その1からの続きです。
○ 次の行先を考える
朝は雨がちだった空も、すっかり晴れ上がっていい天気。
東京の方はまだ雨が降っているとのこと。
一日天気が悪いと思っていたので、嬉しくなります。
岩殿観音参拝を終えて、バスで再び高坂駅に戻りました。
ざっくりとした行先を決めていたのはここまで。
「次はどこに行こうか?」
広く関東圏内に坂東三十三箇所の範囲は渡っており、一つ一つのお寺のある場所は大きく離れています。
でも地図を見る限り、十一番のお寺はここから行けないほど遠くはなさそう。
行けるかな。行けたらいいな。
近くまで来ているのなら、もともと行く予定だった方にも訪れたいものです。
アコも賛成してくれて、一緒に行き方を調べました。
ふむふむ、森林公園駅からバスが出ているのね。
東武線で、高坂駅から森林公園駅に移動します。
○ 森林公園駅
本日二度目の森林公園駅。
森林公園という以上は、森林と公園があるんだろうとキョロキョロ。
すると、駅前にそれらしき公園を見つけました。
あった~。でもまず、バスの時間を調べるのが先ね。
○ バスがない
ところが、乗りたいバスは見当たりません。
停まっていた別方面のバスの運転手さんに聞くと「その辺は路線にありませんねー」
あれ?どういうこと?
「ロータリーの反対側の場所から、コミュニティバスが出ていて、それだと行くかもしれません」
教えてもらった所に行ってみました。
確かに通ります。そのコミュニティバスが、私たちが乗りたいバスでした。
「よかった~、これだわ」
ほっとしたのもつかの間、時刻表を見て絶望的な気持ちになる私たち。
バスは1日5本しか来ず、次に来るのは17時でした。
「これは無理ね。着いた頃にはお寺は完全に閉まっているから」
前もって調べていないと、現地でこういうことがあったりするんですね。
バスは無理だと観念し、再びロータリー内を移動して、タクシーに乗りました。
○ タクる
「吉見観音までお願いします」と言うと、運転手さんに「ここから行きたいの?
隣の東松山駅からの方が近いのに」と言われました。
「いえ、お願いします」と私たち。
東上線も、それほど本数が多いわけではないし、お寺によっては16時ごろに閉門するところもあるので、不便な場所こそ、早目に行っておきたいのです。
「岩殿観音には行った?」と運ちゃん。
タクシーで行く人が多いことから、知っているのかもしれません。
話しながら「あ、これ北向地蔵ね」と通りすがりに教えてくれましたが、カメラを出す間もありませんでした。
「ほい、到着。ここは縁結びのパワースポットとして有名らしいよ」
お寺は、駅から歩くのはとても無理なほど、遠くにありました。
運賃は2500円ナリ。
(ここで降りてタクシーを帰しちゃって大丈夫かな?それとも待っててもらった方がいいかな?)
と、2人で無言で問いかけ合ったものの、決められないまま降りて、去っていく車を見送りました。
「まあ、なんとかなるでしょう」
友と一緒だと、なあなあになって、いつもこれで通してしまいます。
それでなんとかなる時も、ならない時もあります!
さあ、今回はどうでしょうか?
○ 坂東三十三箇所11番札所 岩殿山安楽寺(吉見観音)
それはさておき(おいていいのか?)、まずは参拝することに。
ようやくのことでたどり着いたので、感激もひとしおです。
仁王門の古めかしさに心が躍る、古刹ファンの私たち。
仁王門を守る真っ赤な仁王様は、楳図かずお風!
