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わたしが「軽度外傷性脳損傷(Mild Traumatic Brain Injury)」と診断されたのは、
交通事故から丸7年が経過したある春のことだった。
その後、主治医となるその医師と最初に交わした言葉がわたしは気に入ったのだ。
「軽度」だなんて誤解を生むようなネーミングにした奴に僕は腹が立って仕方ないのです。あなたのように事故からずいぶんと時間が経過して、その時間が決して快復へ結び付いていくわけではないのに、なにが軽度だなんて言えたものかと。
わたしは笑った。
笑うと筋肉が強張っている箇所が鈍痛のように痛んだ。全身の骨が軋むような音をたてた。
けれど、そこに存在する細胞のひとつひとつが、ぱっと花開くように、喜んでいることがわかった。
笑うと気持ちがいい。
笑うと幸せを感じられた。
笑うと生きていてもいいんだよと抱きしめられるような気持になった。
被害者に重く圧し掛かる立証責任は、医師や弁護士などの味方をつくる困難さに、その障壁の高さに途方に暮れる。けれど、必ず道は拓けるときがくる。その時をじっと待ち、その時がやってくるように祈り、その時のために準備を整える。
軽度外傷性脳損傷を生きていくことは決して容易な道だとは思わない。けれど、生きていても悪くはないと思えるときがくる。必ず。