☆ 住 吉 大 神 浄 め 給 う ☆

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祖国愛の視座を欠いた言説は 空虚で、無意味である

2017-11-18 12:02:43 | 天皇・国家

数学者の藤原正彦氏の 的を射た論説を 『 祖国とは国語 』 より、紹介させて戴きます。

< 現在、我が国の直面する困難の大半は、祖国愛の欠如に帰因 ( 起因 )すると
言ってよいだろう。祖国愛と国益主義を峻別 し、すべての子供にゆるぎない祖国愛を
育(はぐ)くむことは、国家再生の急所と考える。 >


【 パトリオティズム 】 ( 祖国愛 )

 最近出席した二つの審議会で、愛国心が問題となった。
重要性を主張する委員たちと危険性を憂慮する委員たちの間に、
深い溝が見られた。一般の意見も二分されるのだろう。

祖国を愛すべきかで国論が割れる様は、おそらく世界に類例がなく、
外から見れば喜劇であり、内から見れば悲劇である。

 英語で愛国心にあたるものに、ナショナリズムとパトリオティズムがあるが、
二つはまったく異なる。ナショナリズムは通常、他国を押しのけてでも
自国の国益を追求する姿勢である。私はこれを国益主義と表現する。

パトリオティズムの方は、祖国の文化、伝統、歴史、自然などに誇りをもち、
またそれらをこよなく愛する精神である。私はこれを祖国愛と表現する。
家族愛、郷土愛の延長にあるものである。

 英米人が「 彼は ナショナリストだ 」 と言ったら批判である。
一方「 あなたはパトリオティストですか 」 と英米人に尋ねたら、
怪訝(けげん)な顔をされるか、怒鳴られるだろう。
「 あなたは正直者ですか 」 と尋ねるようなものだからである。

 我が国では明治の頃から、この二つを 愛国心という一つの言葉でくくってきた。
江戸時代まで、祖国を意識することはさほどなかったから、明治の人々も
そういうことに大雑把(おおざっぱ)だったのだろう。これが不幸の始まりだった。

愛国心の掛け声で列強との利権争奪に加わり、ついには破滅に至るまで狂奔したのだった。
戦後は一転し、愛国心こそ軍国主義の生みの親とあっさり捨てられた。
かくしてその一部分である祖国愛も運命を共にしたのである。
心棒をなくした国家は半世紀たつとどうなるか、が今日の日本である。
言語がいかに決定的かを示す好例でもある。


 祖国愛は どの国の国民にとっても絶対不可欠の精神である。
正直や誠実などと同じ倫理であり、これなくしてどんな主張も空虚である。

これは宗教と無関係である。

偉大なるキリスト者であり祖国愛の人でもある内村鑑三は「二つのJ」を愛すと言った。
キリスト(JESUS)と日本(JAPAN)である。戦争とも無関係である。
日露戦争を支持する圧倒的世論に抗し、断固反対したのも内村だった。
日露戦争に勝てば、その傲(おご)りがより大きな戦争へ祖国を導く、という理由だった。

 一方、国益主義は一般人にとって不必要なばかりか危険でもある。
良識ある人の嫌悪すべきものと言ってよい。

ただし外国と折衝する政治家や官僚はこれをもたねばならない。必要悪である。
他国のそういった人々がそれに凝り固まっているからである。
イラク問題で発言するイラク、米英、独仏中露などの首脳の腹にあるのは、
露骨な国益追求のみである。よくぞ臆面(おくめん)もなく あのような美辞麗句を、
と呆(あき)れるほどの厚顔無恥(こうがんむち)である。このような人々に対処し、
平和、安全、繁栄を確保するには、こちらにも国益を貫く強い意思が必要である。

 指導層が国益を追うのは当然だが、追い過ぎると、肝心の祖国を傷つける。
戦前のように祖国を壊しさえする。国益主義は暴走し、国益を守るに足る祖国そのものを
台無しにしやすいから、それを担ぐ指導層は、それが祖国の品格を傷つけぬよう節度を
持つ必要がある。国民がそれを冷静に監視すべきことは言うまでもない。


 祖国愛という視座を欠いた言説(げんせつ)や行為は、どんなものも無意味である。
これの薄弱な左翼や右翼は、日本より日中関係や日米関係を大事にする。
これの薄弱な政治家やエコノミストや財界人は、軽々しくグローバリズムに乗ったり、
市場原理などという歴史的誤りに浮かれたりして、祖国の経済ばかりか
文化、伝統、自然を損なって恥じない。
これの薄弱な教師や父母は、地球市民などという、世界のどこでも相手に
されない根無し草を作ろうとする。
これの薄弱な文部官僚は小学校の国語や算数を減らし英語やパソコンを導入する。

 情報化とともに世界の一様化が進んでいる。ボーダーレス社会と囃(はや)される。
各国、各民族、各地方に美しく開花した文化や伝統の花は、確固たる祖国愛や
郷土愛なしには 風前の灯(ともしび)である。

この地球をチューリップ一色にしてはいけない。
一面の菜の花も 野に咲く一輪のすみれもあって地球は美しい。
世界の人々の郷土愛、祖国愛こそが美しい地球を守る。

愛国心という言葉がまったく異質な二つのものを含んでいたことで、この一世紀、
我が国は いかに巨大な損失をこうむったことか。戦後はそのおかげで祖国愛まで失なった。

 現在、我が国の直面する困難の大半は、祖国愛の欠如に帰因 ( 起因 )すると
言ってよいだろう。祖国愛と国益主義を峻別し、すべての子供にゆるぎない祖国愛を
育(はぐ)くむことは、国家再生の急所と考える。

『 祖国とは 国語 』 新潮文庫 90~93頁  藤原 正彦 著 
          講談社 136~139頁


          

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