2014年4月30日(水) 50歳の春を記念して10年振りとなる第2回目のチャレンジを始めた、バタフライカヤックス・クルーソー460_旅するシーカヤックスペシャルを使っての尺取り虫方式での瀬戸内横断旅。
第1回目ゴールの忠海から戻り、風と雨の二日間は、買い出しやテントの防水処理、妻との温泉ドライブなどで休憩した
そして今日、ゴールデンウイーク中に2回目となる旅に出るべく、前回舟を揚げた忠海に、始発のJRで移動する。
忠海駅から歩いて数分。 出発する港に到着。
約20分でカヤックを組み立てると、近くにあるコンビニに買い出しへ。
水やビール、お昼ご飯の弁当、行動食などを購入し、港に戻って全ての荷物をパッキング。 到着してからここまでで、1時間。
今回は、スペアパドルとセルフレスキュー道具を、スターンデッキに装着してみた。
前回はバウ側デッキだったのだが、この方がビジュアル的にもすっきりして漕いでいる時の気分が良いし、写真を撮るにも好都合。
クルーソー460の組み立てが簡単なメリットを活かし、朝8時には漕ぎだす事ができた。
この旅は、基本的に出発地点までは公共交通機関での移動となるため、今後は早朝に出艇地を出る事は難しくなる。
しかしながら瀬戸内海でのシーカヤック旅は、潮流が一番重要なファクターの一つ。
今のタイミングとエリアでは、午前中が追い潮なので少しでも早く漕ぎだしたいのだが、そんなときに組み立て時間が短い事は大きなメリットなのだ!
***
忠海の港を出ると、追い潮の影響を感じる。 快調なパドリング。
造船所を抜け、
ちょうど1時間が経過したくらいの場所にある、小さな無人島の浜でしばし休憩。
芸予諸島の空は晴れて、快適なツーリング日和。
ここからが、今日の最初の難所。
高根島の北側を抜け、佐木島に渡る海峡横断。 ここは、行き交う船も多く、潮流も早いので、要注意エリアなのだ。
しかし今日は幸いな事に船の往来も少なく、潮も思ったほど流れていなかったので、無事に通過。
佐木島と小佐木島との間の、激潮海峡を漕ぎ抜けた。
ここからは、細島の南端をかすめて岩子島へ。
しばらくすると、因島大橋が見えてくる。
今日の二つ目の難関が、この因島大橋越え。
ここは、潮流が厳しい瀬戸の一つであり、なんとしても昼前に越えておきたい場所なのである。
途中のエディを含む複雑な潮流を越え、なんとか無事に通過した。
時間は11時。 追い潮のおかげで、なかなか良いペースである。
***
想定していた、今日の二つの難関を想定より早い時刻に無事越える事ができたので、そろそろ今日のキャンプ地選定に。
海図とにらめっこして、おおよその見込みを立てる。
想定していた浜に近づくと、なかなか良さげな雰囲気。 『ようし、ここに決定や!』
シーカヤックを引き揚げ、荷物を取り出し、運び上げる。
荷物を運び、カヤックを引き揚げ、テントを張っていると、地元のおじいさんが来られた。
『すみません。 今日、ここでキャンプさせていただきたいんですが』 『ここは、地元の自治会で管理しとる土地なんよ。 わかった。 テント張ってもええよ』
『ありがとうございます』 『ところで、どこから来た?』
『はい、呉からです。 このカヌーで呉から旅をしていて、今日は忠海から漕いできました』 『なに! このカヌーで漕いできた。 そりゃあそりゃあ。。。』
『ワシは、旅が好きなんよ。 自分でクルマを運転して北海道を旅行しよる。 80歳を越えてから、もう3回、北海道まで自家用車で行って、車中泊で旅行した』
『えー、自分で運転して行くんですか?』 『そうよ。 青森の大間まで運転していって、そこからフェリー』
『その先は、行き先は決めてないから、車中泊しながら行きたいところへ行く』 『気分次第ですね。 俺の旅と一緒ですよ』
『ところで買い出ししたいんですが、この近くに食料品を売っている店はありませんか?』 『なに、買い出し。 歩いて。 そりゃ無理じゃ。 店は遠いよ』
『そうですか』 『買い出しに行くんなら、乗せていってやる』
『え、いいんですか』 『ああ、ええよ』 『ありがとうございます』
と、言う訳で、80代半ばだと言う方の軽トラに乗せていただき、10分ほど離れたスーパーへ。
