楯ヶ崎まで行く為には、まず一度、国道311号線から海岸を二木島湾の海まで下って行く必要がある.二木島湾の海水は,とても澄んでいてきれいだった.またこの海辺には,阿子師(あこし)神社があって、海に面したところに鳥居が立っている.神武天皇東征の際,船旅での海難で命を落とした神武天皇の兄―三毛入野命(みけいりののみこと)―が祀られているという.
神武天皇も上陸した土地である楯ヶ崎を目指して,いよいよ二木島湾から海岸を登って行く.やはり,登りは下りと違って辛かった.11月中旬だというのに汗を流しながら進んで行く.一面緑の世界と火照った体から出る汗とが,初夏の雰囲気を匂わせるのだった.
道中の所々に奇岩・巨岩,それに大木があって,辛い登り道であっても飽きることのない景観が続いている.この熊野の地ならではの特別な樹木には,ラベルがかけられている.しかし,ラベルを読んだり,写真におさめる余裕が体力的にも時間的にもなかった.
そして,ちょうど楯ヶ崎までの道のり2キロメートルの半分ほどを進んだところに、随分立派な看板が立ててあった.この説明文を読んで,楯ヶ崎の雄姿がまるで目に浮かぶようで,疲れた体に力が湧いてくるような気がした.この辺りは海岸のはずであるが,まるでジャングルのような感じだった.
海の方へ近づいていくと,道端には黄色の小さくて可愛らしい花が目に付くようになる.この時は,名前も知らずに疲れた体を休めるため,単に写真を撮っていたに過ぎなかった.しかし,帰宅してから調べてみると,ツワブキという海辺に自生し,11月から12月にかけて花を咲かせるキク科の常緑多年草だということがわかった.今ではお気に入りの花のうちの一つだ.
小さな植物たちにも励まされ,何とか山中海岸を登りきって,ようやく平坦な道へと出た.まだ視界に海は見えてこないが,波が岩場にぶつかる大きな音が聞こえてくるようになった.途中から脱ぎ捨てたライディングジャケットとインナーを肩にかけながら,半袖シャツ一枚で歩いてきたが,気が付けばシャツが汗でべったりと肌にまとわりついていた.
そうして,ようやく木々の間から海が視界に現われるようになった.楯ヶ崎だけでなく,この辺りのリアス式海岸そのものも柱状節理で成り立っていることがわかった.海から空へと突き出るような六角柱に、自然の驚異をまざまざと感じるのだった.楯ヶ崎への期待も俄然と高まっていく.楯ヶ崎まではもう目と鼻の先だ.
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます