9月20日、米バージニア州フェアファクスで期日前投票をする有権者=共同
【ワシントン=芦塚智子】
11月5日の米大統領選に向けて、共和、民主両党の投開票の手続きを巡る訴訟合戦が激しさを増してきた。
接戦でわずかな票の流れが勝敗を左右しかねない状況のなか、投開票を少しでも有利に進めたい思惑がある。
両陣営は多くの選挙監視員や弁護士を投開票所に送り込む方針で、投開票後に司法を巻き込んだ混乱がさらに広がる恐れもある。
大統領選の激戦州である南部ジョージア州の裁判所は15日、各郡に手作業による票数の確認を義務付ける新規則について一時的に差し止めを命じた。ロイター通信などが報じた。
新規則は2020年の大統領選で大規模な不正があったと主張するトランプ前大統領派の同州選挙管理委員が導入を強行した。
郡の選挙管理委員会に選挙結果を調査する権限を与える新規則も導入した。
民主党は新規則が混乱や結果判明の遅れを招くとして州の裁判所に無効にするよう求めていた。
民主は、これらの新規則は返り咲きを目指すトランプ氏が敗北した場合に選挙結果を覆そうとする企ての一環だと警戒する。
民主系の人権団体などは、投票の際の米国市民権の証明義務付けや郵便投票の規制強化などに反対する訴訟も起こしている。
一方の共和党は8日、激戦州である南部ノースカロライナ州と中西部ミシガン州が州に居住したことがない海外在住者に違法に投票を許しているとして、それぞれの州の裁判所で州を提訴したと発表した。東部ペンシルベニア州に対しても共和議員が同様の訴訟を連邦地裁に起こした。
共和は「選挙の不正を防ぐ」として100件以上の訴訟を起こしている。南部ミシシッピ州では郵便投票を巡り、投票日から5日後の到着分まで受け付ける同州法について、投票日より後に届いた票を無効にするよう訴えた。連邦地裁は訴えを退けたが共和が控訴し、連邦控訴裁が審理している。
同州と同様に投票日の後に届いた票を受理する州は約20ある。訴訟が連邦最高裁に持ち込まれれば、他州にも影響が及びかねない。共和には、民主の方が強い郵便投票を制限したい思惑がある。
このほか西部ネバダ州やノースカロライナ州では米国市民でない者が有権者登録しているとして排除を求めた。
これらの訴えが大統領選の直前に認められれば、各州の選挙運営が混乱しかねない。
訴えが却下されても、大統領選が僅差になれば選挙結果に異議を唱える根拠に利用される可能性がある。
投開票後、訴訟合戦がさらに激しくなる可能性もある。
トランプ陣営は4月、10万人の監視員や弁護士を激戦州の投開票所に派遣すると発表した。「20年の民主党の手口は今回は通用しない」と強調した。
民主党の大統領候補であるハリス副大統領の陣営も「投票者の保護」のため、監視員や弁護士のボランティアを募っている。
00年の大統領選は共和のブッシュ候補と民主のゴア候補が争い、ブッシュ氏が僅差で上回った南部フロリダ州の得票再集計の是非を巡って1カ月以上法廷闘争を繰り広げた。
最後は連邦最高裁が公平な再集計を期限内に完了するのは不可能との判断を下し、ゴア氏が撤退を表明して決着した。
20年の大統領選でも、トランプ陣営が敗北した結果を覆そうとして60件以上の訴訟を起こして敗訴した。
今回も敗北した候補が投票結果の認定などを巡って最高裁に判断を求めることも考えられる。
22年に成立した「選挙人集計改革法」は、州による選挙結果認定への異議申し立ては連邦判事が迅速に審理し、米大統領選の勝敗を正式に決める12月の大統領選挙人投票までに最高裁が最終判断を下すよう定めている。
トランプ氏が当選した場合、トランプ氏には大統領に就任する資格がないとの訴えが起きる可能性もある。
憲法修正14条3項は議員や公務員が米国に対する反乱や反逆に関わった場合、再び公職に就くことを禁じる。
共和の大統領候補を選ぶ予備選の際に、リベラル派団体などがトランプ氏による連邦議会占拠事件への関与が「反乱」にあたると主張して出馬資格がないと訴えた。
最高裁は3月、州が大統領選への参加資格を決めることはできないとして出馬を認める判断を出した。ただ、連邦議会の議員などが新たに訴訟を起こすことは可能とみられている。
最高裁は保守派6人、リベラル派3人と大きく保守に傾いている。前会期ではトランプ氏に刑事訴追からの一定の免責を認める判断などを下した。
選挙を巡る訴訟が頻発したり長引いたりすれば、大統領選の結果確定が遅れるだけでなく、有権者の不信や陰謀論の拡散を招きかねない。
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日本だと、あらかじめ定められているルールを守ろうとします。
ですので、このような問題は起きにくいのですが、アメリカは「ルールは自分たちに有利なものにつくるもの」という意識が強いので、こういうことが起きるのですね。
とかく日本は貿易でもスポーツでも「既定の国際ルール」を守ることに熱心で、その結果、成果を上げると、アメリカなどがルールを変えてしまうということが起きています。
それがアメリカ国内で起きると、こうした混乱につながるのですね。
こういう情勢を見るとウンザリしますが、「ルールは自分たちに有利につくるもの」という発想の一端は、日本も見習った方がいいこともあるように思えます。
米国の大統領選の粗いルール設定、候補者や政党の良識に頼る選挙結果の決定方式がかつてない試練に直面していると思います。
先日ワシントンで会った複数の識者も、両陣営なかでもトランプ陣営が開票以降の訴訟に向けた「仕込み」に大変熱心だと真剣に憂慮していました。
投開票日の11月5日から数日で選挙結果が確定するならまだよい。
法廷闘争が長引き集計期限ぎりぎりまで結果が確定しない可能性は十分ある、さらに集計期限までに結果が確定せず連邦議会が大統領を選出する展開も否定できないとのこと。
そうなれば1824年以来の異例の事態。米国の民主主義への信頼も大きく傷付くことは避けられないと思います。
共和党が支配する州では、投票アクセスを制限しようとする組織的な取り組みが行われていることを認識することが重要です。
これには、投票できる人を制限したり、投票所や投票箱の設置場所を減らしたり(特に低所得者層や少数派が多い地域で)、数千人の「非活動的」とされる有権者を選挙人名簿から削除することが含まれます。
これは、投票不正を防ぐ名目で行われていますが、統計によると投票不正はほとんど存在していません。
実際の意図は、おそらく民主党支持者である可能性が高い有権者の投票を抑制することにあるようです。
2024年に実施されるアメリカ大統領選挙に向け、ハリス副大統領やトランプ氏などの候補者、各政党がどのような動きをしているかについてのニュースを一覧できます。データや分析に基づいて米国の政治、経済、社会などに走る分断の実相に迫りつつ、大統領選の行方を追いかけます。
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日経記事2024.10.17より引用