しずくな日記

書きたいなあと思ったときにぽつぽつと、しずくのように書いてます。

愛を乞う人

2012-09-26 23:25:28 | 日記
大捕物ってのを初めて体験した。

2日間連続で家に帰らなかった生徒5人の顛末。
うち1人は私のクラスで、
どうやら昨日の昼、この子の保護者が仕事で出かけているうちに家に入って、
お風呂に入ったり、ご飯を食べたり着替えたり、携帯を充電したりした模様、
というのを、夕方仕事から帰宅した保護者から聞いていた。
周辺にいるらしいことはわかってた。で、今日。
朝も保護者と連絡を取り合って、学校周辺のパトロールに、
授業空きの先生が出かけた。

うちのクラスの子の家は、母親が既に亡くなっていて父親だけなので、
遠くに住む祖父母が毎週水曜日だけ通ってきてくれている。
で、その祖父母がマンションに昼間訪れた際、5人がいるところを発見したのだった。
しかし、祖父母はすぐに学校に連絡せず。
昼に様子を聞こうと電話した私に、「・・・います。」と答えたのだった。

そこからが大変だった。

午後は生徒会の立会演説会と役員選挙だったけど、
それどころではなくなってしまった。一応、会はつつがなく進んだけど、
5人の生徒の担任と生徒指導専任、その他フォローの先生合計10数人が、
その子のマンションに急行。
ものすごい高級マンション。

地下への入り口、非常階段、全ての逃げられる経路を先生達がブロックしたのを確認してから、
私と、他の担任の先生4人がマンション内に。

セキュリティーがしっかりしてて、エントランスで呼び出しブザーを鳴らす。
それに住人が対応しないと入れない構造のもの。
番号を押すが、対応がない。
中にいるはずの祖母の携帯に電話すると、
「子ども達の多数決で、出られないんです・・・。」とのこと。
子どもに負けてどうする!
祖母に、エントランスまで出て来てもらう。
で、説得して一緒に部屋まで。

そこから先は完全に家宅捜索状態。

数人が祖父の静止を振り切って逃げるも、
下で張っていた先生達に捕まる。
私は、マンションに残っていた2人と話す。
昨日の夜は寒かった。
なんと片方の子は、今日は結構暑かったのに、借りたダッフルコートを着て泣きじゃくっている。

「これからどうするつもり?」
「家には帰りたくない。」
「あんたたち、他人にものすごい迷惑かけてんの、わかんないの?」
「だって、誰の家にも泊まってないもん、ずっと夜中じゅう、公園とかにいたもん!!」
「家の人が捜索願出してんだよ。
親にも、今ここにいる〇〇さんのおばあちゃんとかおじいちゃんにも、すっごい迷惑かけてるの。」
「帰りたくないもん!!!」
「なんで帰りたくないの?中学生なんだから、赤ちゃんみたいに泣くだけじゃなくて、言葉で説明しな。」

そこからその子たちが語りだしたのは、
家での不当な扱い。で、親子ケンカの末、たぶん、売り言葉に買い言葉だろうけど、
「出てって!」と親に言われたこと。それを真に受けたこと。
自分たちは要らない人間だから、どこにいってもいいと思ったこと。
泣きじゃくって、でも訥々と言葉にして。

辛いのは少しはわかる。でも人様に多大な迷惑をかけているのは絶対いけない。
ご飯まで今日、食べさせてもらったらしい。
学校に連れて帰る。
その時、初めて私は本当にキレた。大声で。

あのさ、自分でちゃんと稼ぎだしてから勝手やりなよ!
そしたらどこでも、外国でも好きなところに勝手に行きなよ!
今、親に全部おんぶにだっこしてもらってるあんた達に、そんなこと言う資格全然ない!

