ヤミ金対策法を元衆院議員に適用 公明ホープらの“業”としての違法仲介とは|TBS NEWS
公明党の遠山清彦・元衆院議員ら4人が、2021年12月、貸金業法違反(無登録営業)の罪で東京地検特捜部に在宅起訴された。「大衆とともに」を掲げ、「政治とカネ」の問題とは一線を画してきたはずの公明党。しかし、元所属議員らが「ヤミ金」の取り締りを念頭にした法律違反で在宅起訴される異例の事態となった。JNNは融資の不正仲介の実態を知る当事者たちを取材。事件の背景が浮かび上がった。 ■特捜部が目をつけた融資をめぐる2つの違法仲介ルート “遠山ルート”と“大物秘書ルート” 特捜部が、公明党の元議員事務所に突如、家宅捜索を行ったのは、2021年の8月。同じ日、遠山元議員が代表を務めていたコンサルタント会社や遠山元議員の自宅などにも相次いで家宅捜索が入った。特捜部の狙いが当初から遠山元議員にあったのは、明らかだった。そして12月、政府系金融機関「日本政策金融公庫」の新型コロナ特別融資を違法に仲介したとして遠山元議員が在宅起訴された。共に在宅起訴されたのは、遠山元議員の支援者で、会社役員の牧厚被告(74)。2人は、貸金業の登録を受けずに、融資を受けたい企業の希望を公庫側に伝えるなど、違法な仲介を行っていた。遠山被告が牧被告と共謀して仲介を行った数は111回。このうち82件は遠山被告単独によるものだった。 さらに、“遠山ルート”とは別の違法仲介にも捜査のメスが入った。今回、合わせて在宅起訴されたのは、「公明の大物秘書」として永田町で知られていた元議員秘書・渋谷朗被告(61)と、コンサルタント業の川島裕被告(78)。この”大物秘書ルート”では、川島被告が融資を受けたい企業を集め、当時議員秘書だった渋谷被告が企業の融資希望を公庫側に伝えていたという。 ■「口利きはない」 遠山被告は当初、正当性を主張 「公明党のホープ」。こう期待されていた遠山被告。財務副大臣を務めたが、2021年2月、緊急事態宣言下に東京・銀座のクラブを訪れていた事が発覚し、議員辞職した。実際、銀座や赤坂などのクラブでの遠山被告の目撃情報は多い。家宅捜索の直後、遠山被告に電話をすると、こんな返答があった。 「融資の相談は、議員になった約20年前から受けていた。お金がない零細企業が政策金融公庫に融資をお願いしたところ門前払いにあった。『遠山事務所でお願いしてくれないか』と言われ、審査の内容は変わらないけど、公庫の担当者を紹介することはあった」 企業に公庫の担当者を紹介することは、以前から日常的に行っていたという。その一方で、融資の仲介については、正当性を主張した。 「コロナになって飲食店や旅館業など、資金繰りで困る企業の数が短期間ですごかった。融資の審査自体は公庫が公平にやっていて、こちらから圧力は一切かけてないです」「ただ、“数が多かったので”貸金業みたいな話になったのかなと思います。『口利き』っていうのは『この会社に貸してやってくれ』ということだと思いますが、それは一切してないです」 また、仲介の対価として「手数料」を受け取っていたかどうかを尋ねると、遠山被告は「知りませんでした」と回答した。遠山被告は特捜部の取り調べに対しても、当初は違法性を否定していたが、関係者によると、その後、一転して違法な仲介に関与したことを認め、起訴内容についても認めているという。さらに仲介の謝礼として業者側から約1000万円を受け取っていたことも判明。この金の一部は、牧被告から銀座のクラブなどで受け取ったという。 ■遠山被告から「一本お願いします」 遠山被告と共謀したとされる牧被告も、在宅起訴の前、複数回にわたってJNNの取材に応じていた。初めて対面したのは、真夏。待ち合わせ場所は、都内の高級住宅が建ち並ぶエリアだ。タンクトップに短パン姿、70代とは思えないカジュアルな服装で取材場所に現れた牧被告は、勤め人とは異なる独特の雰囲気があった。遠山被告とは約6年前に知り合い、金銭面での「支援」を続けてきたという。 「『裏献金』として毎年500万円くらいは渡していた。遠山から『一本お願いします』と言ってくることもあった。一本っていうのは100万円のことな。銀座のクラブやホテルなどで会った時に、現金で『はい』と渡して、向こうは『ありがとう』と。政治家を『応援する』ってそういうことだろ。遠山をなんとか公明党のトップにするまで頑張ろうと思っていただけで、見返りを求めていたわけじゃないんだ」 遠山被告との長年の関係を強調した牧被告。