○ 乗客が消えた!?
フェリーはゆっくりと速度を落とし、そして佐賀関港に着岸しました。
着いたー!
「降りる順番は、車とバイクが先で、徒歩の方は最後になります」というアナウンスが流れたので、ほかの人に続こうとあたりをキョロキョロ見回しましたが、誰もいません。
あれー、みんなどこに行ったの?
船底のフェリー出口付近には、車やバイクがスタンバっています。
みんな上で待っているのかなと思い、再び客席フロアに上がってみても、もうお客さんの姿はなく、フェリーの乗務員が閑散とした船内を掃除し始めています。
ぐるりと回って、また階段を降りてみると、もう船底には車両は一台もありませんでした。
あれ、みんな降りちゃったの?
急いで細い階段を下まで降りると、船の外に向かって腕で大きく「○」を作ってみせた人が、私を見て、あわてて「×」のサインに直しました。
「すみません」と言って、急ぎ足で外に出ます。
フェリーの外にも係員がいて、車が中に入るのを止めていました。
船内に乗客が誰もいなくなったと判断して、新たに車を乗せるところだったんですね。あぶないあぶない。
(船内にいた人たちは、みーんな車かバイクに乗って行ったのね)と、そこでようやく気が付きました。
徒歩で乗り込んだのは、私だけだったのかも。
旅の荷物を背負っていて、軽装の車の乗客とは違う格好だから、さきほど三崎港で、ご夫婦に(バスで来たのだろう)と推測されたんですねー。
○ アカネちゃんとの再会
なんだか取り残されたようで、一気にロンリー気分を味わいましたが、でももうここからは一人ぼっちじゃありません。
大分の友人、アカネちゃんと会うのです。
フェリーの甲板からも、波止場に停まっている彼女の赤い車が見えていました。
いつまでも私が降りてこないため、心配して車を降りて探しにきてくれた彼女と再会。
無事に会えて、ほっと一安心しました。
彼女が東京にいた時に知り合ったので、今までは都心でばかり会っています。
こんなに自然たっぷりの場所で会うなんて初めてのことで、なんだかとっても新鮮です。
乗せてもらった彼女の車は、ムーミン仕様でかわいらしかったです。
「それにしても暑いね」「こんなに気温が上がるとは思わなかったよ」と話しながら、出発。
この港に来たのは初めてだという彼女。
「え...これまで誰も、フェリーに乗ってきた人はいないの?」
「いないね~。四国の友達でも、フェリーはないなあ」
ふふふ、四国在住でもないのにフェリーで来た友達がここにいますよー。
○ インターナショナル温泉地
アカネちゃんの家は、大分駅のすぐそば。
「新幹線で行ったら、こんな面倒をかけずにすんだのね」と言ったら、「・・・大分には新幹線は通ってないよ」と言われました。
あれ?
「福岡から熊本を通って鹿児島に行くから」
九州の地図を思い浮かべます。そうか、そういえばそうだわ。
あちゃー。大分県民に言ってはいけないことを言っちゃった・・・。
九州新幹線というから、九州全県を巡っているのかとなんとなく思っていました。
丸い山手線状態で。冷静に考えると、ありえませんけどね!
「そうかあ、じゃあアルゲリッチが別府に来るのも、アクセスが大変なのね」
ピアニストのマルタ・アルゲリッチが毎年別府で行っている、別府アルゲリッチ音楽祭のことを考えます。
「知ってるんだ。うちの会社、そのグッズデザインの依頼を受けてるよ」
彼女はデザイン室に勤めています。
そうはいっても、人口に占める留学生の割合が、全国市区で日本一高いのは、なんと別府なんだそう。
国際的な温泉地なのね~。
○ 眼下に望む豊後水道
まずは、彼女おすすめの場所へと連れて行ってもらいます。
向かったのは、海からぐんぐん高度を上げて登っていったところにある、丘の上の海星館。
ロマンチックな名前です。
プラネタリウムのようなドームのある建物でした。
日食・月食のような天体イベントがあると、ここで観測会が開催されるそうです。
そこからは、豊後水道が一望できました。
少し霞んではいますが、すばらしくいい眺めです。
今そばを通ってきたばかりの佐田岬も見えます(画像左奥)。
水道を渡っていくフェリーや客船も見えます。
♪ はるかに見える青い海 お船が遠くかすんでる~♪
「みかんの花咲く丘」を口ずさみたくなります。
気持ちい~い。
夏のような日光を受けて、まばゆく輝く広い海と緑。
絵本の世界に飛び込んだようで、心が晴れ渡りました。
○ 海沿い急カーブ
すがすがしい気持ちでいっぱいになって、感動を共有しようと隣を向きました。
ところが、アカネちゃんは、予想外に浮かぬ顔つき。
慣れない急勾配の細道を、がんばって運転してくれたため「緊張したよー」と、まだ顔がこわばったままでした。
「帰りはもっと広い道がいいなあ」
確かに、通ってきた道は一方通行並の狭さで、対向車とすれ違うときにはかなり冷や冷やしたものです。
海岸沿いを通ってきたときに、しめ縄でつながった夫婦岩を見かけて、思わず「わあ!」と声をあげましたが、アカネちゃんはクネクネカーブを前にハンドリングに必死で、それどころではない様子でした。
ナビで帰り道をいろいろ検索しましたが、どうやら道は一本しかないようで、帰りも同じ道を通ることに。
やっぱりこわいー!
