ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

愛犬

2009-08-10 22:38:20 | Weblog
今日の帰り道、特急に乗ったらすごく遠くまで行ってしまった。

理由は、乗り換えるべき駅で、考えごとをしていたから。
乗って来た大学生が「あ、間違えて特急に乗っちゃった。通り越しちゃう。どうしよう」と
楽しそうに話していて、ようやく気がついた。
彼らが騒いでくれなかったら、いったいどこまで行ったことやら。

その時、中学生から社会人一年目まで飼っていた愛犬のことを思い出していた。

彼女はとても耳がよかった。イヌだから当然だけど、
私がピアノを弾き始めると、私の足下でまるくなる。
間違えると、いつもの垂れ耳をピッと上げる。
彼女は、いつも一番厳しく、そして私のピアノに寄り添ってくれた。

大学生になってすぐに、母が倒れて植物状態になり、彼女との2人暮らしになった。
母はもう、家に帰って来る望みはない。
でも、彼女はいつも玄関で、母が帰ってくるのを一生懸命に待っていた。
母の自転車の音に似ている音がすると、首をかしげて耳をすます。
「ご飯よ」と呼んでも、玄関を離れようとはしない。何時間も。
いくら教えても反抗していた「おすわり」をして、
ひたすら母の足音が聞こえてくるのを待っている。
1年経っても、2年経っても。

言葉が通じないだけに、その姿を見るのは、とてもつらかった。
何度も何度も抱きしめて、「もう待っても、お母さんは帰ってこないんだよ」と
泣きながら言った。

母との約束だったから、大学3年生のときに中国に留学した。
彼女は、いとこの家にあずけた。
でも、あずけるときの条件は「避妊手術」をすること。
母と、年に2回注意してあげればすむことだから、
生まれた時の身体で飼ってあげよう、と言っていたことに反した。

大学4年生で帰って来たあと、また彼女との生活が始まった。
でも、社会人一年目になって、どうしても自分一人では飼いきれなくなった。
夜は遅くなるし、出張もある。

そして、やはり家に母が帰ってこないことから、
彼女の精神状態は、かなり不安定だった。
どうしようもなくて、知人にもらってもらった。

さいごまで飼おうと母と決めて、もらってきたのに。

彼女のことを想うと、いまでも胸が苦しくなる。
息ができないくらいに詰まって、ふと気がつくと、
降りるべき駅を、とっくに越していた。

謝っても謝りきれない。
私のエゴで、犠牲にしてしまった。
そして、そこまでして守ろうとした私の人生。
いま、振り返って、どんな価値があるのかとも想う。
裏切ってまでする価値のあるものなど、どこにもなかった。

りょう、ほんとうにごめんなさい。