【ニューヨーク=川上梓】日本製鉄は6日、米鉄鋼大手USスチール買収を巡り不当な政府介入があったとしてバイデン米大統領らを提訴したと発表した。
買収中止命令を無効にして再審査を求める。米政府への訴訟に加え米鉄鋼会社クリーブランド・クリフスと同社最高経営責任者(CEO)、全米鉄鋼労働組合(USW)会長も買収妨害行為で訴えた。
米国大統領を日本の大企業が訴えた事例は過去になく、買収の行方は司法の場に移る。
日鉄は7日午前に東京都内で記者会見を開く。日鉄が不当な介入があったと主張するのは、3日にバイデン氏が阻止命令を行った日鉄のUSスチール買収計画に関する審査だ。
当局の審査に「違法な政治介入」と主張
日鉄による買収は大統領の諮問機関である米国の省庁横断組織「対米外国投資委員会(CFIUS)」が審査してきた。
CFIUSは外国企業による対米投資に経済安全保障上の懸念がないかを審査する機関だ。日鉄は買収の審査が米国憲法上の正しい手続きに違反し、違法な政治的介入があったと主張している。
提訴は6日付。日鉄と日鉄米子会社、USスチールの3社がCFIUSとバイデン氏、CFIUS議長のイエレン財務長官、ガーランド司法長官の4者を相手取り、米連邦控訴裁判所に提起した。
日鉄は労働組合を支持基盤とする民主党のバイデン氏が2024年の米大統領選でUSWの支持を得て勝利するという自分の政治的目的を達成するために法の支配を無視したことを訴訟の根拠とした。
バイデン氏がCFIUSによる審査に不当な影響力を行使したとしている。
一般的なルールで与えられている回答期限が短縮され、日鉄側の主張にコメントをせずに実質的に協議の機会がないなど不合理なプロセスも訴訟の根拠とする方針だ。
労組とライバル社も提訴
さらに日鉄は米政府に対する行政訴訟に加え、買収を妨害しようとしたとしてクリーブランド・クリフス、同社のゴンカルベスCEO、USWのマッコール会長を相手取りペンシルベニア州西部地区連邦地方裁判所に提訴した。
日鉄はクリフスが北米鉄鋼市場を独占するための違法な企ての一環として、USW執行部と共謀し買収を阻止しようとしたと主張。
これらの行為の証拠はバイデン氏らへの行政訴訟の論拠になるともみている。行政訴訟と並行して証拠を集めるための民事訴訟を組み合わせる複数訴訟の形式を取るのは異例だ。
クリフスは米鉄鋼2位の大手で当初はUSスチール買収に名乗りを上げていたが、日鉄に競り負けた。
日鉄が買収すれば、USスチールが競争力を持つことを恐れたクリフスが買収を阻止するため、日鉄に対する組織的な中傷や日鉄が主張していない虚偽の発信を繰り返すなど「反競争的かつ組織的な違法活動を行った」としている。
日鉄は買収を阻止したいクリフスとUSWが、バイデン氏との間で、「日鉄による買収を阻止すれば大統領選での支持を表明することで合意する」など複数のやり取りをしていた証拠があるとみている。日鉄は裁判でこうした行為を差し止める命令を裁判所に要求するほか、数十億ドルの損害賠償を求めた。
米大統領令を巡る裁判では14年に中国の三一重工傘下の米国企業による風力発電所の買収案件で企業側が勝訴した事例がある。
買収中止の大統領命令が出た場合、30日以内に計画を破棄する必要がある。日鉄は米司法省に対し、訴訟している間は中止命令の効力を発効できないように差し止め請求する方針。中止命令の停止を裁判所に求める。
日鉄の森高弘副会長兼副社長は「USスチールの株主を含む全てのステークホルダーの利益のために米国事業を決して諦めず、法的権利を守るためにあらゆる措置を追求する」と話した。
訴訟を行う背景について「政治的介入や組織的な違法行為、独占的な共謀に屈せず、買収を完了させるという変わらぬ決意を示した」とコメントした。
2023年12月18日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを買収すると発表しました。買収額は約2兆円で実現すれば日米企業の大型再編となりますが、米国で政治問題となり、バイデン大統領は25年1月3日に買収中止命令を出しました。最新ニュースと解説をまとめました。
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