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HDD容量増の切り札「熱アシスト」、3D化で限界突破

2024-09-20 13:13:45 | エレクトロニクス・自動車・通信・半導体・電子部品・素材産業

熱アシスト記録によって、HDDの容量が再び大きく伸び始めた(出所:シーゲイトの資料を基に日経クロステックが作成)

熱アシスト記録によって、HDDの容量が再び大きく伸び始めた
(出所:シーゲイトの資料を基に日経クロステックが作成)

 

「熱アシスト記録」の概要(出所:日経クロステック)

「熱アシスト記録」の概要(出所:日経クロステック)

 

 

一般に、ハードディスクの面記録密度を高めるためには、ディスク媒体中の磁性粒子を小さくする。それに伴い記録ヘッドの幅を狭める。

ところが、磁性粒子が小さいほど「熱揺らぎ」への耐性が低下し、記録後のデータを失う恐れがある。

 

この課題を回避するには、熱安定性の高い、すなわち「保磁力」が大きい磁性材料を利用すればよい。

だが、幅の狭い記録ヘッドから発生する磁界は弱いので磁化が反転しにくく、保磁力が大きいディスク媒体にデータを書き込みにくい。

 

 すなわち、「微細な磁性粒子構造」「耐熱揺らぎ性能」「磁化のしやすさ」の3つを満たさなければならない。これが難しい。いわゆる「磁気記録のトリレンマ」である。

 この課題を解決するために、熱アシスト記録ではデータ書き込み時にレーザー光でディスク媒体を局所的に加熱する。これにより保磁力が一時的に低下するので、幅の狭い記録ヘッドからの弱い磁界でも磁化を反転させることができる。

 

 熱アシスト記録によって、「面記録密度」と呼ばれる、ハードディスク1枚(1プラッター)当たりに記録できるデータの密度を大幅に高められる。

同じディスク枚数でHDD(ハード・ディスク・ドライブ)を構成すれば、HDDの容量を増やせる。面記録密度を高めることで、記録する単位データ量当たりの単価や消費電力を下げやすい。同じ記録容量であれば、用いるハードディスクの枚数が減るのでHDDのコスト削減にもつながる。

 

 ストレージ装置を配置するスペースの削減にもつながる。

データセンターにおける大容量ストレージ装置では、HDDを多数利用する。1つのHDDの容量が増えれば、同じストレージ容量を達成するのに、少ないHDDで済むので配置スペースを削減できる。

 

 

シーゲイトがついに製品を発売

熱アシスト記録は、20年以上前からハードディスク業界で研究開発されてきた。ここにきてようやくHDD製品に採用された。

採用を明言しているのは米Seagate Technology(シーゲイト・テクノロジー)だ。同社は熱アシスト記録を採用した3.5型HDDを製品化し、2024年4~6月期に少量出荷を始めた。

2025年中ごろから大量に出荷する見込みだ。

 

シーゲイトはHDD製品に熱アシスト記録を採用した(写真:日経クロステック)
シーゲイトはHDD製品に熱アシスト記録を採用した(写真:日経クロステック)

 

 

 HDD大手は、シーゲイトと、東芝傘下の東芝デバイス&ストレージ、米Western Digital(ウエスタンデジタル)の3社である。

このうち、東芝デバイス&ストレージも、熱アシスト記録の実用化に取り組む。

 

熱アシスト記録を採用したHDDを2025年にサンプル出荷する予定だ。

同社は既にエネルギーアシスト記録の1種である「マイクロ波アシスト記録(MAMR)」をHDD製品に採用済みである。

 

シーゲイトが熱アシスト記録に集中する一方で、東芝デバイス&ストレージは熱アシスト記録とマイクロ波アシスト記録の両方を手掛ける方針だ。

 

 ウエスタンデジタルは、「ePMR」と呼ぶ、独自のエネルギーアシスト記録をHDD製品に導入済みだが、熱アシスト記録の研究開発にも力を注ぐ。

2023年5月、物質・材料研究機構(NIMS)と熱アシスト記録に関連する材料研究を共同で行うと発表した。NIMSは磁気材料に関する研究成果やノウハウを豊富に有する。

 

 

ソニーがレーザーを供給

 熱アシスト記録で大きく変わるのが、半導体レーザーを利用することだ。

そのため、半導体レーザーメーカーにとって、新しい事業機会になる。

 

そのチャンスをものにしたのが、ソニーグループ(ソニーG)傘下で半導体事業を担うソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)だ。

同社の半導体レーザーがシーゲイトの熱アシスト記録に採用された。

 

SSSの代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の清水照士氏によれば、熱アシスト記録用の半導体レーザーをシーゲイトと共に10年以上かけて研究開発してきたという。

 ディスク媒体にも新技術が必要になる。例えばシーゲイトは、熱アシスト記録のHDDで「超格子プラチナ合金メディア」と呼ぶディスク媒体を導入した。

 

従来のコバルト白金合金系の媒体に比べて保磁力を10倍以上に高めたという。シーゲイトはサプライヤーを明かしていないが、レゾナックとみられる。

2021年6月にレゾナックの前身である昭和電工は、シーゲイトと熱アシスト記録向けのディスク媒体を共同開発する契約を締結したからだ。

 

 

4Tビット/(インチ)2に壁

現在のハードディスクの面記録密度は、平方インチ当たり1.5T(テラ)ビット(1.5Tビット/(インチ)2)とされる。

これまでハードディスクの面記録密度は、10年近く停滞気味だった。熱アシスト記録で再び面記録密度が向上し、ハードディスクの容量が増えていく。

 

シーゲイトによれば、HDDの記録容量が2倍になるまでこれまで9年ほどかかっていたという。

熱アシスト記録によって、約4年で記録容量が約2倍というペースで増えていく見込みである。

 

具体的には、3.5型ディスク1枚当たりの記録容量は2025年ごろに4Tバイト、2027年ごろに5Tバイトに達するという。

ただし、熱アシスト記録だけで今後も面記録密度が伸び続ける保証はない。熱アシスト記録を含めた既存技術では、約4Tビット/(インチ)2を境にして、伸びのペースが落ちると見られている。

 

面記録密度を上げ続けるには熱アシスト記録以外の技術も求められる(出所:米Advanced Storage Research Consortiumの資料を基に日経クロステックが作成)

 

そこで、ディスク媒体に利用する新しい磁性材料の開発や、新たな記録方式の研究開発が進んでいる。基本的に、熱アシスト記録と組み合わせて利用するのが前提だ。

 このうち、有望な技術の1つが、「3次元(3D)記録」である。現在は2次元的に記録層にデータを書き込んでいるが、3D記録では記録層を3次元的に積層することで、多値化して記録密度を大幅に増加させる。

 

10Tビット/(インチ)2級を狙える技術と位置付けられている。例えば、NIMSやシーゲイト、東北大学の研究グループが、3D記録の研究に取り組む。

同グループは、書き込みレーザーの出力の調整により3Dの多値記録が可能なことを実証したと2024年3月に発表するなど、成果を出している。

 

 

NIMSなどの研究グループは3Dの多値記録が可能なことを実証した(出所:NIMS)

 

NIMSなどの研究グループは3Dの多値記録が可能なことを実証した(出所:NIMS)

 

 

 

日経記事2024.09.20より引用

 

 

 

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