沖縄のごみ問題を考える

一般廃棄物の適正な処理に対する国の施策と県の施策と市町村の施策を比較しながら「沖縄のごみ問題」を考えるブログです。

市町村のごみ処理における「一部事務組合」のリスクを考える(資料編)

2015-11-11 13:48:22 | ごみ処理計画

沖縄県(本島)において、市町村が単独でごみ処理を行っているのは、浦添市と名護市だけです。その他の市町村は「一部事務組合」がごみ処理を行っています。

そこで、このブログの管理者が一部事務組合に関する考察としては、最も的を射ていると評価している下記の資料を読者の皆様にご紹介します。

廃棄物行政のあり方に関する考察
― 廃棄物関連一部事務組合を中心に ―
自治総研通巻415号 2013年5月

以下は、資料の概要です。

一部事務組合の場合、構成団体と一部事務組合のどちらに住民説明責任があるのかが定かではない。その結果として、住民の廃棄物行政に対する不安と不信感は高まる一方である。

国によるダイオキシン類の排出削減基準の強化と廃棄物焼却施設をめぐる補助金の問題等が影響し、市町村の小型焼却施設の延命措置・再建築を諦めさせることとなった。

その後、都道府県が作成した広域化計画におけるブロックごとの一部事務組合に参加することで、清掃事業の一部事務組合への移管や大規模焼却施設の建設への参加が進んだことを見ても、市町村における清掃事業の方向を大きく左右したことは明らかである。

そうして、市町村側には事実上の選択肢はなく、国・都道府県の指導(関与)によって新たに巨大かつ高性能の焼却施設の建設を強いられたのである。

一部事務組合が実際にどのような事務を担当してきたのか、その事務内容の推移を確認してみよう。自治体にとっては自治の責任から逃れるために便利だったという側面が浮かび上がる。

一部事務組合には、個々の事務をすべて実施するのが財政的に難しい自治体が合併という選択をせず、自治体として生き残るための道具として使われたという共通点がある。

一部事務組合は財政的に脆弱な自治体の事務を補完するというタテマエから始まったが、行政の合理化・効率化(経費の節約)という行政目標を反映する形で、実際は行政側にとって面倒な事務の受け皿となっていると言えるのではないだろうか。

清掃事務は、焼却施設・資源化施設を含む多くの廃棄物関連施設の建設はもちろん、ごみの集団収集のためのごみステーション設置等にも住民反対運動が激しく、行政側としてはできれば避けて通りたい事務である。

一部事務組合と委託業者・許可業者への清掃事務の委託によって自治体の職員の削減にもつなげることができる。その結果、現在の自治体の廃棄物行政は人的な部分はもちろん、技術的な部分まで脆弱化しているのである。

市町村側の政治的な狙い(住民の理解を得ることが難しい施設の分け合い、自治体に向けられる反対の声を減らす)からも便利なツールとして機能していることを指摘できる。結果的に、行政側は、これら面倒な事務を一部事務組合という責任主体の不明確な主体に負わせ、事務関連の説明責任まで曖昧にさせている。

ごみ処理の広域化という国策(=廃棄物焼却炉関連企業の思惑)に追随することなく、各々の自治体における議会・住民・職員等による議論を出発点に、廃棄物処理の広域化が効率的な行政運営に資するかについて、構成団体同士の十分な議論を行い、そこで生み出された合意によって一部事務組合が設置されるよう設置自治体間の充分な協議と合意が必要である。

従来から一部事務組合は地方公共団体でありながら、住民とは遠い存在であるという指摘を受け続けてきた。確かに法律上、直接請求に関する規定が定められていない。情報に関しては情報公開条例を定めている一部事務組合も多いが、色々な理由で公開を拒否されることがある。

また、傍聴についても、傍聴席がないか、または座席はあるもののその数が少ない、傍聴する手続きが煩雑、議会の開会時間等々の問題で住民からさらに遠い存在になっている。

自治体の一部の事務だけを扱うため、その事務に相当な興味を持たない限り、住民の参加への意欲も失せる可能性が高い。情報へのアプローチはガバナンスにおける欠かせない要件であるにもかかわらず、一部事務組合に関する情報の共有ができていないことが住民によるガバナンスを妨げているのである。

現在、一部事務組合が設立されると、一部事務組合が担当する事務は市区町村の事務から切り離されることになる。首長は管理者または副管理者として一部事務組合の運営に係る。しかし、事務は首長の任務の延長であるにもかかわらず、問題が発生した場合、責任の所在が曖昧になる。

特に、管理者であるか副管理者であるかによらず、一部事務組合の施設が立地する自治体の首長が相対的に他の構成団体の首長より上位となり、運営も立地自治体の首長中心に行われがちとなり、関連自治体の首長は意見を言えなくなることもあるとされる。廃棄物関連施設の場合は特にその傾向が高いと思われる。

一部事務組合の議会は構成自治体の議会から選出された議員によって構成される。しかし、この議会に関して、報酬の二重取り、議論の時間が短い(年2回開催)、発言の回数が少ない、住民への公開(傍聴)が進んでいないなど批判の声が多い。

