~前回からの続き~
アイドルというジャンルにはテレビをホームとするメジャーアイドルと、ファンとの交流の場所(いわゆる現場)をホームとするアイドルがいる。現場をホームとするアイドルは一概にマイナーとは決めつけられないけれど、ファン以外の人に知られるための手段は限られ、ファン層の拡大には苦戦する。
そして、世の中には「必然」という建前の下にテレビのようなマスメディアから黙殺されているアイドルもいる。
グラビアアイドルはともかく、ビデオの仕事をしている人達をアイドルと呼ぶのは抵抗がある人が多い。私も深層心理としてはどこかに線を引いているかもしれない。
恵比寿マスカッツにはグラビアな人もビデオな人もいる。グラビアアイドル界は今はAKBに刈られて仕事が激減していて事実上は消えかけているジャンルだけに、事務所としては何かしら活躍が期待出来ているのであればと送りこんでいるのだろう。それに対してビデオ系な人達がアイドルをやる意味とは何か?私の中で深く謎なテーマである。それが興味へのきっかけにもなっている。
ビデオ系女優はお茶の間には触れさせないよう情報コントロールされていて、それは仕方がない事ではあるのだけれど、そんな人達に救いの手を差しのべるテレビ局もあって、そんなテレビ局が深夜滞ならば有りだろうと番組を作った。そこに居場所を作った彼女達はその道では超有名な人も多く、その知名度の幅の広さを考えるに、国民的アイドルなどと呼ばれているグループの人気上位メンバーよりも顔と名前は全国区なのではないかと思える実績があるようにも思え、そんな「国民的」な人達が所属ジャンルによって世の中のメジャーな場所に立てないのを、出来る限りの立ち位置に立たせてあげたのがその番組なのだろう。
私は機会があってその番組を何度か見た。そこには頭と体を使って視聴者を笑いに誘うエンターディナーの姿があった。
3/31渋谷公会堂のステージに恵比寿マスカッツのメンバーは立っていた。
歌は基本的に生歌だ。でも、そんな事よりも観ているこちらに伝わってくるのは、お客さんに笑顔になってもらおうとする気持ち。番組のコーナーが歌の合間に行われた。いわば大喜利のような内容なのだが、彼女達の頭の回転の良さ、笑ってもらうためのアイデア、その姿に私は心からの拍手を贈った。歌やダンスは拙いけれど、観客に楽しんでもらうための方法はそれだけではない。紛れもなく彼女達はプロのアイドルだった。
後半のクライマックスで新曲のカップリングである「おかあさん」という曲を披露する事になった。曲紹介を読み上げた人気メンバーが涙声になった。彼女はビデオ系の人である。その筋のファン総選挙的グランプリで一位になった事もある、つまりその世界ではスターである。
そんな彼女が流した涙。「おかあさん」という普遍的なテーマに最初はそれほど前のめりに観ていなかった私は、その涙を見て色んな事を思い浮かべた。
このステージに立つ20人強のメンバー一人一人に母娘の物語があるのだ。誰一人として内容は被らないだろう。人の数だけオリジナルストーリーがある。
この日が誕生日なメンバーがいて、コンサート中にお祝いを行なう事になった。今日客席にお母さんがあ来ているとその子は言った。二階席の隅でその子のお母さんは立ち上がって手を振り、客席からは拍手が沸き起こった。
そのメンバーはグラビアで活動しているそうだが、上京するにあたって母親にも葛藤があったのかもしれないし、寂しさもあったかもしれない。しかし、この日満員のお客さんに誕生日を祝福されている娘を見て感慨ひとしおであった事だろう。
2時間40分のステージが終わり、終演後にハイタッチ会が二階ロビーにて行われた。ハイタッチ会が終わっても外で待っているファンに向かってメンバーがロビーの窓から大きく手を振る。かなり長く手を振っていたメンバーの姿に、寒空の下で立っていたファンは皆優しい笑顔に包まれていた。それは紛れもなくアイドルとファンの光景であり、それはメジャーであるとかマイナーだとか、表舞台とか裏街道とか、そういう形容詞がすべて陳腐に思える瞬間でもあったような気がした。