うん、これは歩いては行けないな。
『すみません。 すぐに買ってきますから』 急いで、お弁当とビール、水を購入して軽トラへ戻る。
浜に戻る途中も四方山話。
『それにしてもお元気ですね。 とても80歳を超えているようには見えませんね』 『わしは80歳まで働いて、それからようやく人並みに時間が取れるようになった』
『仕事は何をされてたんですか?』 『いろいろやな。 郵便局の局長もやったし、尾道海技学院の関連の非常勤講師もやりよった』
『尾道海技学院といったら、教頭先生とは顔見知りなんですよ』 『おお、教頭いうたら中田さんか。 何日か前に、家に遊びに来たよ』
『えー、そうなんですか! いやあ、世間は狭いもんですねえ』
***
テントを張った浜に戻ると、『おお、そうじゃ。 旅で困るもんいうたら水じゃ。 そこの家に言うてあげるけえ、必要になったら水をもらいんさい』
ありがたいことである。 さすが、車中泊で旅される方だけあって、的確な気配り/心配り。
『本当にありがとうございました。 おかげさまで助かりました』 『なあに。 わしも旅が好きじゃけん。 明日は気をつけて』
『はい、ありがとうございます』
いやあ、偶然訪れた浜でこんな出会いがあるなんて。 そして、懐かしい人と共通の知り合いだったなんて。
ほんと、世の中狭いものである。
***
俺好みの静かな雰囲気のキャンプサイト。
濡れたウエアも干して、明日に備える。
近くには、きれいな花も咲いていて、最高のロケーション。
瀬戸は夕暮れ。
晩ご飯は、軽トラで連れて行っていただいたスーパーで買って来たお弁当。
エビスビールをゴクリ! 『ああ、美味いなあ』
食事を終えると、ビールを飲みながらiphoneで音楽を聴く。
スターダストレビュー、『木蓮の涙(ACOUSTIC)』
本田美奈子、『つばさ』
JUJU、『Distance』
MISIA、『明日へ』
徳永英明、『あの鐘を鳴らすのはあなた』
シーカヤックでの一人旅。
暮れなずむ瀬戸内の景色を眺めながら、こんな歌を聴いていると、これまで50年間の人生が走馬灯のように思い出される。
嬉しかった事。 悲しかった事。 楽しかった事。 寂しかった事。
飛び上がり、叫びたくなるほどの達成感を味わったあの時。
挫折感に圧し拉がれて絶望し、まるで生きている気がしなかったあの頃。
様々な想いがこみ上げてきて、心はギリギリと締め付けられる。 そんな一つ一つの経験が、今の俺をかたちづくっているのだ。
挑戦したが失敗したものも含め、無駄な経験は一つもないと信じている。
そして、一人旅だからこそのこんな貴重で大切な時間を、じっくりと噛みしめ、慈しむことができるようになった。
***
2014年5月1日(木) 朝5時前に起床。
今日は、6時半頃が干潮なので、追い潮狙いで早めの出発である。
パンで朝食を済ませ、荷物をパッキング。
5時45分には出艇。
まだ気温が低く、風も冷たいので、途中からはスカノラックを羽織ってのパドリング。
百島の北を抜け、常石側に寄って進んでいく。
この辺りも造船の町。
本土と田島を結ぶ橋が見えて来た。
橋を越えたところで、しばし休憩。
あまりの寒さに、ホットドリンクを買おうと自動販売機を探す。
道に出るとすぐに自販機は見つかったのだが、よろこんだのもつかの間。 すべてコールドドリンクであった。
『アチャー。 まだこんなに寒いのに、ホットドリンクなしかよー。。。』
気を取り直し、カヤックに戻ってアンパンを取り出し、パクリ。
時間はかかるが、エネルギーを補給して中から暖めようという作戦である。
再びシーカヤックに乗り込み、漕ぎだした。
この頃から晴れ間も覗きだし、徐々に気温も上がってくる。
阿伏兎観音。
しばらく漕ぎ進むと、今日の目的地である鞆の浦。
港に入り、しばし港内散策した後、仙酔島へと渡る。
今日のキャンプ地はここ。
仙酔島は、鯛網漁の準備も整い、連休モード。
テントを張り、寝床を整備し、着替えると、お昼ご飯を食べるため、渡船で鞆の浦へ。
今日のお店は、『ニューともせん』さん。
以前、妻とドライブに行ったときに見つけたお店で、ランチがおいしかった事を覚えている。