一方、融資の仲介についてはこう話す。 「俺からすれば、コロナで困っている企業から『助けて下さい』と言われて、遠山の事務所を紹介したんだ。融資額の3%くらいを受け取っていたけれど、それが違法だと言われたら、仕方ないかなという感じ」 ■「すごいスピード感」仲介受けた業者 “遠山ルート”の仲介は、どれほどの効果があったのか。このルートで融資を受けた企業の関係者が取材に応じ、とにかく驚いた様子で当時の状況を振り返った。 「牧さんは『コロナ融資で俺が口を聞いてやるから』『政策金融公庫から金をひっぱってやるから』と。『政治家を使って早くするから』というニュアンスの言葉があった」 そして実際に仲介を依頼すると―。 「公庫の融資は何回か面談が入って審査があって、何ヶ月も待たされるイメージでしたが、正直、1か月くらいで数千万円の融資が実行された」「ものすごいスピード感で融資が下りた」「牧被告にはかなりの額の手数料を渡したと聞いています。すぐに融資が下り、会社としても非常に感謝していました」 また、牧被告に会った時の印象についてはこう話した。 「アルバムを6冊持ち歩いていて、自民党の大物議員や人気俳優などと一緒に写った写真を見せられました。遠山さんについても『俺が面倒みている』と話していて、融資の仲介は『1年間で100社以上やった』と言っていました」 ■『元大物秘書ルート』 「手数料は3%」暗躍する仲介者 もう一方の、“大物秘書ルート”とはどのようなものだったのか。公明党元議員の「大物秘書」こと渋谷被告と繋がっていたコンサル業の川島被告に企業を紹介していた男性に話を聞くことができた。 「川島さんから『コロナで資金繰りに困っている企業はないか』と言われ、数十社を紹介しました」「融資仲介の最後に、業者から公庫に電話させるのですが、『議員の名前でお願いしている』と伝えるように、と言われました」 男性はこうした仲介を行った見返りに、企業から融資総額の3%を「手数料」として受け取っていたという。 「手数料は、毎回、川島さんの事務所に現金で持っていきました。川島さんは受け取った現金のうちの2割ほどを私に『交通費だ』と言ってバックしてくれました」 男性は、その現金の行き着く先については把握していなかったという。また川島被告からは「何の問題もないから」と伝えられていて、男性はこうした仲介が違法だとは思っていなかったそうだ。 ■「巨大なピラミッド構造」 仲介関与の男性が証言 さらに私たちは、この”大物秘書ルート”の仲介に実際に関与したという別の男性にも話を聞くことができた。 「私は、川島さんから企業の紹介を頼まれた方から、さらに頼まれて融資を受けたい企業を見つけてくる役割でした。融資の仲介をする人、仲介の仲介をする人…。そんな人たちが何十人といて、まるで巨大なピラミッド構造ですよね」 男性は企業から融資総額の3%を手数料として受け取るように指示されていたが、融資が通った後に手数料の支払いを渋る企業が現れ、その際は自腹での立て替えを余儀なくされたという。 「もともと知り合いの会社など、資金繰りに困った企業を助けられればと思って動いていましたが、自らお金を支払う事態となり、とても続けられないなと思って紹介はストップしました」 元大物秘書の渋谷被告、そしてコンサル業の川島被告を頂点に、何人もの人が関わり、融資の違法仲介をめぐるスキームが出来上がっていたと言える。 ■融資制度の歪み、許されない 中央・地方を問わず、議員の口利きは昔から存在する。ただ、今回の事件は”遠山ルート”、”元大物秘書ルート”、共に仲介の規模が大きく、手数料を受け取っていたことなどから特捜部は立件に踏み切ったとみられる。 ある検察幹部はこう指摘する。「コロナ禍で本当に困っている業者が優先的に融資を受けられるようにするべきで、金を払った業者を優先するのは間違っている」 取材を重ねると、何人かの関係者は「コロナで困っている企業を助けていただけ」と主張したり、融資を受けたい企業を集めていた人々も「あくまでビジネスの一環だった」として違法性の認識の乏しさが目立った。仲介をする者、仲介の仲介をする者…と関わる人数がどんどん増えたことで「融資仲介の全体像が見えていなかった」と話す関係者もおり、その傾向に拍車が掛かったのかもしれない。新型コロナは、多くの中小企業の経営を直撃した。懸命に事業を立て直そうとする企業への融資制度が政治の力で歪められていたとしたら、決して許されることではない。 社会部 司法クラブ検察担当 佐藤浩太郎