海の間際なのに、ガードレールがないし!
夜には、絶対通れなさそうです。
○ 磨崖仏の国
ハードな道をなんとか切り抜けた後は、私のリクエストで臼杵(うすき)に向かいました。
大分は磨崖仏の国。磨崖仏とは、岩に刻まれた仏像のことで、大分はその数が日本一多く、中でも臼杵の磨崖仏は国宝とされています。
関東では磨崖仏はあまり見かけません。私が見たことがあるのは、横須賀の鷹取山と、宇都宮の大谷観音くらいでしょうか。
大分市ではなく臼杵市になるため、距離がありましたが、のどかな里山に到着すると、そこには大勢の観光客がいました。
平安後期から鎌倉時代の石仏ということで、長年の雨風台風を受けてかなり磨耗しているだろうと思っていましたが、顔の表情までわかるほど保存状態がいいものが何体もありました。
驚異の維持力です。石がいいのでしょうか。
普通の仏像は、表情がくっきりはっきりして、時には恐ろしささえ感じさせるものもありますが、ここで見られる岩に彫り込まれた磨崖仏は、どれも穏やかで安らいだ表情。
見ていると、安心できます。
友人に磨崖仏ファンの子がいて、今回の私の臼杵行きをうらやましがられました。
ここで数多くの優しい磨崖仏と向き合っていると、その魅力がわかってきた気がします。
アカネちゃんがここに来たのは、小学校の時と5年前に親戚を連れてきた時だそう。
近くに住んでいると、案外そんなものかもしれませんね。
当時は、顔が落ちていたそうですが、元の形に修復されたとのこと。
今のきちんと顔がのった姿ではなく、顔が落ちていた状態の方で覚えている人が、今でも多いそうです。
○ 石仏さま、お願い
願い事を書く紙が置いてあったので、それを投函して祈ります。
「なんだか磨崖仏に祈るっていう気にならないんだよね」と、遠くで見ているアカネちゃん。
地元の人に言われちゃった。確かに、今ひとつしっくりこない感じはするけど。
でも、自然の中にある磨崖仏群を見ながら休んでいると、風が吹いてきて気持ちよくて、なんだか石仏と会話ができそうな気がしてきます。
園内で、楽しそうな学ラン姿の男子高校生3人とすれ違いました。
「高校生がここに来るなんて。なんでだろう?」と不思議そうなアカネちゃん。
「受験生で、合格祈願とか?」と私。
「でも、石仏に願いをかけるって、なんかピンとこないよね」とやっぱりそこが気になる様子。
「カメラを提げていたから、写真部かも」
「いずれにしても渋いよね。わざわざ入場料を払ってまで来るなんて」
「土曜日なのに学ラン姿なのは、なぜかなあ?」
お互い、微妙に違うところが気になっています。
その後も園内を巡りながら、何度か彼らとすれ違いましたが、3人ともとても嬉しそうで生き生きしています。
友達と一緒だからか、石仏に会えるからか、その両方なのか、どうなんでしょう?
ほぼ一緒に出口を出たので、(どうやって帰るんだろう。車じゃないだろうし)と思ったら、3人とも自転車に乗りました。
やっぱり楽しそうにこいでいます。
何をやっても楽しいお年頃なのかしら。青春だわー。
○ ささむた神社
それから西寒田神社に連れて行ってもらいました。
西寒田と書いて「ささむた」と読みます。読めませんねー!
