● prologue
久しぶりに、友人ユーミチカと会うことになりました。
都心で落ち合うはずだったのに、話をしているうちに予定がコロコロ転がり、いつのまにか『浜っ子リカがご案内する横浜・鎌倉・江の島1日ミステリーツアー(催行人数1名)』というタイトルに決まっていました。
えー、なにそれ? まあいっか!
ルートをまかされたので、はりきって考えます。
彼女が鎌倉でこれまで行ったことがある場所は、鶴岡八幡宮、長谷寺、成就院、大仏、鎌倉宮、明月院、建長寺、円覚寺だそう。
王道の場所は訪れているので、マニアックなコースを選びましょう。
ミステリーツアーですからね!
● JR横浜駅
当日は、JR横浜駅の横須賀線9・10番線ホームで待ち合わせ。
広ーい!二つのホームをつなげたほどのホームのゆとりに驚きます。
前からこうだったかな?
2010(平成22)年にホームの拡幅工事が行われ、幅8mから15mに拡幅されたそうです。
その後何度も使っているはずなのに、気づいていませんでした。
いつも大急ぎで、やってきた電車に飛び乗っていたのかも。
じきにユーミチカもやってきました。
「このホーム、広いね!」やっぱり同じ感想です。
「今日はよろしくね!楽しみで、今日早く起きちゃった」
「私もよ!」
「お賽銭もたっぷり持ってきたわ」
「私も。小銭ならたんまりあるわ!」
● JR北鎌倉駅
横須賀線に乗り、北鎌倉で下車。
今回はメジャーな鎌倉駅には向かいません。
北鎌倉で降りると、みんな鎌倉方面に歩き出しますが、その列にも続きません。
駅の向かいの交番の奥に続く細道を歩きます。
観光客らしき人は誰もいませんし、そもそも人が歩いていません。
しばらく進んでいきますが、人どころか車も通りません。
北鎌倉から鎌倉までの道は、いつも人の列ができていますが、ちょっとルートを離れると閑散としています。
急な上り坂になったカーブ道をうんうん登って行くと、じきに道標が見えてきました。
源頼朝が平家追討の時に勝利を祈願した、源氏山に着きました。
● 葛原岡神社
まずは葛原岡神社へ。
ご祭神は、鎌倉幕府の討幕を目指した後醍醐天皇の側近の日野俊基(ひのとしもと)。
おちついた自然に囲まれています。
願い事を叶えてくれる、本殿の「昇運の龍神」をお参りします。
南朝時代の武士の神社が、鎌倉の縁結びのパワースポットとして知られているのは、ちょっと不思議。
最近になっての盛り上がりかな…。
理由は、境内に大黒様もお祀りしているからだそうです。
男石・女石、そして魔去ル石がありました。
すぐそばに、富士山が見えるポイントがありますが、この日は雲が厚くて見えませんでした。
● 銭洗弁財天
銭洗弁財天にはもうすぐ近くです。
ユーミチカは浪速の商人の娘なのに、まだ行ったことがないというので、プランに入れておきました。
「来たかった場所なんだ!」と喜んでもらえました。読みが当たったようです。
社務所でろうそくと線香とザルをいただき、岩屋の中の奥宮に向かいます。
ここで持ってきたコインをザルに入れて、湧き水で浄めました。
ありったけの500円コイン
普段は押すな押すなの大混雑ですが、まだ午前中だからか、そんなに人がいません。
お札を洗っている人もけっこういました。
ここには正式名称は、銭洗弁財天宇賀福神社。
神道の宇賀神と仏教の弁財天が祀られており、ほかにもあちこちで「神仏習合」の名残が観られます。
狛犬の口に、10円玉が2枚載っていました。
ここから佐助稲荷への近道階段をどんどん下りていきます。
この日は一日中、昇ったり下りたりして過ごすので、まだまだ根を吐けません。
● 佐助稲荷
佐助と聞くと、猿飛佐助を祀っているのかなと思いますが、「かつて佐殿と呼ばれた源頼朝を助けた神社」としてこの名になったという場所。
ニンジャは関係ないみたい。
「外国の人が伏見大社に行けないことを残念がっていたら、ここに連れてこれるわ」
通訳ガイドのユーミチカは、そういう見方をします。
小さいながらもおびただしい数の千本鳥居。
奉納されたお狐さんも、本家ほどまではいかずともかなりの量です。
凛と張りつめた空気。
親日家だったピアニストのリヒテルが、この場所を気に入っていたそうで、おごそかな気持ちになります。
以前は、入口の下社にしか神主さんは常駐していませんでしたが、いつの間にか千本鳥居をくぐり石段を上がった上社にも常駐されるようになっていました。
さらに上に上がったところにある奥社は、より独特の雰囲気。
白キツネさんがいっぱい。
● ハイキングコース
普段はここから踵を返して鎌倉駅への道を取りますが、今回はそのまま佐助稲荷の奥社の山を登って、ハイキングコースに入ります。
太い根っこのはびこる、細く木の階段を上ると、うっそうとした緑の中に入りました。
思ったよりも傾斜が急です。人とすれ違う時には、お互い協力しないと転んでケガをしてしまいそう。
優しさが試されます。
毒蛇も出るそうですよ!