『水にしますか、それともお茶がいいですか?』 『はい、ビールお願いします。 生ビールで』
『いただきます』 一人乾杯! 『あー、美味い』
食事は、焼き肉定食。
これがやはり美味しいのだ。 『ごちそうさまでした』
『営業時間は何時までですか?』 『11時から夜は9時くらいまでですね』
『途中、休憩はありますか?』 『はい、2時から4時までは休みです』
『じゃあ、また夕方来ますよ』 『ええ、ぜひ一杯飲みに来てください』
店を出ると、しばし町を散策。
今日は對潮楼へ。
さすがの眺めである!
ここから見ると、2艇のタンデムカヤックでツーリングしているのが見えた。
この辺りで、本格的なタンデムカヤックでのツアーと言えば、もしかして村上さんかもしれないなあ。
***
夕方4時まで、まだタップリ時間があるので、一旦仙酔島に戻る事に。
空は晴れて、絶好の観光日和。
島内の散策路も快適である。
テントを張っている浜は、訪れる人も少なく静かである。
浜に戻り、干していたウエア類を片付け、しばし休憩すると、国民宿舎でお風呂に入る。
昨日は風呂に入れなかったので、温かいお湯がなんとも心地よい。
4時15分の定期船で再び鞆の浦に渡り、お店へ。
『こんにちは。 晩ご飯食べに来ましたよ』 『あー、いらっしゃい』
『今日は、仙酔島にテントを張っとるんです。 呉からカヌー/シーカヤックで、ここまで漕いで来たんですよ』 『えー、そうなん。 すごいねえ』
『今日は、何がおすすめですか?』 『今日はハゲ。 カワハギじゃねえ』
『じゃあ、煮付けと刺身を』 『煮付けをハゲにするんじゃったら、刺身は別の魚にする?』
『いや、ぜひ”ハゲ尽くし”でお願いします!』
そう、坊主頭の海坊主には、ハゲが似合う。
そして、運ばれて来た刺身がこれ!
さらに、煮付けがこれ!
いやあ、刺身は最高! 肝はもちろん絶品である。
煮付けも旨い。
顔を出されたご主人とも、シーカヤックでの旅の話をさせていただき、また、店に来られた地元の方々から、メバル釣りの話や、素潜りの話などを聞かせていただき、楽しい一時。
干物の店を出されているというおばちゃんからは、干物作りの話を伺い、店の方からは、『このアサリのしぐれ煮は、この人が作ったんよ。 食べてみんさい』
『あ、これ美味しいですねえ』
『これ、さっき採れたばっかりのイカ。 刺身にしたけえ、食べんさい』
『ありがとうございます』 『あー、これも旨いなあ』
そろそろご飯が食べたいな。 『ご飯とみそ汁、いただけますか』
『さっき、鯛飯が炊けたばっかりなんよ。 食べる?』 『えー、いいんですか。 いただきます』
という訳で、おいしい鯛飯とみそ汁で〆。
『あー、本当に美味しかったです。 これはまたぜひ来ますよ』 『こんどは、鞆の浦に素泊まりで来て、ここに飲みにきんさいや』
『はい、ぜひそうします!』
テントを張った浜に戻り、夕暮れの瀬戸内海を眺めながら、焼酎をぐびり。
最高の一日であった。
***
2014年5月2日(金) 今日の干潮は7時過ぎなので、少し遅めの出発。
今日の難関は、福山港越え。
ここは出入りする船舶が多いので、細心の注意が必要なのである。
急流の瀬戸は、潮汐や潮流を確認して対応する事ができるが、港では全く異なる安全対策が必要である。
時間に余裕を持ち、必要なだけ待てる準備をしておくこと。 体力に余裕を持ち、全速ダッシュが必要なときには漕ぎ続けられるように備えておく事。
そして何より、どの船がどんな動きをしているかを観察し、五感を研ぎ澄ませて耳を峙て、見落としがないように常に周囲をワッチし、『かもしれないパドリング』に徹する事。
何度も船待ちをしつつ、安全第一で福山港を漕ぎ抜けた。
神島に到着すると、何度か訪れた事のある浜でしばし休憩。
朝とは打って変わって、快晴のツーリグ日和。
***
もう一漕ぎすると、今回のゴール地点である神島港。
穏やかな港の片隅を借り、シーカヤックを引き揚げた。
カヤックをバラシ、パッキングし、荷物を片付け、タクシーを呼ぼうと検索していると、目の前に一台のクルマが停まった。
運転席には、懐かしい顔が!
『ハラダさん! お久しぶりです。 今日はどうされたんですか』 『クルマをここに置いとるんよ。 今日は市役所に用事があるから来たんよ』
『一目で分かったよ。 これからどうするん?』 『はい、呉から漕いで来たんですが、今日はここで揚げて笠岡駅まで行こうと思うてます』
『乗せていこうか?』 『はい、ぜひお願いします!』
なんという縁であろうか。
まさかこんなところで、俺のシーカヤック人生に多大な影響を受けた、あのパイオニアスピリッツ溢れた第1次瀬戸内カヤック横断隊の同士であるハラダさんにお会いできるとは!
*参考:プレゼ資料
『ここには関所があるから、素通りはでけんでえ』とハラダさん。 『ほんまですねえ。 それにしてもご無沙汰してます』
送っていただく車中、隊長や共通の知人の近況、瀬戸内のシーカヤック動向などについて四方山話。
笠岡駅で下ろしていただき、握手して、『本当にありがとうございました。 ではまた!』
ここからはJRの旅。
海沿いを走るJRからは、所々で今回漕いで来たルートを見る事ができ、旅の余韻に浸る事ができるのが楽しい。
***
最寄りの駅で降り、タクシー乗り場に行くと1台だけタクシーが待っていた。
近寄って覗き込むと、『あ、久し振りじゃねえ』と運転手さん。
『あ、今回もよろしくお願いします』と俺。
そう、第1回目の呉~忠海の時、近くの浜まで乗せていただいた運転手さんだったのだ。
『あれからの帰り?』 『いいえ、一度家に帰って、また出たんです』 『確か、笠岡まで行くいうて言いよったよね』
『ええ、今日は笠岡まで着いて、カヤックを畳んで戻って来たんですよ』 『へえ、すごいねえ』
『いやあ、これも縁ですね。 また次回も送迎お願いしますよ!』
短時間だが、タクシーの運転手さんとも四方山話を楽しみ、最後の最後まで思わぬ出会いに驚いた。
***
50歳の春に2度目のチャレンジを開始した、尺取り虫方式での瀬戸内横断旅。
今回は、地元呉から、クルーソー460と出会った思い出の地である兵庫県姫路市の的形海岸までの東行きだけではあるが、久し振りの尺取り虫旅を楽しんでいこうと思っている。
前回のように、横断する事が目的ではなく、今回は、様々な土地をより深く知り、様々な人との出会いを楽しみ、各地の美味しい居酒屋さんを開拓していく、50歳ならではの旅にするつもり。
前回は3日で漕ぎ抜けた呉~笠岡間を、今回は計5日間かけてたっぷりと堪能した。
そして、これは一人旅なのだが、まるで独り旅でないような多くの出会いと親切なサポートに感謝!
10年前に比べて白髪は増えたが、その分、海での経験を積み、経済的にも余裕が増え、旅を楽しむ心のゆとりができたと思う。
『嬉しい事に、山があり、海がある』
そう、急ぐ旅でもなし、様々な場所に引っかかりながら、のんびりまったり海旅を楽しむ事にしよう!
