オートバイで旅して観たモノの記録

 Ôtobai de tabi site mita mono no kiroku.

楯ヶ崎 その三

2019年11月28日 | 楯ヶ崎


 三重県の天然記念物―楯ヶ崎―を目指して,国道311号線からリアス式海岸のV字谷を降りては登って,ようやく太平洋に面した海岸先端へと辿り着くことができた.常緑広葉樹林帯の山中海岸を抜けた先に広がっていたのは,打ち寄せる波によって浸食を受けたスロープ状の岩場―千畳敷―だった.



 なるほど,地図で見たとおりに海岸先端はYの字になっていた.道のない陸地からこのあたりを眺めることができないのも当然のことだった.そして,真っ青な熊野灘から楯ヶ崎と思われる岩礁が,千畳敷の岩盤の上から頭を出していた.その先が見えるところまで無我夢中で進んで行く.



 そして,目の前に飛び込んできたのは,海から空へと向かって垂直に伸びる柱状節理で構成された大きな岩塊だった.スカイブルーと熊野ブルーを背にした高さ80メートル,周囲550メートルほどの楯ヶ崎を目の前にすると,その雄姿に圧倒されてしばしの間,立ちすくんでしまうのだった.



 頭上には,楯ヶ崎の景観を祝うように何羽もの鳥が滑翔していた.初代天皇である神武天皇も見た楯ヶ崎を,二千年越しに見ていると思うだけで感動もひとしおだ.二千年前からこの景色は,大きく変わっていないことだろう.



 それでも,神武天皇が見た楯ヶ崎を取りまく景色は,空はもっと青く,そして海はさらに青かったかもしれない.過去から現在へと思いを馳せながら,時の流れにロマンを感じずにはいられなかった.



 地球規模からしたら二千年なんて瞬きをした程度なのかもしれない.これから先,何千年,そして何万年後の楯ヶ崎はどうなっていくのだろうか.自分の抱えている悩みが些細なことであると同時に,人間のスケールが如何に小さいかを思い知るのだった.



 キャンプツーリングの帰途に気まぐれで立ち寄った楯ヶ崎だったが,予想以上の感銘を受けて随分と長居してしまったようだ.暗闇の中,峠をいくつも越えて家路へと向かうことになってしまった.翌日には英語での大事なプレゼンを控えていたのだが,ほどよい疲れが却って緊張を解してくれて万事上手くいくのだった.これはもしかすると,紀伊半島の神通力のお陰だったのかもしれない.


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