犬を噛むんですから、人だって噛むでしょう。ヒ~。
● コースアウト
歩いていくと、下り坂になり、下りの階段になりました。
その道しかないため、しばらく歩いていきますが、なんとなく違和感がぬぐいきれずに(あれ?)と立ち止まります。
「なんだか道を間違ってないかな?」
先ほど私たちの後に登ってきた女性は、もういません。
別の道がありましたが、それは銭洗い弁天方面へのルートでした。
戻ってしまうと思ったので、今いる道を選んだのですが、そちらの方が正しかったのかしら?
上から男性が下りてきたので、「この道はハイキングコースでしょうか?」と聞いてみました。
人一人がようやく通れるくらい狭い急な斜面に3人が並んで立ち止まり、互いに顔を見合わせます。
「大丈夫じゃないですか?この道だと思いますよ」
鎌倉の地図を開いて見せてくれて「この地図あげますよ」と言ってもらいました。親切!
「じゃあ大丈夫かな」と言って、先にお兄さんに通ってもらい、私たちはゆっくり下っていきました。
すると、下りきったところにあった周辺地図を、お兄さんが眺めていました。
私たちが近づくと「やっぱり1本違っちゃったみたいです」と指さして教えてくれます。
ハイキングコースから外れて、隣の道を歩いていたようでした。
うーん、どこでコースアウトしたのかわからない~。
でもまあ、隣の道なので、修復可能。
車道に降りてしまいましたが、少し下界の道を歩きます。
● 樹ガーデン
トンネルを通ったところに、
樹ガーデンというカフェテラスがありました。
「ここでランチにしまーす」
お店にたどり着いてよかったよかったと言いながら、お店に続く階段を上りはじめます。
でも、これがびっくりするくらい長くて、登っても登ってもたどり着きません。
途中で一休みするように、ベンチがいくつも置いてあります。
北鎌倉駅で降りてから休憩も入れずにずっと酷使し続けている脚は、もうかなりガクガク。
それでもさっき、山の尾根伝いに続くハイキングコースを降りてしまったので、再び山を登らなくてはいけません。
アップダウンを一つ増やしてしまって、ユーミチカ、ごめんね!
「冬だし、最近ぜーんぜん身体動かしてないから、ちょうどよかったわ」
優しい!でもだからこそ、身体にこたえるのでは?
● オープンテラスでランチ
棒のような脚を踏みしめながら、ようやく上までたどり着き、ウェイトレスさんに出迎えてもらいました。
ここは全席オープンテラスのレストラン。
自分たちで好きなテーブルを選んで座ります。
「天空のレストラン」と言われるように、空が近く、広々とした景色を楽しめます。
「見晴らしがいいですね」とお店の人に言うと
「昨日は雪が降ったので、寒くて大変でしたけど、今日はぽかぽかですね」
たしかに、前日だったら長居できなかったことでしょう。
いい天気に恵まれて、私たち、日ごろの行いがいいのかも!
この辺りのルートがよくわからず、迷わずに案内できるか不安だったので、近くに住む先輩に、前もって尋ねていました。
「樹ガーデンは、この時期だと虫がこなくていいね」と言ってもらいました。
緑が少ない冬ですが、なるほど、そういうメリットがあるのね。
確かに虫は全くやってこず、青空の下の快適で美味なランチを楽しみました。
2人連れやグループのほかに、単身の人もちらほら見かけます。
ご近所様なのかしら。すてきなおひとり様時間の過ごし方です。
生パスタ
これが鎌倉の中心地の方なら、休日のお昼時にはどのお店もぎゅうぎゅうに混んでいます。
並ばなくてはいけませんが、ここは人も少なくて開放的。
とても気持ちが良くて、会話も弾み、ゆっくりできました。
● 再びコースイン
さて、そろそろまたハイキングコースに戻りましょう。
道を外れてしまったので、お店の人に戻り方を教えてもらって山道へ。
お店よりもさらに山の上の方に上って行ったところに、そのルートはありました。
ハイキングコースから樹ガーデンに入っていく道。
本当はここから行く予定だったんですが。
目の前を、北欧風の外国人が速足で横切っていきました。
「今の人は、この辺りに住んでるのかな?それとも旅行者なのかな?」
うっそうとして曲がりくねった山道のため、すぐに姿は見えなくなりました。
山の中ですが、一瞬景色が開けて、木の合間から海が見えました。
鎌倉の海です。おそらく材木座海岸の辺り。
足元がゴロゴロの根っこ道で、ちっとも平坦ではないため、おしゃべりしながらも気が抜けません。
つまずかないよう、地面に目を配りながら進んでいきます。
途中、鎖道もありました。わー、修験僧みたい。
正確には鎖ではなくロープでしたが。
ロープの道は続きます。大きな段差がある、人ひとりが通るのがやっとの足元危険な細い道を、紐を手繰りながら下っていきました。
その2に続きます。