第1回目ゴールの忠海から戻り、風と雨の二日間は、買い出しやテントの防水処理、妻との温泉ドライブなどで休憩した
そして今日、ゴールデンウイーク中に2回目となる旅に出るべく、前回舟を揚げた忠海に、始発のJRで移動する。
忠海駅から歩いて数分。 出発する港に到着。
約20分でカヤックを組み立てると、近くにあるコンビニに買い出しへ。
水やビール、お昼ご飯の弁当、行動食などを購入し、港に戻って全ての荷物をパッキング。 到着してからここまでで、1時間。
今回は、スペアパドルとセルフレスキュー道具を、スターンデッキに装着してみた。
前回はバウ側デッキだったのだが、この方がビジュアル的にもすっきりして漕いでいる時の気分が良いし、写真を撮るにも好都合。
クルーソー460の組み立てが簡単なメリットを活かし、朝8時には漕ぎだす事ができた。
この旅は、基本的に出発地点までは公共交通機関での移動となるため、今後は早朝に出艇地を出る事は難しくなる。
しかしながら瀬戸内海でのシーカヤック旅は、潮流が一番重要なファクターの一つ。
今のタイミングとエリアでは、午前中が追い潮なので少しでも早く漕ぎだしたいのだが、そんなときに組み立て時間が短い事は大きなメリットなのだ!
***
忠海の港を出ると、追い潮の影響を感じる。 快調なパドリング。
造船所を抜け、
ちょうど1時間が経過したくらいの場所にある、小さな無人島の浜でしばし休憩。
芸予諸島の空は晴れて、快適なツーリング日和。
ここからが、今日の最初の難所。
高根島の北側を抜け、佐木島に渡る海峡横断。 ここは、行き交う船も多く、潮流も早いので、要注意エリアなのだ。
しかし今日は幸いな事に船の往来も少なく、潮も思ったほど流れていなかったので、無事に通過。
佐木島と小佐木島との間の、激潮海峡を漕ぎ抜けた。
ここからは、細島の南端をかすめて岩子島へ。
しばらくすると、因島大橋が見えてくる。
今日の二つ目の難関が、この因島大橋越え。
ここは、潮流が厳しい瀬戸の一つであり、なんとしても昼前に越えておきたい場所なのである。
途中のエディを含む複雑な潮流を越え、なんとか無事に通過した。
時間は11時。 追い潮のおかげで、なかなか良いペースである。
***
想定していた、今日の二つの難関を想定より早い時刻に無事越える事ができたので、そろそろ今日のキャンプ地選定に。
海図とにらめっこして、おおよその見込みを立てる。
想定していた浜に近づくと、なかなか良さげな雰囲気。 『ようし、ここに決定や!』
シーカヤックを引き揚げ、荷物を取り出し、運び上げる。
荷物を運び、カヤックを引き揚げ、テントを張っていると、地元のおじいさんが来られた。
『すみません。 今日、ここでキャンプさせていただきたいんですが』 『ここは、地元の自治会で管理しとる土地なんよ。 わかった。 テント張ってもええよ』
『ありがとうございます』 『ところで、どこから来た?』
『はい、呉からです。 このカヌーで呉から旅をしていて、今日は忠海から漕いできました』 『なに! このカヌーで漕いできた。 そりゃあそりゃあ。。。』
『ワシは、旅が好きなんよ。 自分でクルマを運転して北海道を旅行しよる。 80歳を越えてから、もう3回、北海道まで自家用車で行って、車中泊で旅行した』
『えー、自分で運転して行くんですか?』 『そうよ。 青森の大間まで運転していって、そこからフェリー』
『その先は、行き先は決めてないから、車中泊しながら行きたいところへ行く』 『気分次第ですね。 俺の旅と一緒ですよ』
『ところで買い出ししたいんですが、この近くに食料品を売っている店はありませんか?』 『なに、買い出し。 歩いて。 そりゃ無理じゃ。 店は遠いよ』
『そうですか』 『買い出しに行くんなら、乗せていってやる』
『え、いいんですか』 『ああ、ええよ』 『ありがとうございます』
と、言う訳で、80代半ばだと言う方の軽トラに乗せていただき、10分ほど離れたスーパーへ。
うん、これは歩いては行けないな。
『すみません。 すぐに買ってきますから』 急いで、お弁当とビール、水を購入して軽トラへ戻る。
浜に戻る途中も四方山話。
『それにしてもお元気ですね。 とても80歳を超えているようには見えませんね』 『わしは80歳まで働いて、それからようやく人並みに時間が取れるようになった』
『仕事は何をされてたんですか?』 『いろいろやな。 郵便局の局長もやったし、尾道海技学院の関連の非常勤講師もやりよった』
『尾道海技学院といったら、教頭先生とは顔見知りなんですよ』 『おお、教頭いうたら中田さんか。 何日か前に、家に遊びに来たよ』
『えー、そうなんですか! いやあ、世間は狭いもんですねえ』
***
テントを張った浜に戻ると、『おお、そうじゃ。 旅で困るもんいうたら水じゃ。 そこの家に言うてあげるけえ、必要になったら水をもらいんさい』
ありがたいことである。 さすが、車中泊で旅される方だけあって、的確な気配り/心配り。
『本当にありがとうございました。 おかげさまで助かりました』 『なあに。 わしも旅が好きじゃけん。 明日は気をつけて』
『はい、ありがとうございます』
いやあ、偶然訪れた浜でこんな出会いがあるなんて。 そして、懐かしい人と共通の知り合いだったなんて。
ほんと、世の中狭いものである。
***
俺好みの静かな雰囲気のキャンプサイト。
濡れたウエアも干して、明日に備える。
近くには、きれいな花も咲いていて、最高のロケーション。
瀬戸は夕暮れ。
晩ご飯は、軽トラで連れて行っていただいたスーパーで買って来たお弁当。
エビスビールをゴクリ! 『ああ、美味いなあ』
食事を終えると、ビールを飲みながらiphoneで音楽を聴く。
スターダストレビュー、『木蓮の涙(ACOUSTIC)』
本田美奈子、『つばさ』
JUJU、『Distance』
MISIA、『明日へ』
徳永英明、『あの鐘を鳴らすのはあなた』
シーカヤックでの一人旅。
暮れなずむ瀬戸内の景色を眺めながら、こんな歌を聴いていると、これまで50年間の人生が走馬灯のように思い出される。
嬉しかった事。 悲しかった事。 楽しかった事。 寂しかった事。
飛び上がり、叫びたくなるほどの達成感を味わったあの時。
挫折感に圧し拉がれて絶望し、まるで生きている気がしなかったあの頃。
様々な想いがこみ上げてきて、心はギリギリと締め付けられる。 そんな一つ一つの経験が、今の俺をかたちづくっているのだ。
挑戦したが失敗したものも含め、無駄な経験は一つもないと信じている。
そして、一人旅だからこそのこんな貴重で大切な時間を、じっくりと噛みしめ、慈しむことができるようになった。
***
2014年5月1日(木) 朝5時前に起床。
今日は、6時半頃が干潮なので、追い潮狙いで早めの出発である。
パンで朝食を済ませ、荷物をパッキング。
5時45分には出艇。
まだ気温が低く、風も冷たいので、途中からはスカノラックを羽織ってのパドリング。
百島の北を抜け、常石側に寄って進んでいく。
この辺りも造船の町。
本土と田島を結ぶ橋が見えて来た。
橋を越えたところで、しばし休憩。
あまりの寒さに、ホットドリンクを買おうと自動販売機を探す。
道に出るとすぐに自販機は見つかったのだが、よろこんだのもつかの間。 すべてコールドドリンクであった。
『アチャー。 まだこんなに寒いのに、ホットドリンクなしかよー。。。』
気を取り直し、カヤックに戻ってアンパンを取り出し、パクリ。
時間はかかるが、エネルギーを補給して中から暖めようという作戦である。
再びシーカヤックに乗り込み、漕ぎだした。
この頃から晴れ間も覗きだし、徐々に気温も上がってくる。
阿伏兎観音。
しばらく漕ぎ進むと、今日の目的地である鞆の浦。
港に入り、しばし港内散策した後、仙酔島へと渡る。
今日のキャンプ地はここ。
仙酔島は、鯛網漁の準備も整い、連休モード。
テントを張り、寝床を整備し、着替えると、お昼ご飯を食べるため、渡船で鞆の浦へ。
今日のお店は、『ニューともせん』さん。
以前、妻とドライブに行ったときに見つけたお店で、ランチがおいしかった事を覚えている。
『水にしますか、それともお茶がいいですか?』 『はい、ビールお願いします。 生ビールで』
『いただきます』 一人乾杯! 『あー、美味い』
食事は、焼き肉定食。
これがやはり美味しいのだ。 『ごちそうさまでした』
『営業時間は何時までですか?』 『11時から夜は9時くらいまでですね』
『途中、休憩はありますか?』 『はい、2時から4時までは休みです』
『じゃあ、また夕方来ますよ』 『ええ、ぜひ一杯飲みに来てください』
店を出ると、しばし町を散策。
今日は對潮楼へ。
さすがの眺めである!