ギャーッ!いえ、お寺で叫んではいけません。静かな気持ちで通りましょう。
門の先には、きれいに整えられた境内がありました。
ほかの参拝者はちらほら姿が見えるくらいで、あまりいません。
静かでとてもいい雰囲気。
吉見大仏と呼ばれる阿弥陀如来像もあります。
坂東のお寺は、たいていが本格的に古めかしく、先ほどの10番の巌殿観音も、ここ11番の吉見観音も、いくつもの時代を経た伽藍が昔のままに立っています。
ここの始まりは、行基が聖観音像を岩窟に安置した岩窟寺院。
1661年に作られたという観音堂をお参りしました。
きれいな形の三重塔。高さ24m。古い彩色がまだ残っています。
寛永年間に再建されたもので、江戸初期のものは埼玉県内に3つしかないそうです。
形がいい塔だなと思い、ぐるっと一回りしました。
手前には「聖徳皇太子」と刻まれた石碑、奥には太子堂。
聖徳太子が祀られています。
時々、関東に太子堂があることを不思議に思いますが、仏教を広めるために数多くの寺院を建てた太子は、土木事業を促進したということで、大工さんや手工業者に厚く信仰されてきたそうです。
池の真ん中に弁天堂がありました。
苔むした屋根。渋いです。
○ 帰り方を尋ねる
参拝後は、奥にある庫裏で御朱印をいただき、対応してくれた奥様に「ここからバスで帰れるでしょうか」と聞いてみました。
「行きはどうやって来たの?」と聞かれたので「森林公園駅からタクシーで」と答えます。
「それは、タクシー代が結構かかったでしょう。でも土曜日はコミュニティバスが休みで、バスは近くを走っていないのよ。
1時間くらい歩いてバス停に行くことになるわ」
最寄りのバス停まで1時間!ひええ、そんな場所ってあるのね~。
心の中の自分は、ムンクの『叫び』顔になっていますが、お寺の人にそんな様子は見せられません。
「どうやって行けばいいでしょう」と聞くと、「まってて、今書いてあげるから」と言ってもらいました。
確かに、土地勘がないので、メモでももらえると一番助かります。
○ 墨の地図
すると、御朱印を書いた筆を使って、半紙にさらさらと地図を描いてくれました。
宝島の地図みたいで、すてき~!
その地図を使って、行き方を教えてもらいました。
「まだ暗くないから、たどり着けると思うわ。二人で行くのなら安心ね。でも気を付けてね」
「どうもありがとうございます!」
親切にしてもらい、感謝して、まだ乾ききっていない墨の地図を片手に歩き出しました。
無事に参拝できたことですし、帰りの時間を気にする必要はなくなっています。
これはRPGの世界だと、道に迷ったところに土地の賢者か物知り鳥があらわれて、進む道を示してくれたところでしょうか。
ふと気がつくと、境内にあるいくつもの御堂の前には、それぞれに花が活けてあります。
さっきの奥様かしら。
○ 1時間ウォーク
境内にいる参拝客たちも、みんな大変な思いをして長距離を歩いてきたのかと思いきや、参道途中に駐車場があり、私たち以外の人は全員車で去っていきました。
今ではみんな、車でやってくるのね。
私たちは、テクテク歩き続けます。駐車場を超えると、ほかにはもう誰も歩いていません。
途中にどびんやというお店があり、厄除けだんごを売っていました。
お寺からまっすぐ伸びる参道を、結構歩いてきたところに、対の仁王像が立っていました。
ここからが、かつてはお寺の敷地だったんでしょう。
道の奥にあるのが、今しがたまでいたお寺です。
保存状態のいい道祖神もありました。
別の場所にも。西国・坂東・秩父の百観音巡りを果たした石碑もあります。
さらに歩いて行くと、参道は車通りの多い車道に突き当たりました。
今度はその道沿いに歩いていきますが、バス停は全く見あたりません。
○ 車社会のダークサイド
今の車社会の陰の面として、廃棄車が集められた場所がありました。
廃棄車は全て輸入車なので、選り分けて集められたものなのでしょう。
車好きのアコは「こういうのを見ると、心が痛むわ」と声を落としていました。
朝はとても寒かったのに、いい天気の下を歩いていたら、3月でもなんだか暑くなってきました。
私たちが住んでいる辺りは、実は都心なんだなあと改めて思います。
車道でも、少し歩くとなにかしらお店があるものですが、この辺りは、歩いても歩いても、なんにもありません。
一人だと、早々に心が折れそうです。
友と二人なので、おしゃべりをしながら歩いて行けて、ちょっとしたエクササイズ気分。
○ コンビニお茶会
途中にミニストップを発見。久しぶりに見つけたお店で休憩することにします。
「ミニストップのソフトクリーム食べたいな」
ところが、イートインコーナーでは、近所のおばさんたち3人がお茶会を開いていました。
ポテトチップの袋を開いて、珈琲を飲みながら。
見慣れない光景に(はあ~)と驚いていると、もう一つのテーブルに座っていた男性2人が、4人テーブルを2人テーブル二つに分けてくれたので、私たちも着席できました。
どうも隣が気になります。
話をしながら、一人がコーヒーの容器を持って立つと「あ、私のもお願い」と差し出す別の人。
そこにポットからお湯を入れていました。
つまり、コーヒーを薄めて飲んでいるんですね。味が、味が~!