グループ内でもトップクラスの人気を誇るあるメンバーが以前ブログでこう語っていた。ファンイベントを二本こなした日の更新に「毎日は繰り返しではなく積み重ね」であると。物語を作るには繰り返しではなく、積み重ねでなくたはいけない。私はコンサートを観た日からアイドルというジャンルの奥の深さと、懐の深さと、味わいの深さを実感している。
【PV】恵比寿マスカッツ/おかあさん
世間によるももいろクローバーZの評判を聞くと、「アイドルの枠を超えた魅力」というものがあるという意見を聞きます。一見、ももクロはスゴいんだなで終わりそうな一句だけれど、その言葉の裏側にはアイドルは枠があり、多くのアイドルはその枠の中に収まっているのだという認識が潜んでいて、その価値観は案外に浸透しているのではないだろうかと思わされます。
今更ここで力説するのもナンですが、アイドルに枠などない!のです。色んなジャンルを内包し、何でも有りな魅力に満ち溢れているのがアイドルなのです。と真顔でまずは書いてみます。
ハロプロオンリーでアイドルと関わっているヲタの方にも形は違えど、今挙げたような認識はあるのではないでしょうか?ない!と言う人は良いですが、ハロプロは他のアイドルとは違うのだという部分にあまりに固執し過ぎた見方をしている場合は、心の中に枠を設けてそこにハロプロと他のアイドルを置いている訳です。アイドルはいずれもオンリーワンなのですから、どのアイドルの目線に立っても他とは違う!になるのは必然なような気もします。一つ一つ、アイドルには他とは違う個性があるという事も言えそうです。
恵比寿マスカッツ スプリングホリデー(PV)
縁あって先日、渋谷公会堂にて行われた恵比寿マスカッツのコンサートに行ってきました。客層は想像以上に幅広く、いわゆるオタクチックさは薄く、活気も感じられる客席は満席でした。
彼女達はいわゆるアイドルとしての顔とは違う本業を持つ訳ですが、その本業ゆえにお客さんも他のアイドルとは違った目線で見られるというのはあるようです。いわば、清純派原理主義みたいな思想が入り込む隙間はなく、応援スタンスの前提としてそのようなものは横に置いている。だからこそ逆説的には安心感があるのだとも言え、応援していく事にストレスも小さいようにも見えました。とにかく観客の雰囲気は明るい。
終演後にロビーに設置されたファンクラブ入会受付コーナーに学校帰りの女の子もいた。この子もクロスオーバーにアイドルを楽しんでいて、心の中に枠などなくて素直にアイドルというものを楽しんでいるのだろうと思えました。
ハロプロなどの正統派とは違い、どこか遠い次元に存在しているかのように位置付けられていながら、正統派アイドルよりも世の多くの男性が存在を知り、幅広くファンも獲得している。そういう意味では彼女達こそが「国民的アイドル」だと思えてきたりもしたのです。角度を変えて見てみれば、その普遍性はアイドルそのものでありながら、見て見ねフリもされている。しかし、アイドルというジャンルは成熟し、そのような表舞台から避けられてきた国民的アイドルをアイドルとして迎え入れる懐の広さを持つジャンルになっていたのです。
~次回に続く~
熱狂的な℃-uteヲタで知られる成瀬心美さんは℃-uteを好きすぎるあまり自分がアイドルの道を目指す事は考えた事はあるのだろうか?そんな事をふと思ってみたりする。それこそ、成瀬さんが恵比寿マスカッツに入る可能性とか考えてもみた。でも、おそらくアイドルの道に行く事はないように思う。熱狂的であればあるほど、アイドルになる事の大変さもわかっていると思う。アイドルはオーディションなどで「選ばれた」人達であると理解もしている事だろう。
