AIで使う半導体はエヌビディアが設計し、TSMCが生産する「二人三脚」で成長をけん引している
【台北=龍元秀明】
半導体市場のけん引役がスマートフォンから人工知能(AI)に代わった。
世界最大の半導体受託生産会社(ファウンドリー)である台湾積体電路製造(TSMC)が18日発表した2024年1〜3月期決算は売上高・純利益ともAI向けが好調で同期として過去最高だった。大口顧客である米エヌビディアとの「最強タッグ」が市場の再成長をけん引する。
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日本時間の午後3時からのTSMCのオンライン決算会見はハプニングから始まった。半導体景気の先行きを占うTSMCの決算にアクセスが集中。「ウェブサイトの問題」(TSMC)により配信が一時中断し、午後3時30分ごろに再開した。
世界の投資家に注目されたTSMCの決算は、1〜3月期の純利益が前年同期比9%増の2254億台湾ドル(約1兆円)、売上高は17%増の5926億台湾ドルだった。23年末まで半導体市況の低迷に苦しんだが、4四半期ぶりの増収増益となった。
TSMCの魏哲家・最高経営責任者(CEO)は「AI向けの半導体はこの先数年間、成長の最大のけん引役になる」と語った。
4〜6月期について、米ドルベースで前年同期比25〜30%の増収になるとの業績予想も示した。
24年12月期通期は「20%台前半から半ばの増収」との従来予想を維持した。下半期にかけて増収が続く見通しで、TSMCは再び成長軌道に乗る。
反転攻勢を支えるのは、生成AI向け半導体の設計・開発で躍進するエヌビディアだ。TSMCは1990年代からエヌビディアと密に取引し、現在の主力製品「H100」「H200」などの生産を独占的に手掛ける。
設計・開発のエヌビディアと相互依存
TSMCは半導体の受託生産の最大手で世界シェア6割を占める。特にAIで用いる最先端の半導体の生産はTSMCが市場をほぼ寡占している。エヌビディアはAI向け半導体の世界シェアが約8割ある。
AI向け半導体を設計・開発するエヌビディアと生産を担うTSMCが相互に依存しながら、AI向けの半導体市場を二人三脚で広げている構図だ。
成長の主役の交代は、TSMCの業績が裏付ける。用途別の売上高をみると、AI関連のサーバーを含む「HPC」向けが46%と、スマホ向け(38%)を大きく上回った。
TSMCは年間売上高の4分の1を米アップル向けが占めるなど、スマホ向けを収益の柱としてきた。
スマホは普及が一巡し、買い替えサイクルは長くなった。市場は成熟し、大きな成長を見込みづらくなっている。
米調査会社IDCによると、スマホの世界出荷台数は24年に前年比2.8%増の12億台となる見通しだ。過去10年で最低だった前年から回復するが、直近ピークの21年(約13.6億台)は遠い。
半導体市場の主役、スマホからAIに交代
入れ替わるように登場したのが生成AI向けのサーバー需要だ。
魏氏によると、サーバーに搭載されるAI向け半導体は24年にTSMCの売上高の10%台前半を占める見通しだ。23年比で2倍以上となる。同比率は28年までに20%以上に達するという。スマホやパソコン向けは回復途上のなか、AI向けの高単価の先端品が成長を支えている。
サーバーを大量に使うデータセンターの投資は拡大している。米オラクルは18日、今後10年間で日本国内のデータセンターに80億米ドル(約1兆2000億円)を投じると発表した。
米マイクロソフトや米アマゾン・ドット・コムを合わせたクラウド3社が24年に入って表明した主にデータセンターを対象とする対日投資額は計4兆円に迫る。
米シナジー・リサーチ・グループによると、世界の大規模データセンターの総容量は生成AI向けの投資を支えに向こう4年で2倍に膨らむ。
モリス・チャン氏の予言、現実に
TSMCのカリスマ創業者、張忠謀(モリス・チャン)氏はかつて同社の強さを「誰が勝つかは予言できないが、誰かが勝てば我々も勝つ」と表現したことがある。市場のけん引役がスマホからAIに交代するなか、強みがまさに現れた。
AI向けの旺盛な需要を背景に、半導体市場全体も急回復している。TSMCが主力とするロジック(頭脳用)半導体だけでなく、メモリー(記憶用)半導体の市況も改善が鮮明だ。英オムディアは24年の世界半導体市場が前年比16%増の6343億米ドル(約98兆円)となり、過去最高を更新すると予測する。
世界の半導体市場は新型コロナウイルス禍で生まれたパソコンやスマホなどの「デジタル特需」で20〜21年に大きく成長した。
22年半ばからその反動で調整が鮮明になり、23年は4年ぶりのマイナス成長となっていた。
回復局面でTSMCの優位は続きそうだ。TSMCは先端半導体の量産で他社の追随を許さず、エヌビディアの競合である米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)や、AI向け半導体の自社開発に取り組む米メタなどからも広く生産を請け負う。
調査会社テクノ・システム・リサーチによると、先端半導体の23年の月間生産能力は「4〜5ナノ品」でTSMCが13万枚に対し、競合の韓国サムスン電子は6万枚だった。最新の「3ナノ品」も7万5000枚と1万枚で差は大きい。
さらなる投資も進める。次世代の先端半導体「2ナノ品」は25年の量産開始を目指し、台湾北部と南部の2拠点で同時に工場建設を進めている。8日には先端品の2工場を建設中の米アリゾナ州に、第3工場を設ける計画を公表した。
AI向け半導体の生産に欠かせない特殊工程「先端パッケージング」も台湾で増産を進める。台湾調査会社トレンドフォースによると、TSMCの同工程の生産能力は24年末までに前年比2.5倍に拡大する見通しだ。
それでも旺盛な需要には追いつかない。魏氏は先端パッケージングの能力増強に全力で取り組んでいるとしたうえで、「24年は充足しないだろう」と語った。
安定供給に向けてTSMCは24年の設備投資計画について、中央値で前年並みの280億〜320億米ドルとする従来計画を据え置いた。
サムスン、韓国メモリー大手のSKハイニックス、米インテルも20年代後半にかけてAI普及による半導体需要拡大を見据えた先端投資を積み増している。
半導体の国際団体SEMIは、ファウンドリー業界の前工程製造装置(12インチ)の設備投資額が23年から年平均7.6%成長し、27年に791億米ドルに達すると予測する。
日経記事2024.04.18より引用