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若手企業に「第2の死の谷」 マネー届かず成長ストップ

2024-08-10 18:12:09 | 日本の企業・世界の企業、ビジネスマン、技術者
【この記事のポイント】
 
・日本の若手企業は上場後の成長が鈍い
・資金難で小粒のまま上場を急ぐ傾向も影響
・大手から新興企業への資金再配分が課題
 
 
 

日本の若い企業は成長に必要な資本が足りない。年率の売上高成長率をみると米欧の半分以下だ。

米国の資本市場には、カネ余りの上場企業から資金が足りない未上場の有望スタートアップに資本を再配分する機能が備わる。資本の流れが変われば日本経済の底上げにつながる。

 

株式上場から6〜10年の「若手」上場企業の売上高成長率をみると、日本勢は直近5年間の実績が年率3.5%どまりだった。米欧の半分にも満たない。

上場から11年以上の「ベテラン企業」と成長力を比較すると米欧は若手に軍配が上がるが、日本の若手はベテラン勢に劣る。

 

 

 

米欧に比べ日本の若手企業が伸び悩む理由に「第2の死の谷」の存在がある。

多くのスタートアップは製品・サービスの立ち上げと収益化に苦労する最初の「死の谷」を経験する。日本企業はそこを乗り越えても別の「谷」に直面する。上場後に資金調達できず、成長が止まる現象だ。

 

未上場企業に資金を供給するリスクのとれる投資家層が薄いことが問題の根底にある。日本のスタートアップは未上場の段階で調達できる資金は限られ、創業から早い段階で上場を目指さざるをえない。ところが、「小粒」で上場すると、今度は年金基金などリスクに敏感な上場株の投資家に敬遠されてしまう。

 

サイバーセキュリティーを手掛けるCapy(東京・千代田)の岡田満雄最高経営責任者(CEO)は「日本で上場したらそこで終わってしまう」と考え、創業した米国に籍を戻そうと準備中だ。

米国は投資家の数も資金量も桁が違う。未上場段階では思い切った投資で赤字になっても許容する文化があるという。

 

日米有力スタートアップの軌跡を比較すると分かりやすい。フリマアプリ大手メルカリは創業6年目の2018年に上場した。

上場理由の一つが米国への投資だが、米国事業は赤字が続き、一時1兆円を超えた時価総額は現在、3400億円に減った。米国への追加投資は難しくなり、24年6月に現地従業員の一時解雇に追い込まれた。

 

米民泊仲介エアビーアンドビーは08年の創業から12年間、株式を公開しなかった。未上場でも、年金や財団などから出資を受けたベンチャーキャピタル(VC)が必要な成長資金を提供してくれたからだ。

リスク許容度の低い株主の圧力を受けずに海外への先行投資を続け、成長基盤を確立した。時価総額は700億ドル(約10兆円)に達する。

 

米国の資本市場には成熟した上場企業から成長余地のある未上場企業へ資金を橋渡しする機能が備わる。

上場企業はカネ余りだ。資本効率を求める株主に対し、過去5年間に自社株買いと配当で8兆ドルを実施した。株式発行による資金調達額は8700億ドルにとどまる。差し引きで上場企業が投資家に資本を返している状態だ。

 

返還された資本はVCやプライベートエクイティ(PE)を通じて未上場企業に再配分される。過去5年間の投資額は3兆ドル。これは上場企業の純利益の4割に相当する。

 

 

 

早稲田大学の宮島英昭教授は「日本は銀行が資金を提供する金融のあり方から転換する過程にあり、年金などの未公開株投資は緒についたばかり」と指摘したうえで「定着には20年かかる」とみる。

変化の兆しはある。運用会社は非上場と上場の双方に投資できる投資信託を開発中だ。三井住友DSアセットマネジメントの竹田義治プロダクトマネジメント部長は「非上場と上場の分断を埋めたい」と話す。

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スタートアップから「政府の『スタートアップ育成5カ年計画』もあり、資金調達がしやすくなった」(植物由来の「粉末卵」を開発するUMAMI UNITED JAPAN=東京・渋谷=の山崎寛斗代表取締役)との声も聞かれる。

日本の上場企業には過去最高水準の手元資金が滞留しており、お金はある。再配分機能が定着すれば、経済の新陳代謝は進む。

 

 

規模の大きなスタートアップ、育ちにくく


デロイトトーマツベンチャーサポートの木村将之最高執行責任者(COO)

日本のスタートアップの中には、上場審査を通過できるギリギリの水準を狙って売上高や利益のゴールを設定し、最短で上場する道を選んでしまう企業もある。

余裕がないまま上場してしまうため、「第2の死の谷」につかまりやすい構造だ。上場するまではVCや証券会社が会社を成長させようとビジネスに関わってくれるが、上場後にサポーターがいなくなり、さらに成長の方向性を見いだしにくくなることもある。


米国では対象とするビジネス規模が小さい場合に、上場ではなくM&A(合併・買収)を志向する傾向がある。複数回のM&A経験の後に大きいビジネスを生み出す起業家もいる。
日本では相対的に、上場のハードルが低いためM&Aをやるインセンティブもない。

(南泰葉、野口知宏、グラフィックス 貝瀬周平)

 

 

 

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

 

 

蛯原健のアバター
蛯原健リブライトパートナーズ 代表パートナー
 
別の視点

この議論は繰り返しなされているものでかつ鶏と卵の性質も無くはないですがしかし敢えて言うならやはり事業、事業性が最初に来るのであってお金(投資家)はそれがありさえすればやって来るというのが本質と考えます。

実際上場後の公募増資とは言わずともデットファイナンスでの調達をもっとやれば良いものをそのようなケースも極めて限定的である事は必ずしも資金不足が成長性を阻害しているのではなくその逆であるという議論も一定程度成り立ち得るでしょう。

またこの問題が日本のみに存在する直接的かつ最大の理由は記事でも言及される小粒・早熟上場である事も資本市場関係者にとってはもはや自明のファクト、つまり答えが出ている話です。

 
 
 
 
 
チャートは語る

日本経済新聞社はデータ分析を強化します。「チャートは語る」では様々なデータの分析で経済や市場、企業などの潮流を浮き彫りにします。

 
 
 
 
日経記事2024.08.10より引用
 
 
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