東京メトロの上場初日、1株1630円の初値を付けたことを示す株価ボード(23日午前、東京都中央区)
東京地下鉄(東京メトロ)が23日、東証プライム市場に上場した。個人投資家を中心に買いが集まり、初値は上場前に株を売り出した価格(公開価格)を36%上回った。
売買代金は上場株で首位となり、時価総額は一時1兆円を超えた。
新しい少額投資非課税制度(NISA)の開始後の初の大型上場として、初心者からベテランまで幅広い層の取り込みに成功した形だ。
初値は公開価格(1200円)を大きく上回る1630円。初値を付けた後も上昇し、午前終値は売り出し価格を44%上回る1722円になった。
初値が公開価格をどれだけ上回ったかを示す初値倍率の1.36倍は、JR九州の上場時の1.19倍や15年の日本郵政(1.17倍)を超えた。
午前9時の取引開始直後には取引が成立せず、同10時過ぎに1630円の初値がついた。午前の売買代金は約2200億円と東証プライム市場の中でトップで、2位のディスコに2倍近い差をつけた。IPOの抽選に漏れたり、十分な株数を手に入れなかったりした投資家が買い注文をいれたとみられる。
東京メトロの時価総額は午前終値ベースで1兆円となり、2024年で最大の新規株式公開(IPO)となった。
2016年に上場したJR九州のほか、京成電鉄や小田急電鉄など多くの私鉄を上回る水準だ。
今回のIPOの新規引き受けには34社の証券会社が参加した。
主幹事証券によると、調達予定額に対して投資家の買い需要がどの程度集まったかを示す「応募倍率」は15倍強にのぼった。
投資主体別では個人を中心とした国内の一般投資家は10倍強、国内の機関投資家は20倍強、海外の機関投資家は35倍強に達したという。
個人投資家の理解を深めるために東京メトロの事業内容などを紹介するリーフレットも作成し、引受団34社の合同で専用のホームページも立ち上げた。
松井証券では東京メトロのIPOが呼び水となり、10月の口座開設申込数が前月比およそ50%増のペースで進捗している。
みずほ証券でも想定の3倍の応募があり、東京メトロ株に関する専用ダイヤルを設置しており、個人投資家の需要は高い。
東京メトロの最低投資金額は16〜17万円で、高配当株として人気の高い日本たばこ産業(JT)の42万円などよりも手軽に購入できる。
GCIアセット・マネジメントの池田隆政シニア・ポートフォリオ・マネジャーは「東京メトロ株は新NISAでも買われているNTTのような人気銘柄となる可能性がある」と話す。
評価されているのは成長性よりも、事業の安定性だ。24年3月期の営業利益率は20%と他の私鉄よりも高収益を誇る。
配当性向は4割以上を掲げており、23日午前終値から算出した配当利回りは2.3%でJR東日本の1.7%やJR東海の1%を上回る。
サラリーマン投資家のJACKさん(ハンドルネーム)は「東京メトロは知名度が高く、個人からも国内外の投資家からも買い需要が見込まれる」として、上場前に5000株弱を手に入れたが、一時的に調整した局面では追加購入も視野に入れる。
株主優待も個人投資家をひき付けている。3、9月末に200株以上保有していると、片道切符を所有株数に応じてもらえる。1万株を保有すれば全線乗り放題だ。優待狙いの投資家も多く、都内在住の40代女性は「株主優待が魅力で、株価が1600円台の間に3000株を買った」と話す。
著名個人投資家で上場前に4万株を購入した夕凪さん(ハンドルネーム)は「今後も東証株価指数(TOPIX)への組み入れなどによる国内外の機関投資家の買いが期待できそう」として、しばらく保有する意向を示す。
NTTや日本郵政など政府の売り出しを伴う大型IPOで、上場後に株価が長期に低迷した事例もある。個人は保有株に含み損を抱え、その後の投資行動にも影響を与えた。東京メトロは安定的な増配や成長戦略の実行によって、個人株主の期待に応え続けることが重要になる。
(大越優樹、上田志晃)