雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

さわやかな青年

2006-04-14 | 思い出
コンビニで働いていたときの話。
その彼は、早朝のまばゆい陽射しを受けながら、入り口のドアに手をかけ、颯爽と店内に入ると一直線にエロ本コーナーに向かった。そして数秒、目をこらしたのち、一冊のエロ本を手に取ると、まだ眠気から覚めやらぬまま、レジカウンターに突っ立っている私のもとへ軽やかな足取りでやって来た。
「お願いしまっす!」
ハキハキとしている彼に比べ、私は気だるい声で
「らっしゃいせぇー」
と応じた。
バーコードをとおすため、その雑誌の裏面をむけると、そこには裏表紙イッパイにあられもない格好でオッパイをあらわにした看護婦さんが、いた。
私の目は一気に覚めた。
あたふたと紙袋を取り出し、入れようとする私に、彼はじつに、さわやかに、
「あっ!このままでいいでっす!」
そう言って千円札を差し出した。
私は慇懃に千円札を受け取り、お釣りを渡し、
「ありがとうございます!」
と、普段あまり込めない真心を込めて接客した。
彼も笑顔で
「ありがとっ!」
そう言ってエロ本片手に店をあとにした。
そう、それはまるで、春風のようにさわやかな青年であった。
あの時、私が本当に彼に掛けたかった言葉は
「がんばれ!」
であった。
しかし、彼のような青年なら、自ずと頑張りを極めることであろう。私なんぞのように、被害妄想に惑わされることなく。
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