他の先生たちが目を丸くして驚いてた。私は普段、声を荒げることはほぼない。
でも、許せないものは許せない。ほんとマジ許せない。
こういう、譲れないものがあるときは、言ってしまう。
言ってしまう方がいい。

でも後で、他の先生から、
「それに尽きるよね・・・・」と共感の言葉をもらった。


で、その2人は別のクラスの子だったから、
その後、担任の先生が学校で事情聴取をして、保護者に迎えにきてもらった。
そして私のクラスの子は。。。。。髪の毛が金髪化してた。
私は下でてっきり、彼と共に捕まって、先に学校に帰ってると思ってたんだけど。

この子は彼と逃げて、彼だけ地下で捕まったらしい。
ちょっとこの彼、今、本当に窃盗容疑で警察にも追っかけられてて、
先生たちもこいつだけは捕まえなきゃ、とやっきになってたけど、
うちのクラスの子はスルーされたらしい。

で、エントランスあたりで、彼を心配して逃げずにウロウロしてたところを、
他の先生たちが発見したけど、
座り込んで化粧したり、携帯をいじったりで先生達の呼びかけを全く無視していたらしい。


で、前の2人について先に学校に帰ってた私に、困り果てた先生たちから電話。
急いで現場に戻る。
そしたら、全然今回の事件には関係ない、不登校の生徒まで来ていた!
電話でこの子に呼び出されたらしい。
道ばたで座り込んで化粧しているので、一緒に座り込んで話す。
横では、呼び出されて来た子は、携帯で彼とケンカして泣きじゃくっててカオス!

20分くらいその場で話して、学校いこうやーと何とか応じてくれて学校へ。
そこから2人と保健室で何時間話したんだろう。3時間?4時間?

2人とも家庭的に大変で精神的にめちゃくちゃだけど、
今回の事件の生徒が、こんなことを言っていた。

『お父さんから何度も何度も電話があって、
めちゃくちゃうざい!って思ったけど、
そんな風に心配してくれる人があたしにはいるんだなって、初めて思った。
だし、家に2日間、夜帰らずに外をウロウロしてて、
本当に嫌だったし、家っていいなーって思った。
今日は、門限には家にいるようにするよ。

でね、学校2日間行かなかったじゃん。
学校なんて面倒だしって思ってたけど、
学校行かずにフラフラしてると、すごい不安定になってくるの。
学校のルールとか、きつい時間割とか、ああいう、規則正しいこととかリズムって、
大事なんだって思ったよ。朝、ちゃんと起きるのとか。
だって、気持ちが不安定になんないじゃん。』

この子がそんなことを言うなんて・・・。
驚いた。
だって、すごく核心をついていることだと思わない??
すごい、この子って思った。
家出で人生を学んでるって思った。
そのことを褒めた。よく気がついたよ、偉いよって。
このことに気づくための短い旅みたいなものだったのかな。
まあ、それで多くの人は大迷惑を被っているけども。
それも伝えた。

もう一人の子は、不登校で完全に生活リズムが崩れてる。
精神的にも、薬を飲んでいるほどの不安定さだ。
だからこの子には、この友達の言葉はかなり効いたと思った。

「あたし、自分からクラスとか学校から逃げてるから、自分も悪いと思う。
なんとかしてリズムを取り戻したい。」

って初めて言ったもん。

今回の家出騒動は、もちろんあってはいけないことなんだけど、
でも、縛るものの意味や愛情や、
そういうことについて彼女らが考えるきっかけになってたみたいだった。

15歳の頭と心で一生懸命、
自分の体験から考えてる彼女らが、本当に可愛いなと思ってしまった。
彼女から笑顔になって、ちゃんと家に帰ることを約束して、
別れた。

彼女らには、他の生徒のように、保護者の迎えはない。
2人ともそういう家庭に育っているのだ。
保護者の自殺と、ネグレクトと。

だからこそ、人一倍の愛情を求めて、むちゃくちゃやる。
愛情をかけて守ってあげたいと思った。これが母性本能というのか。
まあ、母になったこともないけどね。
しかも、とても難しいことだ。


彼女らは、金髪の、愛を乞う人たちだ。
そういう風にしか見えなかった。