも南の国エジプトに帰れなかった。有島武郎は再び返ってきたと訳している。


「私はエジプトに行くのではありません」とツバメは言いました。 「死の家に行くんです。 『死』というのは『眠り』の兄弟、ですよね」

そしてツバメは幸福の王子のくちびるにキスをして、 死んで彼の足元に落ちていきました。

その瞬間、像の中で何かが砕けたような奇妙な音がしました。 それは、鉛の心臓がちょうど二つに割れた音なのでした。 ひどく寒い日でしたから。

次の日の朝早く、市長が市会議員たちと一緒に、像の下の広場を歩いておりました。 柱を通りすぎるときに市長が像を見上げました。 「おやおや、この幸福の王子は何てみすぼらしいんだ」と市長は言いました。

「何てみすぼらしいんだ」市会議員たちは叫びました。 彼らはいつも市長に賛成するのです。 皆は像を見ようと近寄っていきました。

「ルビーは剣から抜け落ちてるし、 目は無くなってるし、 もう金の像じゃなくなっているし」と市長は言いました 「これでは乞食とたいして変わらんじゃないか」

「乞食とたいして変わらんじゃないか」と市会議員たちが言いました。

「それに、死んだ鳥なんかが足元にいる」市長は続けました。 「われわれは実際、鳥類はここで死ぬことあたわずという布告を出さねばならんな」 そこで書記がその提案を書きとめました。

そこで彼らは幸福の王子の像を下ろしました。 「もう美しくないから、役にも立たないわけだ」大学の芸術の教授が言いました。

溶鉱炉で像を溶かすときに、その金属を使ってどうするかを決めるため、 市長は市議会を開きました。 「もちろん他の像を立てなくてはならない」と市長は言いました。 「そしてその像は私の像でなくてはなるまい」

「いや、私の像です」と市会議員たちがそれぞれ言い、口論になりました。 私が彼らのうわさを最後に聞いたときも、まだ口論していました。

「おかしいなあ」鋳造所の労働者の監督が言いました。 「この壊れた鉛の心臓は溶鉱炉では溶けないぞ。 捨てなくちゃならんな」 心臓は、ごみために捨てられました。 そこには死んだツバメも横たわっていたのです。

神さまが天使たちの一人に「町の中で最も貴いものを二つ持ってきなさい」とおっしゃいました。 その天使は、神さまのところに鉛の心臓と死んだ鳥を持ってきました。

神さまは「よく選んできた」とおっしゃいました。 「天国の庭園でこの小さな鳥は永遠に歌い、 黄金の都でこの幸福の王子は私を賛美するだろう」


*オスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド(Oscar Fingal O'Flahertie Wills Wilde、1854年10月16日 - 1900年11月30日)は、アイルランド出身の詩人作家劇作家

耽美的・退廃的・懐疑的だった19世紀文学の旗手のように語られる。多彩な文筆活動をしたが、男色を咎められて収監され、出獄後、失意から回復しないままに没した。


受験問題に出たらしいね。いずれにしても、この話は神にとって地上は滅ぶ運命なのでどうなろうと構わず、救うべき魂にこそ神は関心があると言う宗教的構図(携挙)で物語は出来ている。王子とツバメの自己犠牲が日本人の印象に残るが、ワイルドの描いた物語の本当の寓意は神の国に迎えられる資格はただ神だけが決めるという冷徹あるいは冷徹に対する懐疑的揶揄だ。地上をどんなに黄金で救おうとも地上の幸福にすぎないと信者を納得させる展開は邦訳には無理。ましてや「天国の庭園でこの小さな鳥は永遠に歌い、 黄金の都でこの幸福の王子は私を賛美するだろう」なんて日本人は理解不能。どうして神様はそれまで地上の恵まれない人々を救済しなかったの?せめてツバメを助けてという疑問だけが残る。


《 I did not know what tears were, for l lived in the Palace of where sorrow is この 「the Sans−Souci 無憂宮」は、(Frederick ll,1712−86)によって建てられたポッダムの宮殿である。 この王は同性愛者としての噂が絶えなかっ た人物であり,その性癖と孤高ぶりが作者ワイル ドの共感を呼んだ可能性もある。》とまでの解説は作品逸脱では? 

翌日からずっと王子の肩に座って、見知らぬ土地で見た話をした。ナイル川のほとりに長い列をなして立ち、くちばしで金魚を捕らえる赤いトキのこと、世界と同じくらい古く、砂漠に住んでいて何でも知っているスフィンクスのこと、ラクダの横をゆっくり歩き、手に琥珀色のビーズを持っている商人たちのこと。黒檀のように黒く、大きな水晶を崇拝する月の山の王、ヤシの木に眠る大きな緑の蛇、20人の司祭に蜂蜜菓子を食べさせるピグミー、そして大きな平たい葉に乗って大きな湖を航海し、いつも蝶と戦争しているピグミーのこと。
「親愛なる小さなツバメは言った、「あなたは私に驚くべきことを話すが、何よりも驚くべきことは、男性と女性の苦しみである。悲惨さほど大きな謎はない。小さなツバメよ、私の町の上空を飛んで、そこで見たものを私に教えてくれ」。
そこでツバメは大都会の上空を飛び、金持ちが美しい家で歓談しているのを見たが、乞食は門に座っていた。暗い路地に飛び込むと、飢えた子供たちの白い顔が、黒い街路を無気力に眺めているのが見えた。ある橋のアーチの下で、2人の少年が互いに抱き合って体を温めていた。「お腹が空いたよ」と二人は言った。"ここに寝てはいけない "と番人が叫ぶと、二人は雨の中に出て行ってしまった。
そして、彼は飛んで帰ってきて、自分が見たことを王子に話しました。
「王子は言った、「私は立派な金で覆われている、あなたはそれを取る必要があります、葉一枚ずつ、私の貧しい人々に与える。
ツバメは金の葉を一枚、また一枚と摘み取り、幸せな王子はすっかりくすんで灰色になってしまいました。そして、その金の葉を貧しい人たちのところに持っていくと、子どもたちの顔はますます明るくなり、道ばたで笑ったり遊んだりするようになりました。「パンがある!」と子どもたちは叫びました。
そして雪が降り、雪の後には霜が降りた。家々の軒先からは水晶の短剣のような長い氷柱が垂れ下がり、誰もが毛皮を着て歩き、小さな男の子たちは緋色の帽子をかぶって氷の上を滑っていました。
かわいそうなツバメはますます寒くなりましたが、王子を愛してやまなかったので、王子のもとを離れようとはしませんでした。パン屋さんが見ていない時に、パン屋さんのドアの外でパンくずを拾い、羽をばたつかせて暖をとろうとしました。
しかし、ついに彼は自分が死ぬことを悟った。彼はもう一度王子の肩に飛んでいくだけの力があった。"さようなら、王子様!"と彼はつぶやいた。"あなたの手にキスさせてもらえませんか?"
「でも、唇にキスしてください、あなたを愛していますから」。
"私が行くのはエジプトではありません "とツバメは言いました。「私は死の家に行くのです。死は眠りの兄弟でしょう?"
そして、幸せな王子の唇にキスをして、その足元に倒れこみました。
その時、像の中で何かが壊れたような不思議な音がした。実は、鉛の心臓が真っ二つに折れてしまったのだ。確かに、ひどく硬い霜であった。
翌朝早く、市長は町の評議員たちと一緒に下の広場を歩いていた。その時、市長はこの像を見上げました。「やれやれ、幸福な王子はなんとみすぼらしい姿をしていることか」と彼は言った。
市長の意見にいつも賛成していた参事官たちは、「本当にみすぼらしい!」と叫び、像の上に上がって見てみた。
"剣からルビーが落ち、目がなくなり、もはや黄金ではありません。"と市長は言った。"彼は乞食より少しましです!"
"乞食より少しはまし "と町議会議員たちは言った。
「そして、彼の足元には、実は鳥の死骸があるのです!」市長は続けた。"ここで鳥を死なせてはいけないという布告を出さなければならない"。そして、町の書記はその提案をメモしておいた。
そこで、彼らは幸福な王子の銅像を撤去した。大学の美術教授は、「彼はもう美しくないので、もう役に立たない」と言った。
そして、銅像を炉で溶かし、町長はその金属をどうするか決めるために公社を招集した。市長は、「もちろん、別の像を作らなければならない」と言い、「それは私の像にしよう」と言った。
"私の "と言って、町の評議員たちはそれぞれ言い争った。私が最後に彼らの話を聞いたとき、彼らはまだ口論していた。
「鋳造所の職人たちは、「なんという不思議なことだろう。"この壊れた鉛の心臓は、炉の中で溶けない。捨てなければならない" そこで彼らは、死んだツバメが横たわっている埃の山にそれを投げ捨てました。
神は天使の一人に「この街で最も貴重なものを2つ持ってこい」と言い、天使は鉛の心臓と死んだ鳥を持ってきた。
「そして、天使は鉛の心臓と死んだ鳥を持ってきた。「あなたは正しく選んだ。


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