ここから見ると、2艇のタンデムカヤックでツーリングしているのが見えた。
この辺りで、本格的なタンデムカヤックでのツアーと言えば、もしかして村上さんかもしれないなあ。
***
夕方4時まで、まだタップリ時間があるので、一旦仙酔島に戻る事に。
空は晴れて、絶好の観光日和。
島内の散策路も快適である。
テントを張っている浜は、訪れる人も少なく静かである。
浜に戻り、干していたウエア類を片付け、しばし休憩すると、国民宿舎でお風呂に入る。
昨日は風呂に入れなかったので、温かいお湯がなんとも心地よい。
4時15分の定期船で再び鞆の浦に渡り、お店へ。
『こんにちは。 晩ご飯食べに来ましたよ』 『あー、いらっしゃい』
『今日は、仙酔島にテントを張っとるんです。 呉からカヌー/シーカヤックで、ここまで漕いで来たんですよ』 『えー、そうなん。 すごいねえ』
『今日は、何がおすすめですか?』 『今日はハゲ。 カワハギじゃねえ』
『じゃあ、煮付けと刺身を』 『煮付けをハゲにするんじゃったら、刺身は別の魚にする?』
『いや、ぜひ”ハゲ尽くし”でお願いします!』
そう、坊主頭の海坊主には、ハゲが似合う。
そして、運ばれて来た刺身がこれ!
さらに、煮付けがこれ!
いやあ、刺身は最高! 肝はもちろん絶品である。
煮付けも旨い。
顔を出されたご主人とも、シーカヤックでの旅の話をさせていただき、また、店に来られた地元の方々から、メバル釣りの話や、素潜りの話などを聞かせていただき、楽しい一時。
干物の店を出されているというおばちゃんからは、干物作りの話を伺い、店の方からは、『このアサリのしぐれ煮は、この人が作ったんよ。 食べてみんさい』
『あ、これ美味しいですねえ』
『これ、さっき採れたばっかりのイカ。 刺身にしたけえ、食べんさい』
『ありがとうございます』 『あー、これも旨いなあ』
そろそろご飯が食べたいな。 『ご飯とみそ汁、いただけますか』
『さっき、鯛飯が炊けたばっかりなんよ。 食べる?』 『えー、いいんですか。 いただきます』
という訳で、おいしい鯛飯とみそ汁で〆。
『あー、本当に美味しかったです。 これはまたぜひ来ますよ』 『こんどは、鞆の浦に素泊まりで来て、ここに飲みにきんさいや』
『はい、ぜひそうします!』
テントを張った浜に戻り、夕暮れの瀬戸内海を眺めながら、焼酎をぐびり。
最高の一日であった。
***
2014年5月2日(金) 今日の干潮は7時過ぎなので、少し遅めの出発。
今日の難関は、福山港越え。
ここは出入りする船舶が多いので、細心の注意が必要なのである。
急流の瀬戸は、潮汐や潮流を確認して対応する事ができるが、港では全く異なる安全対策が必要である。
時間に余裕を持ち、必要なだけ待てる準備をしておくこと。 体力に余裕を持ち、全速ダッシュが必要なときには漕ぎ続けられるように備えておく事。
そして何より、どの船がどんな動きをしているかを観察し、五感を研ぎ澄ませて耳を峙て、見落としがないように常に周囲をワッチし、『かもしれないパドリング』に徹する事。
何度も船待ちをしつつ、安全第一で福山港を漕ぎ抜けた。
神島に到着すると、何度か訪れた事のある浜でしばし休憩。
朝とは打って変わって、快晴のツーリグ日和。
***
もう一漕ぎすると、今回のゴール地点である神島港。
穏やかな港の片隅を借り、シーカヤックを引き揚げた。
カヤックをバラシ、パッキングし、荷物を片付け、タクシーを呼ぼうと検索していると、目の前に一台のクルマが停まった。
運転席には、懐かしい顔が!
『ハラダさん! お久しぶりです。 今日はどうされたんですか』 『クルマをここに置いとるんよ。 今日は市役所に用事があるから来たんよ』
『一目で分かったよ。 これからどうするん?』 『はい、呉から漕いで来たんですが、今日はここで揚げて笠岡駅まで行こうと思うてます』
『乗せていこうか?』 『はい、ぜひお願いします!』
なんという縁であろうか。
まさかこんなところで、俺のシーカヤック人生に多大な影響を受けた、あのパイオニアスピリッツ溢れた第1次瀬戸内カヤック横断隊の同士であるハラダさんにお会いできるとは!
*参考:プレゼ資料
『ここには関所があるから、素通りはでけんでえ』とハラダさん。 『ほんまですねえ。 それにしてもご無沙汰してます』
送っていただく車中、隊長や共通の知人の近況、瀬戸内のシーカヤック動向などについて四方山話。
笠岡駅で下ろしていただき、握手して、『本当にありがとうございました。 ではまた!』
ここからはJRの旅。
海沿いを走るJRからは、所々で今回漕いで来たルートを見る事ができ、旅の余韻に浸る事ができるのが楽しい。
***
最寄りの駅で降り、タクシー乗り場に行くと1台だけタクシーが待っていた。
近寄って覗き込むと、『あ、久し振りじゃねえ』と運転手さん。
『あ、今回もよろしくお願いします』と俺。
そう、第1回目の呉~忠海の時、近くの浜まで乗せていただいた運転手さんだったのだ。
『あれからの帰り?』 『いいえ、一度家に帰って、また出たんです』 『確か、笠岡まで行くいうて言いよったよね』
『ええ、今日は笠岡まで着いて、カヤックを畳んで戻って来たんですよ』 『へえ、すごいねえ』
『いやあ、これも縁ですね。 また次回も送迎お願いしますよ!』
短時間だが、タクシーの運転手さんとも四方山話を楽しみ、最後の最後まで思わぬ出会いに驚いた。
***
50歳の春に2度目のチャレンジを開始した、尺取り虫方式での瀬戸内横断旅。
今回は、地元呉から、クルーソー460と出会った思い出の地である兵庫県姫路市の的形海岸までの東行きだけではあるが、久し振りの尺取り虫旅を楽しんでいこうと思っている。
前回のように、横断する事が目的ではなく、今回は、様々な土地をより深く知り、様々な人との出会いを楽しみ、各地の美味しい居酒屋さんを開拓していく、50歳ならではの旅にするつもり。
前回は3日で漕ぎ抜けた呉~笠岡間を、今回は計5日間かけてたっぷりと堪能した。
そして、これは一人旅なのだが、まるで独り旅でないような多くの出会いと親切なサポートに感謝!
10年前に比べて白髪は増えたが、その分、海での経験を積み、経済的にも余裕が増え、旅を楽しむ心のゆとりができたと思う。
『嬉しい事に、山があり、海がある』
そう、急ぐ旅でもなし、様々な場所に引っかかりながら、のんびりまったり海旅を楽しむ事にしよう!