「なぜささむたに行きたいの?」と聞かれたので「え?豊後の国の一ノ宮だから」と答えます。
「そうなんだ。友達に話したら”藤の季節でもないのに、なぜ?”って聞かれたから」
むしろ、藤で有名だということを、知りませんでした。
時々謎のルートを教える、アカネちゃんのカーナビ。
今回も、車通りの少ない静かな住宅街に入り込み、突然そこでルート案内が終了したため、私たちは右往左往。
辺りを散歩していた住民に正しい道を教えてもらって、なんとか無事到着しました。
たしかに藤棚があります。季節ではないため、青々とした緑の葉でした。
○ テンション上がる
アカネちゃんは、ここにもずいぶん長いこと来ていないそう。
神社の前の小川に石橋の太鼓橋がかかっており、グーンとテンションがあがります。
「石橋だ!!渡っていけるのね、わーい!」
今度は手水舎を見て、「おお!」と近寄る私。
「これ、火山岩だよね、珍しい!土地柄ね~」
さらに、狛犬を見て「おおお!」と駆け出す私。
「この狛犬、珍しいよ!遠吠えしてるみたい」
いつも、一人で暴走して連れを置き去りにしないようにしていますが、すてきなものが予想外にたくさんあったので、つい我を忘れてしまいました。
アカネちゃん、引いてないかな・・・とおそるおそる振り向いたら、「わあ、どれも気づかなかったわー」と言っていました。
大丈夫みたい。よかった。
ここの御祭神が月読命と知り、「わあ!」とまた声を上げる私。
月読命が主祭神の一之宮は少ないんじゃないでしょうか。
さすがにこれ以上は、アカネちゃんが後ずさりしそうなので、自重します。
○ 春日神社
私のはしゃぎぶりを見た彼女に、帰りがけにもう一つ神社に連れて行ってもらえることになりました。
やったあ。
帰る道すがら夕日が落ちていきました。
天気が良い日だったので、とてもきれいな夕焼けでした。
車を降りた時には辺りは暗くなっていましたが、元球場があった近くの春日神社を参拝します。
彼女が七五三を行った場所だそうです。
奈良の春日神社のように、朱塗りのきれいな建物でした。
狛犬はフラッシュをたいて撮りましたが、そうすると彫りが強調されて、顔が2倍増しで怖くなっちゃうんですよね。
手水舎は、やっぱり火山岩を使ったものでした。
「こんなに神社をしげしげと見たことって、ないなあ」とアカネちゃん。
そう言いながらも彼女は、拝殿に下がるちょうちんに注目していました。
「この神社って、こういう家紋なんだ」
もしや家紋好き?と思ったら「家紋を服に入れてほしいっていう依頼がよく来るから」
仕事をこなしているうちに、けっこう詳しくなったそうです。
○ 古民家カフェバー
駅の近くの彼女の家に車を止めて、歩いて食事に行きます。
熊本では、車の代行文化がいまだに主流だと聞いたので、大分ではどうかと聞いてみました。
ここでも代行を頼む人はいるそうですが、主流というほどではなく、彼女は頼んだことがないそう。
女性ですしね。
行ったのはhakoというところ。
古民家を改築した、こじゃれたお店です。
乾杯しながら、いろいろとおしゃべりしました。
あれこれ頼みましたが、会話に夢中で、料理はホタテのカルパッチョしか撮っていませんでした。
かわいい愛車を持っているのに、あまりドライブには出かけず、今日は初めて行った場所ばかりだったという彼女。
初めて体験をしたのは私と一緒ね~。
インドア派なのに、慣れない道をがんばって運転してもらって、ありがとう~。
この辺りは、駅の中心地以外はそんなに車の量が多くありません。
やはり、ドライブするには混んでいない場所がいいですね。
この日は別府の駅前に宿をとってあるので、大分駅まで送ってもらいました。
最近リニューアルした大分駅。以前の建物を知らないながらも、こうこうと光る駅ビルはとても大きく見えました。
○ 駅のブンブン号
駅構内に入ると、赤く塗られたレトロで可愛い電車が停まっていました。
車体に「Toy Train ブンブン号」と書いてあります。
床には線路が描いてあって、イメージが湧くなあと思ったら、ブンブン号は実際にこの線路に沿って走るんだそうです。
駅構内の床をおもちゃの電車が走るなんて、おもしろーい。子供が喜びそう。
見送ってもらってホームに入りました。
「またあしたね」
次の日も、彼女に付き合ってもらうので、寂しさはありません。
別府行きの電車は、15分遅れていました。
線路に人が立ち入ったからだとか。東京の通勤時みたい。
○ 大分マンホール
臼杵で見たマンホール。「カボス」というのが、いいですね!
ふと(香川のマンホールは「うどん」なのかな?)と考えました。
○ 別府×タツノコプロ
大分から別府までは電車ですぐ。別府駅に降りたら、目の前にこの細長いポスターが貼られていました。
なぜにガッチャマン?ドロンジョ様もいるー。
市とタツノコプロのコラボで、別府観光キャンペーンを行っているようです。
宿に着き、のんびり過ごして、2日目の夜が更けていきました。
3日目に続きます。