「分けようか!・・・でも、包丁がないか・・・」
「ナイフならあるよ。」
「ごめんね。ちょっと、貸して・・・」
「・・・うっ、やっぱだめだ、鱗が凄いし、デカ過ぎて捌きようがないな(こりゃナイフが痛むわ・・・)」
「そのまま、持って帰ってお子さんに見せたほうがいいよ!」
「ん~ごめん!このまま持って帰る!」
そんなやり取りをした後、車に戻り幅40cmのクーラーに押し込もうとしたが、当たり前だがどうにもならない。
『そうだ、発砲ケースを分けてもらおう!』
バッカンに突っ込んだ彼女を積んで海沿いを走り、釣具屋さんに飛び込む。
「あ・・・あのう、そのう・・・ヒラメの大きいのが釣れてしまって・・・入れ物をなんとかしたいのですけどぉ・・・」
「・・・うん? ヒラメ? 釣れたの? おうおうおう!そうでしょ!そうでしょ! 最近よく釣れるんよ! そうでしょ!そうでしょ! えっ? 76cm? そうでしょ!そうでしょ! 釣れるんよ! ・・・ちょっと待っててね。」
元気の云いお母さんが、奥をゴソゴソして持ってきてくれたのは、なんと紙製の米袋!
「ごめんね、発砲ケースは小さいのしかないから、これに氷と一緒に入れてきっちり封をしておけば、帰りまでは平気でしょ! そうでしょ!そうでしょ!釣れるんよヒラメが!」
とハイテンションで云いながら、獲物を突っ込むのを手伝ってくれて、ガムテープで封をしてくれた。
「あっ、あんた、あれで包みなさいな!」
と指差したのは、車のフロントガラス用の折りたたみ式のサンシェード!
確かに空気層があるので断熱材になる!
・・・んな訳で、謙虚なクーラーしか持たないワシは、サンシェードでくるまれた大きな米袋と共に釣り場に戻ることになった。
「・・・そうでしょ!そうでしょ! 釣れるんよ! ヒラメが!」
「これ、氷代、お釣りはいいです。袋貰ったし・・・」
「んまあ!高え袋代だこと、はっはっはっ!」
「すみません。お世話になりました。」
「・・・・・・んじゃ、気をつけて・・・エンガワが美味いっぺ!」
別れ際、彼女はそう云って、片目を閉じた。