日鉄のUSスチール買収について地元などから買収成立を望む声が上がっている
日本製鉄によるUSスチール買収計画の可否の最終判断がバイデン米大統領に一任されることが決まり、買収成立を訴える声が上がっている。
23日(日本時間24日)にはUSスチールが製鉄所を構えるペンシルベニア州内の市長ら20人が連名で強い支持を表明。22日には同社の最高経営責任者(CEO)も「中国はこの取引の失敗を望んでいる」と買収成立の必要性を訴えた。
「日鉄は未来を実現する必要な命綱を提供している。政治やたった一人の組合長の不合理な行動のためにこの機会を無駄にはできない」。
ペンシルベニア州のブラドックやクレアトン、ウェストミフリン、インディアナ州のゲーリーなど20の自治体の市長らが署名入りでバイデン氏に送った書簡にはこう書かれていた。
「たった一人の組合長」とは買収計画に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長を指す。
マッコール氏は民主党の支持基盤のUSWのトップを務め、直近の大統領選では民主党を支持した。マッコール氏の主張はバイデン氏の買収計画に反対する根拠になっているとみられる。
書簡によると、USスチール拠点の立地地域では、工場の存続を目指す日鉄の方針は住民から圧倒的に支持されているという。
このため市長らは先週、マッコール氏を日鉄との協議の場に戻したものの、マッコール氏は新たな協約についての交渉に応じようとすらしなかった。
同氏は、協議のために市長らと同じ部屋にいる間にUSWへ指示して「協議には進展がなかった」と題したプレスリリースを出すなどした。
マッコール氏の行動に市長らは「労働者を代表することを断った人物の助言を受けるのはあなたの評判へのリスクになりうる」などとバイデン氏に訴えた。
USスチールのデビッド・ブリットCEOは22日に、米ニューヨーク・タイムズに寄稿した。「この取引が実現すれば従業員の雇用はより安定し、顧客はよいサービスを受けられる。
世界の鉄鋼生産における中国の支配力は弱まる」と意義を強調した。
ブリット氏は「USスチールのような象徴的な企業の売却は深い感情をかき立てることは理解できる」としつつ、現在のUSスチールは世界24位の鉄鋼メーカーで「もはや業界のリーダーではない」と記した。
さらに「日鉄なしでは高炉などの従来施設に投資する資金はない。買収計画がなくなれば非組合員による南部の電炉に集中する戦略に戻る」と強調した。
買収への訴えは12月中旬から本格化した。日鉄のアドバイザーを務めるマイク・ポンペオ元国務長官も13日に米ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し「地元の鉄鋼施設に27億ドル(約4200億円)を投資する日鉄の提案は、中国の貿易戦略に対抗してUSスチールの競争力を高めることを可能にする」と主張した。
足元では日鉄の森高弘副会長兼副社長も米国に滞在しUSスチールの従業員との対話やロビイングを続けている。12日にはUSスチールの製鉄所のあるゲーリー市の市長と記者会見して買収による地域への波及効果を説明した。
また同日、買収に賛同するUSスチールの従業員約300人がペンシルベニア州のクレアトン工場で集会を開いた。
2023年12月18日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを買収すると発表しました。買収額は約2兆円で実現すれば日米企業の大型再編となりますが、米国で政治問題となり、先行きが注目されています。最新ニュースと解説をまとめました。