℃-uteが大好きで℃-uteの曲に合わせて踊っている女の子が話題になり、その女の子が芸能界へ足を踏み入れる。その女の子はアイドルになるなんておそれ多くてと思っていたとしても、その女の子に商品的な価値を見い出した関係者がいれば、本人の意思とは違うところで話が進んだとしても不思議ではない。勿論、本人が望んだ道である可能性も否定しない。
それは芸能界だから仕方がないのだ。しかし、その女の子のデビュー曲を、℃-uteに曲を書いているつんくPが書くというのは悪のりし過ぎにも思えて、どうせそこまでお膳立てをするのならば、その女の子をハロプロに入れてしまえば良いのにとさえ思う。
好きなものだからこそ、そこからは距離を置いて楽しんだ方が幸せなのかもしれないから、デビューする事に対して本人がどれくらい葛藤したかはわからないけれど、きっと本人の意思とは違うところで何かが回っていそう。そして、成瀬さんはマイペースでヲタライフを楽しんでいる。根っこは同じかもしれないし、同じ℃-uteヲタでも立場が変われば流れも違う。難しいものであります。
Berryz工房の最新シングルが良い。メロディライン、フックとなる歌詞、振り付け、なかなか良いバランス。なんというか、おそらく売上を上げていく事が最重要課題ではなくなったのではないか?と思ってしまう肩の力の抜け方を感じる。これは長きに渡り活動をしてきたアイドルにとって実は大事な要素なのかもしれない。
アイドルというものはファンを増やしていくためには新鮮味がとても大事なのだけれど、Berryz工房はデビュー八周年なグループ。年齢はまだ十代メンバーが多いにも関わらず、ベテラン扱いを受けてしまうのがアイドル業界のシビアさ。でも、もうBerryz工房はゴールの見えないレースに参加しなくてもいいと思うし、作り手も売り手もそう思っていそうな気楽さを発散させております。「売上なんて知らない。元気出して行こうぜ」そんなポジティブなアイドルオーラ満開。
私はふと思った。我々はアイドルというものを難しく考え過ぎていないか?売上なんてアイドルを楽しむ上で一喜一憂するためのスパイスでしかないのではないか?
最新アルバムもなかなか良い出来だったけれど、それはどこか漂うチープ感を同時に肯定してこそ得られる感想であり、でもBerryz工房が現在得られる予算を思えば、これがBerryz工房のベストテイクだと言っても良いし、その流れを引き継ぎ、いや引きずり発売されたこのシングルだって、肯定をするための歌であるような気がする訳です。
それは、好きなものを手放しで絶賛するようなカルトなものではなく、ネガティブな思考をまず捨て去ってこそ楽しめる作品であるという事なのだと思えます。
つまり、(アルバムを含め)これを受け入れられるかが、Berryz工房を現在進行形で愛せるかの診断でもある訳であります。それは、頭でっかちになりつつある世のアイドルヲタへのポジティブシンキングの提案なのでありましょう。
Berryz工房 『Be 元気 (成せば成るっ!)』 (MV)
モーニング娘。の新曲「恋愛ハンター」のMVの評判が良い。演出は今までのハロプロのMVから大きく変化をした訳ではなく、その点ではもう一息頑張ってほしいのだけれど、カメラワークが良いのか、照明さんが良い仕事をしているからか、メンバーがとても凛々しく見える。だから、とてもカッコ良いMVに仕上がっているのだと思います。
踊っているシーンでも、たとえばライトの当て方ひとつで印象は変わる。人の顔というものは非常に複雑な立体であり、女の子は特に角度でいかようにも見え方が変わるものであります。そのあたりに対して繊細な仕事を作り手側が意識をしていれば自ずと良い映像は作れる。今回のMVはそういった見本でもあるのではないでしょうか。
そして、ヲタ的にはラストのガキさんからのメッセージ。これがあるかないかで更に印象は変わった事でしょう。ガキさん、スタッフに拍手を送りたいと思います。
モーニング娘。『恋愛ハンター』 (MV)