雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

謎の女 【問題編】

2008-08-29 | ある物語
 いつものように妻と2人きりの夕飯を食べ終え、独りでちびちびと焼酎を舐めていると、これまたいつものように、妻が鬱陶しく話しかけてきた。
 だが、今日は、いつものオチもヘッタクレもない愚にもつかない戯言ではなく、なかなか興味をそそられる話であった。

「あのさ、うちの店(コンビニ)に来るお客さんでちょっと変な人がいるんだよねぇ」

「いや、オマエんとこにくる客、変なヤツばっかりぢゃん。隣に誰もいないのに見えない誰かとフツウに会話してるヤツとか、ポケモンの薀蓄(うんちく)を滔々と語ってくオタクとか、美人のパートさんを狙ってる妻子持ちストーカーとか、レジの台にチンコ乗っけるヤツとか・・・」

「たしかに、そうなんだけど、まぁ、聞け」

「ハイ・・・」

「その人はね、あっ、女の人なんだけど、ここ最近ほぼ毎日のように来るんだけど・・・」

「『ほぼ毎日』ってのは、毎日ではないんだな?『ほぼ』というのは、『およそ』とか『だいたい』って意味であって、然るに『毎日』という意と反する語である、故に・・・」

「あー、うるさいっ!とにかく、三日と空けずに来るんだよっ!」

「怒らなくてもいいぢゃない・・・・で?」

「で、その女の人、来ると必ず買ってく物があるんだよ」

「なに?」

「なんだと思う?」

「知らねーよ!もったいぶるなっ!」

「怒らなくてもいいぢゃない・・・・で、それが、ホント、毎回買っていくんだよ」

「だからナニ!?」

「夜用のナプキンとエロ本」

「ぶはっ!!!なにそれ?」

「わかんない・・・とにかく、お菓子とかおにぎりとかと一緒にそれらも必ず買っていくんだよ」

「ほぼ毎日?」

「ほぼ毎日」

「うーん・・・ここ最近って、どれくらいの期間?」

「もう一、二ヶ月は来てる」

「血、出っ放し?」

「まさか?」

「全部、夜用?」

「ナイトガード」

「じゃあさ、エロ本って、どんなの?」

「どんなって?」

「いや、色々あるだろ。漫画のヤツとかフツウのグラビアっぽいのとか、盗撮モノとかロリコンモノとか鬼畜系とか・・・」

「いやぁ・・・フツウの、よくある写真のエロ本だと思うけど、漫画ではないなぁ」

「ふーん・・・・それをここ一、二ヶ月、ほぼ毎日、買っていく『謎の女』ねぇ・・・」

「その人ね、ちょーっとフツウではない感じなんだよねぇ。小銭いっぱい持ってるのに絶対にお札出すし、なんか計算できないっぽいみたいでぇ・・・」


 しばし私はその光景を頭の中で思い浮かべながら、その女性の心理を追ってみたり、エロ本の表紙を妄想したりしてみる。そして今までの会話を反芻し、全ての事象を並べ替えたりしてみる。すると自ずとひとつの結論に達してきた。しかし、まだ、なにかが、あとひとつ、それを決定付けるピースが見当たらない。

 考えあぐねいている私にむかって、妻が思い出したように言う。

「そうそう、その人、かなりの『デブ』なんだよねぇ」

 その言葉は私の脳髄に閃光を走らせた。

「それは本当か!かなりの『デブ』なんだな?」

「うん、ハンパねぇ」

 これだから話下手のヤツにはかなわない。いちばん肝心なピースを忘れているとは、しかし、これで謎は全て解けた!真実はいつも一つだ!

 私は不敵な笑みを湛え、妻に『謎の女』の真相を語りだした。



≪読者への挑戦状≫

 これまでの話で、この『謎の女』の珍妙な買い物の真相を解き明かすピースは全て揃っています。
 そこで私は、読者諸君に挑戦する。

 以下の問いに論理的観点からの真相を導きだしてもらいたい。

①『謎の女』は何故、ほぼ毎日『夜用ナプキン』と『エロ本』を購入するのか?
  その使用目的は?

②『謎の女』の体重は?

③秀さんのカッコよさの秘訣は?

④果たしてこの問題は真剣に考えるに値することなのか?


 以上、見事正解をもたらした方には、特に何をしてあげられるわけではないけれど、とりあえず褒めてあげます。

 では、また。
コメント (6)
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