上場企業中心に比較可能な422社を対象に集計した(7月2日時点)。伸び率は新型コロナウイルス禍の反動増となった22年(11.29%)に及ばないが、前年(2.54%)を上回った。
業種別では全31業種の8割超にあたる26業種で支給額が前年を上回った。昨年はプラスが6割超だった。
24年の春季労使交渉では主要企業の平均賃上げ率(定昇含む)が5.1%(連合最終集計)と33年ぶりに5%を超えた。基本給の増加がボーナスを押し上げた。
調査対象の7割超を占める製造業は2.95%増で前年(0.34%増)より大幅に伸びた。非製造業は5.55%増で前年(8.68%増)を下回ったが、依然水準は高い。
産業別では繊維(12.78%増)やゴム(11.38%増)など7業種が2ケタの伸びを示した。原材料高を価格に反映させて収益性を改善した企業が目立つ。セーレンは26.23%増の98万円。24年3月期は主力の車両資材事業が好調で過去最高益となり、伸び率も昨夏(8.57%増)から大幅に拡大した。タイヤの価格転嫁を進めた横浜ゴムは20%増の87万円だった。自動車・部品(8.74%増)も大きく伸びた。
ボーナス増額の意欲が強かったのが従業員数300人未満の中小企業だ。平均支給額は71万3955円で、伸び率7.84%は比較できる02年以降で最高となった。規模別(9区分)で見て、この伸びを上回ったのは3万人以上の回答企業(9.90%増)だけだった。
東京自働機械製作所の189万385円、ADワークスグループの143万3711円、日本伸銅の140万3258円などが大手の上位に匹敵する支給額となった。
中小企業も春の賃金交渉で賃上げを実現したが、その率は大手を下回っていた。人材確保への危機感は強く、ボーナスの底上げが必要と判断した企業が多かったとみられる。みずほリサーチ&テクノロジーズの西野洋平エコノミストは「大企業との人材獲得競争を視野に入れた防衛的な引き上げだ」と指摘する。
賃上げが中小に浸透してきたとはいえ、個人消費を拡大させるかは不透明だ。円安が定着し、エネルギーや食料品の価格が高止まりするなか、物価上昇分を加味した実質賃金は5月まで26カ月連続で前年を下回る。実質賃金がマイナスとなる期間としては過去最長だ。
日本経済研究センターが6月下旬〜7月上旬に実施した調査では、主要民間エコノミスト35人の6割超が実質賃金がプラスになる時期を10月以降と予測。4割弱は25年以降と見ている。
家計の防衛意識は根強い。内閣府が発表した24年1〜3月期の個人消費は4四半期連続で前年を下回った。4四半期連続減はリーマン・ショック時の08〜09年以来。5日発表の5月の家計の消費支出も2カ月ぶりに前年割れした。米国など主要国との金利差は依然として大きく円安基調が続くなか、消費者心理の改善は見通しにくい状況だ。
賃金に詳しい法政大学の山田久教授は「支給額の変動が大きいボーナスは貯蓄に回る傾向が強い。個人消費の回復には、25年以降も基本給の持続的な引き上げが不可欠だ」と指摘する。
調査の方法 日経リサーチの協力を得てアンケート方式で実施した。対象は上場企業と日本経済新聞が選んだ有力な非上場企業で、合計2248社。今回の集計は7月2日までの回答を基にしており、回答企業数は694社。そのうち集計可能な422社で算出した。回答内容は企業によって平均年齢が異なるため、
①組合員平均
②従業員平均③特定の年齢を対象にしたモデル方式――の3つから選んだ。
分析・考察
そもそも昨年の賃金構造基本統計調査でも、企業規模別の一般労働者所定内給与を見ると、最も前年比で上昇率が高かったのが小企業で続いて中企業となり、むしろ大企業では前年比マイナスでした。
背景には、元々相対的に賃金水準が低い中小企業では人手不足が深刻で、人材確保のために賃上げを余儀なくされているということでしょう。
一方の大企業でも、若年層の賃金は大きく上がっていますが、30代後半から50代前半のボリュームゾーンでは賃金が下がっているため、全体が減っている構図です。
こうしたことからすれば、中小企業への賃上げ波及に加え、ボリュームゾーンとなる就職氷河期世代の賃金引き上げも課題と言えるでしょう。
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ひとこと解説
中小企業の夏のボーナスの伸びが大企業よりも高くなったのは、中小企業の経営状況が「楽」だからではない。
大企業よりも懐具合に余裕がなく「苦しい」ことから、ベアを含む所定内給与(基本給)の伸びは抑制しつつ、その代わりとしてボーナスを多くつけようとしたのだろうと推測される。
基本給を増やすと、たとえ残業時間が同じでも、残業代の支払額は連動して増えることになる。
また、企業が負担する分の各種社会保険料も、重くのしかかる。
さらに、ベアをつけるということは賃金カーブが上方シフトするということであり、将来にわたって賃金支払額が増えることを意味する。人材をつなぎとめるため、ボーナスでやむなく「色をつけた」のだろう。
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賃上げは賃金水準を一律に引き上げるベースアップと、勤続年数が上がるごとに増える定期昇給からなる。
2014年春季労使交渉(春闘)から政府が産業界に対し賃上げを求める「官製春闘」が始まった。
産業界では正社員間でも賃金要求に差をつける「脱一律」の動きが広がる。年功序列モデルが崩れ、生産性向上のために成果や役割に応じて賃金に差をつける流れが強まり、一律での賃上げ要求の意義は薄れている。
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