ある日の夕方、ボートで海へ。
この家のボートは、サウナ小屋の近くの岸においてある。
この二股の道を左へいくと、いつもサウナの途中で泳ぐ岸辺、
右へいくとボートがある。
みれば、4人が余裕で乗れそうな大きさ。
シッポのないムーミンもフィリヨンカさんもミムラ姉さんも、
わたし以外はみな、ボートを漕いだ経験があるという。
ひとりきりだったら、ボートにのろうとはよもや思わないけれど、
頼もしいメンバーが一緒だったのでこころ穏やかに岸をはなれた。
「とにかく、ボートの上では立つな」という言葉を念頭に。
大丈夫、仮になにかあっても、水泳なら得意だ。
最初の漕ぎ手はフィリヨンカさん。
学生時代、大学にいかないで毎日ボートを漕いでいたという人物。
わたしはこころの中で「ボート部部長」の敬称をささげている。
この海は遠浅がつづくとかで、
岩に乗りあげないように気をつける必要がある。
「ジャングルクルーズができそう」だからと最初に目指した方角は、
途中で岩にはばまれ、あきらめた。
だいぶ航路が修正されてきたところで、こんどは
8年前の冬にシッポのないムーミンとわたしが
凍ったこの海をわたってハイキングにいった島を目指すことに。
目的地の島は、うえの写真の島?
「こうみえて、あれはけっこう距離がありますよ」とミムラ姉さん。
世界各地を、かなり奥地まで旅してまわっている人物なだけに、
その言葉を一笑にふすことは誰もできない。
しかも、8年前、ハイキングスタート時点で島影は見えなかったような?
だとすると、わたしたちの目指す島は、さらに遠い彼方なのか?
どうか追い風がふくようにと、こころのなかで密かに願う。
ところが、漕ぎ手がミムラ姉さんにかわった頃から、
潮の流れが変わったのか、普通にこいでいると
いつの間にかボートが回転してしまうようになった。海面が波立ってもいる。
この海で波をみるのは初めて。いつもは湖かと見まごう穏やかさなのに。
急遽、潮に流されない場所へぬけでるまで
フィンランドの海に慣れているムーミンが漕ぎ手役をかわることに。
けれど、いったん「よし」と思う場所まできても、
気がつくとまた潮に流されてボートは回転してしまう。
「右(のオールを漕げ)!」「こんどは左(のオール)!」
この事態に至って、フィリヨンカさんが的確な指示だし。
ボート部部長の本領発揮で、なんともこころづよい。
なのに航路修正をしてもしても、ボートは潮に流されてしまうよう。
…これは、例の島までいくのは無理じゃないか?
もっと手前に別の島もあるのだけれど、私有地で上陸できないらしい。
残念だけれど島上陸は諦め、いつもの岸辺ちかくの海上で楽しむことに。
「このまま一気に岸のちかくまで漕ぎぬきます!」
ムーミンはそういうと、ものすごい勢いでオールを漕ぎつづけた。
「右!」「こんどは左!」ボート部部長の声もつづく。
ようやく穏やかな海にもどり、一安心。
水面にただよう水草が、先ほどより一層キレイにみえる。
フィンランドの人気ブランド・マリメッコのデザインは、
こうした自然からインスピレーションを得ている面が
きっと少なくないだろう、と思わせられる。
しばらくすると風がやや強くなってきた。
そういえば少し肌寒いことに気づき、岸にもどった。
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