沖縄県のごみ問題とは直接関係はありませんが、「他山の石」としてガス化溶融炉から排出される「ばいじん」のダイオキシン類濃度について長期間データを隠蔽していた高島市(滋賀県)に対する第三者調査委員会の報告書から、同市における不祥事の背景を考えてみたいと思います。
なお、この不祥事は会計検査院の実地検査によって発覚しています。
①環境政策課と環境センターの連携(責任の所在が不明確)
当時の認識として、環境政策課職員は「事務処理や予算執行は環境政策課が行っているが、あくまで事務手続きを行っているのみという認識であり、現場責任は環境センターにある。」と証言した。一方、環境センター職員は「現場の管理は行っているが、課題処理や方針決定等重要事項は環境政策課が行っている。」と証言するなど結果的に責任の所在が不明確となっていた。また、重要な案件についての内部協議資料がほとんど作成されていなかった。
⇒いわゆる縦割り行政の弊害と言えますが、一部事務組合の場合はよりこの傾向が高くなると考えます。
②職員の法令遵守および組織の危機管理意識の欠如
関係職員からの聞き取りや残された公文書の調査を通じ判明したことは、法令遵守の意識の欠如であり、また組織における課題への迅速・適正な対応を先送りしており、危機管理に対する管理監督者の責任とその役割が果たされていないことが大きな原因といわざるを得ない。このような事態となったことに関し、これまでに関わった市職員(退職者を含む。)の責任は重大である。
⇒沖縄県においても宮古島市で同様の不祥事が発生しています。
③業務マニュアルの不存在
施設運営などガス化溶融炉の適正な運転管理に結びつく技術的な手引書がなく、また、適正かつ安定した稼働のためには様々な事象に対応した「保守管理マニュアル」や「非常時対応マニュアル」もなく、緊急時または事故発生時の報告、連絡体制の不徹底や対応策についての検討方法、またその対応策についての決定権者が不明確であるなど施設運営の基礎的な部分が欠落していた。
⇒考えられないと言うのがこのブログの管理者の考えです。
④専門知識を有する技術者の不在
本施設には、機械設備を熟知し、緊急および重大な問題が発生した時に適切な判断や対応ができる技術者(集団)が不在であり、あらゆる問題に対して抜本的な対策を講じることができず、緊急補修による対症療法的対応に終始していたと思われる。
⇒人口(職員)の数が少ない市町村ほど、この傾向が高くなると考えます。
⑤記録データ等の活用
専門的な知識を有する技術者がいないことから、運転日報に記載されている数値を運転管理に有効に利用できないなど、職員の技術的な問題、また環境センターの体制的な問題も顕在していた。
⇒上の④と同じです。
⑥修理・修繕・定期点検実施の事務手続きにかかる書類の不整備
環境センター稼働時からの修繕記録など事務手続きにかかる書類について、年度毎に整理の仕方が異なり、また体系的に管理されていなかった。
⇒これは職員による事務処理の引継ぎの問題ですが、複数の市町村から職員が出向している一部事務組合の場合はこの傾向が高くなると考えます。
⑦コスト削減を優先
本施設建設時、「流動床ガス化溶融炉」は国内で実用機の導入実績が少なかったため、プラントメーカーが安い価格を提示する傾向があった。このことを重視して、専門家を入れた機種選定委員会等を組織せず、実績のない3社をあえて選定し、入札を実施した。このようにコスト削減を最優先するあまり、施設の適正な維持管理、法令遵守がおろそかにされる事態を招くことになったと考えられる。
⇒川崎重工業製の「流動床式ガス化溶融炉」ですが、高島市が同社における第1号プラントになっています。
⑧定期点検、維持管理の不備
平成19年度から平成23年度まで、定期点検は一度も行われず、修繕計画も策定されずに緊急対応の繰り返しとなっていた。
⇒平成18年度まではメーカー側が維持管理を行っていましたが、コスト削減のために平成19年度から市が直営で運転しています。
⑨閉鎖的な環境センターの運営
ばいじんや排ガスのダイオキシン類測定結果について、滋賀県に報告した自主測定結果等は、滋賀県により公表されているが、環境センターでは、ばいじんのダイオキシン類測定結果については公表していない。
⇒高島市の不祥事の最大の原因がここにあると考えます。
⑩施設内の作業環境の悪化
定期点検、維持管理の不備に伴い、平成21年度から平成23年度までと平成25年度に作業環境レベルが第3管理区域となる事態が生じた。これは労働安全衛生法に基づき、エアラインマスクまたは空気保護具をつけて作業しなければならないレベルであるが、環境センターの職員はそうした保護具をつけずに作業を実施していた。
⇒溶融炉に対する市の職員や市長、そして議会の理解度が低すぎると言うのがこのブログの管理者の率直な意見です。
以上が高島市の不祥事の概要とこのブログの管理者の意見です。この不祥事から思うことは、溶融炉というハイテクプラントはコストが高くてもメーカー側に維持管理を委ねる必要があるということです。それができないのであれば、はじめから溶融炉は選定しない。それが市町村(実態は素人集団)の基本的な考え方だと思います。沖縄県において溶融炉の長寿命化を考えている市町村は、高島市の不祥事を「他山の石」としてごみ処理計画の見直しを行っていただけることを期待します。
※職員の「法令遵守意識の欠如」を考えると、会計検査院の実地検査がなければ発覚していなかった(まだ続いていた)不祥事かも知れません。