貧血を起こしそうな光景でした。
それでも特に嫌悪感を抱かなかったのは、おそらくお寺を出てからここまで車道を歩いてきた間、あまりに人に会わなすぎて、ちょっと人恋しくなっていたからかもしれません。
「人がいた!」「外でお茶してた!」というだけでも、驚きの発見レベルでした。
私たちは北海道プレミアムキャラメルソフトをいただきまーす。
ひと休みして元気が出て、再び歩き出しました。
おばさん3人は、さらにコーヒーにお湯を足しており、まだまだ長居する様子でした。
これは消防署の建物。何を計るのか、壁にメートルの目盛りが書かれています。
はしごの長さでしょうか。
シチズンマイクロ社の工場がありました。入り口の時計は、もちろんシチズン。
○ 吉見百穴のマンホール
この辺りのマンホールは、吉見百穴をバックにした、はにわのデザイン。
童話の世界のようで、いいですね。
歩いて歩いて、とうとうバス停にたどり着きました。
やったあ~!クララ、バスよ、バスに乗れるわ!
この辺りは、東松山駅と鴻巣駅の両方の駅の真ん中くらいにあるらしく、道路を渡って両方の時刻表を確かめました。
そして、早く来る東松山駅行きの方を待つことにしました。
鴻巣駅行きの方が早く来たら、帰りはJR埼京線になったところですが、東松山駅からだと行きも帰りも東武線になります。
もう、どこか鉄道の駅まで乗せて行ってもらえるのなら、贅沢は言いませんー。
この辺りは吉見百穴に近いので、バスから見えないかなあと思って外を眺めますが、広がるのは田んぼばかり。
時々太陽光パネルもあります。
割烹着姿のおばあちゃんと孫が、道端で立ち話をしていました。のどかー。
○ 「穴」一字
と、突然、赤文字で「穴」と書かれているのを発見。
その横の岩肌には、たしかに穴がありました。
えっ、これが吉見百穴?
それにしても「穴」って、思い切りましたね。
一番わかりやすいですが。
とりあえず吉見百穴を見られた気分になって、2人で喜びました。
○ あばれん坊
バスは、次第に町の中へと入って行き、少しずつお店が増えてきました。
次のバス停をアナウンスする時に「髪問屋あばれん坊 本店」と何度も紹介が入ります。
じわじわとおもしろくなって、顔を見合わせて笑いました。
「美容院で暴れん坊って?居酒屋ならわかるけど」
「ひどいくせっ毛ってことじゃない?」
「そっちかあ~」
本当にあるのかなあと気になって、バス中から探していたら、
「あったー!」
店名の後につい「将軍」って言い足したくなるのは、多分みんな一緒でしょうね。
○ 東松山駅
そうして終点の東松山駅に着きました。駅前の時計は5時半を指していました。
駅舎はシックな感じ。門司駅みたいだなあと、行ったことがないのに勝手に思います。
○ ノーベル賞のまち
駅のロータリーには「ノーベル物理学賞 梶田隆章先生」というのぼりが下がっています。
去年受賞された素粒子ニュートリノの権威の方ですね。
東松山出身だそうで「花とウォーキングとノーベル賞のまち」とも書かれていました。
3つ目だけ毛色がかなり違っていますよ~。
駅の建物に入っても、そこからホームにたどり着くまでに結構かかり、改札に入ってから小走りに急いだのですが、特急を乗り逃してしまいました。
残念~。鈍行だったら、帰るのにどれだけかかってしまうのかしら。
次に来た急行で池袋まで向かいました。
泊まる駅が多いため、乗っているうちに日が暮れて、いつしか夜になりました。
それから副都心線に乗り換えて、東急沿線まで戻ってくると(ああ、土地勘がある辺りだわ)とホッとしました。
帰る途中、西武の小竹向原駅でポイント故障事故が起こり、アコと別れて一人になった私は、自由が丘駅でしばらく足止め。
なんだか一日、電車でスムーズにいかない日でした。
○ epilogue
数年前に東急東横線と東武東上線がつながってから、東横線のホームにときどき「森林公園行き」の電車がやってきますが、実際にそこまで乗って行くことはなく、直通運転になっても、東武も西武も相変わらず遠いままなので、今回、とうとう終点まで乗ってみることになりました。
思ったよりも遠かった~!
それだけに、都心を過ぎると車窓ががらりと変わって、ちょっとした小旅行気分を味わえました。
ほぼノープランで行ったため、細かな落とし穴はいくつもありましたが、一日新鮮な気持ちでいられました。
江戸時代のままの古刹を2つ巡れたこの日の旅は、予想のつかないドタバタの行程になりましたが、青空の下、友と一緒にハプニングを受け入れながら、楽しい時間を過ごしました。
終わりよければ、すべてよし。
外出が減っていた年度末の、いいリフレッシュになりました。