雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

母に捧げるバラード(金沢弁編)

2008-05-03 | 雑記
 母ちゃん、今オレ、思っとれんけど。
 オレに故郷なんかなくなってしまったんじゃないがか、って。
 そんで、ひとつ残っとる故郷があるとすっと
 母ちゃん、それはあなた自身やわ。
 あなたは何から何まで故郷そのものやし。
 今、こうして静かに目を閉じとると、母ちゃん、
 あなたの声が聞こえてくるがや。
 聞こえてくるがや。


 今も聞こえる あのおふくろの声
 僕に人生を教えてくれた
 優しいおふくろ


 コラ!テツヤ!
 なんしとらいね、この子はぁ、
 はよ学校行ってきまっしま!
 デレーッとして、近所の人からいつも、あんた
 なんて噂されとるんか、知っとらんかいね、
 タバコ屋の武田んとこの息子は、
 フォーク・ソング狂いのだら息子だら息子って、
 噂されとれんよ。
 なんでまた、こんなアッタマの悪い子ができてんろうねぇ。
 ほんっと母ちゃん情けないわぁ。
 あの日、あの日、父ちゃんが
 酒さえ飲んで帰ってこんかったら、
 あんたみたいながはできんとらんかったんに・・・

 待て!待て!テツヤ!
 まぁたタバコ黙ってもっていくんかいね!
 この子はぁ、ほんっと腹立つわぁ。
 家の家業がタバコ屋やからって、この子は・・・
 小学校4年の時からタバコの味おぼえて、
 中学校一年の時、あんた、
 歯のウラ真っ黒やったがいね。
 まだわからんがかいね。
 母ちゃんが、このタバコ屋を経営するために、
 どんだけ苦労したと思っとらいね。
 血と汗と泪で汚れた
 女の半生がまぁだわからんがかいね、
 このだら息子、ほんっとにもぅ、だらまっ!

 行ってきまっし、どこでぇも行くこっちゃ、テツヤ。
 あんたみたいな息子がおらんくなっても、
 母ちゃん、なぁんさびしないわ。
 死ぬ気で働いてみまっし、テツヤ。
 働いて、働いて、働きぬいて、
 遊びたいとか、休みたいとか、そんなことあんた、
 いっぺんでも思うてみされ、
 そん時は、そん時は、死にまっし。
 それが人間やぞ。
 それが男やぞ。
 あんたも故郷を捨てて、花の都へ行くかぎりは
 輝く日本の星となって、帰ってくれんよ。
 行ってきまっし、どこでぇも。


 今も聞こえる あのおふくろの声
 僕に人生を教えてくれた
 優しいおふくろ
コメント
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