現在、一部事務組合で働いている者としては、構成自治体から送られた職員、一部事務組合所属の職員、委託先(下請け)の職員など、多様である。この多様な関係者が組織の運営にどのように関わっているのかという問題は重要である。

一部事務組合の組織内部における民主的な統制は多くの課題を抱えた状況にある。

普通地方公共団体の議会の場合、(人的・財源的に不十分とは言え)議会事務局をおいて個々の議員・議会をサポートしているが、一部事務組合のような特別地方公共団体の議会はそのような議会事務局を持っていない。そのため、一部事務組合の議会のホームページはもちろん、会議録もないケースが多い。

一部事務組合の議会の問題において、議論できるような土台が作られていないことが形骸化の一因になっていることも指摘したい。

廃棄物関連一部事務組合の場合、構成団体の廃棄物関連事務をそのまま権限として受け継ぐものであり、その事務について公権力を持つ法人として構成団体の合意による安定的な組織運営をすることが求められる。それ故に組織運営における民主的な統制は欠かせなく、その機能を一部事務組合の議会に期待しているのである。

自治体議会は住民の代表機関として自治体の民主性を担保するというのがタテマエ論であるが、一部事務組合の議会の議員は、住民によって選ばれた代表がその代表同士で選んだ代表であるため、必ずしも住民の意思をそのまま反映しているとは言い難い。

また、自治体議会の議員は地域の代表であって、ある固有の事務の専門性を中心に選ばれているわけでもないため、高度の専門性を要求される廃棄物関連施設をチェックする能力を一部事務組合の議員に期待するのは難しい。

これらの理由で、住民の代表による民主政治の実現という普通公共団体における議会の理想像と特別公共団体における議会の現実像はかけ離れていることが明らかである。

現在、一部事務組合をめぐる事故・不祥事は、時折マスコミに取り上げられるが、組合の閉鎖的な組織運営によってもたらされたことでもある。本来市区町村の「自治事務」であった廃棄物行政を一部事務組合が行うことで、その責任関係も曖昧にされたのである。

その上、一部事務組合の運営は、各自治体から送られた職員によって行われることが少なくなり、経費削減の目的で事務そのものも下請け業者に委託されることが増え、清掃事務全般に関するノウハウを持っている自治体の職員も減少している。また、下請け業者は組織運営に問題を感じても契約の打ち切りを恐れ、改善策を提案できない悪循環に陥っている。

このように、一部事務組合は、組織内部における民主的な統制はもちろん、構成団体と組合との間における責任関係の明確化、そして住民に対する説明責任・情報公開等、様々な問題をいまも抱えている。

2012年の地方自治法改正は一部事務組合の議会を構成団体の議会に置き換えることを提案している。

自治体議会の議員は地域の代表であり、専門性に基づいた代表ではない。そのため、作業中に起こりうる事故に対する迅速な対応や日ごろの高度な専門性・技術性を伴う組織運営における一部事務組合の議員の力量まで期待することは難しいのも事実である。

一部事務組合の組織形態を管理者・議会という全国一律の形式的な既存の組織管理システムに拘らず、地方自治の実験場として多様な利害関係者の参加による自治の質を固めることを目指した運営協議会の導入を提案したい。

<まとめ>

ごみ処理の広域計画による一部事務組合の設置は、表面的には関連市町村の協議によるものであるが、多くの場面で実質的には国策による自治の放棄(今まで行ってきた自治体の独自の政策の放棄)の産物という面も否定できない。

 一部事務組合は自治体の一部の事務を共同で処理するために設立されたものであり、地域の住民の選挙によって選ばれた代表による事務管理を想定したものではない。

一部事務組合は、構成団体と一部事務組合との責任関係を明らかにせず、不祥事・事故が発生しても説明責任を果たすことなく、曖昧な状況を(国・地方両方の暗黙の同意下で)維持してきた。 

一部事務組合に関連する組織運営事項の多くは関係構成団体が決める条例に委ねることで、地域の事情を踏まえた責任ある選択をできるのではなかろうか。

自治体は国の指導を無批判に受け入れるのではなく、いままでの分権改革の動きが何のためのものだったのかを自ら考えるべきである。現況を検証することから始め、地域の実情に合う長期間にわたる維持管理面も念頭に入れて廃棄物処理システムのあり方を探るべきである。その選択こそが自治による一部事務組合の設置の第一歩になるのであろう。

以上が資料の概要ですが、この資料によって一部事務組合という組織が住民にとっては極めて脆弱な組織であるということを理解していただければ幸いです。

※このブログの管理者は、国内において最悪とも言える「溶融炉の悲劇」を体験してきた中城村北中城村清掃事務組合が、組合の構成団体(中城村及び北中城村)の議会の発意によって新たな第一歩を踏み出す最初の一部事務組合になると考えています。なぜなら、同組合は沖縄県だけでなく、国内においても他に例を見ない最も「個性的」な一部事務組合だからです。



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