Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

懐かしい灯りと懐しいレスターの音色

2013-06-04 10:25:46 | JAZZ
5月の末に梅雨入りしたと思っていたら、月が6月に変わっても皮肉なことにお天気は五月晴れみたいな日が続いている。夜勤明けの休日は初日が横浜港付近の散歩。シーサイドの山下公園前では産貿会館の定期骨董市が行われていた。その骨董市で鋳物台座の卓上スタンドをゲットする。照明を囲むガラスシェードだけがいかにも現代の中国風量産品、その浅薄感故にお値段は弱気だ。しかし台座もステイにもそこそこの50年代風アメリカン的古格がある。8千円という腰の引けた値段がついている。骨董業界では最近流行のアベノミクス効果などはまったくの空語らしい。ずっとデフレが続いていて島岡達三さんの「三島手」象嵌模様の名品、沖縄壷屋の金城次郎の魚紋壷といった名品も二十年前の半値以下で売っているのが実情という会場一瞥歩きの余談である。

しかしながらこれはガラスを替えればよい方向へ化けると踏んだ。自分で楽しむ為の貧数寄冥利というやつである。ちょうど日向薬師の台所で使っていた輪花状の曇りガラスの小さなシェードが仕舞ってある。買ってきた二日目の休日はこれを付け替えてジャズ三昧することにする。輪花状の曇りガラスシェードは町田と高尾の中間、ちょうど法政大学の山に囲まれた八王子キャンパスの付近にある骨董店にて昔買った品物である。三点留めの共通仕様のせいで付け替えは上手くいった。超一流のビンテージとはいかないが、ガラスの付け替え効果のせいで二万円程度の卓上ランプに格が上がったようだ。球の色調を更に工夫すれば雰囲気はもっとよくなって成長してくれそうである。

スピーカー付近の灯りによるせいか、最近アメリカのアップタウンレーベルから発売されたレスター・ヤングのライブ盤CD「BOSTON1950」スコット・ハミルトンの「REMEBERING BILLIE」等の新譜を聴く楽しみが倍になった。アップタウンのレスターは英文の注記によると全て未発表とのこと。ボストンのインテリが録っていた珍しいものでジャズの世界は奥が深い。尻切れトンボになるテイクが3曲あるのが残念だが、規模の大きめなライブレストラン「ハイ・ハット」での隠し録音なのだろうか?迫力あるコンボ演奏の臨場性がよく録れていて好事家には堪えられない記録である。

ジャケの表紙には横向きのレスターがベロシティーマイクにサックスの朝顔を向けている。奥の方に見えるピアニストの顔はホレス・シルバーだ。後年の崩れた顔からは想像できない青年の凛とした香りが立ち上っている。しかし日付の異なる収録の多くはピアニストがケニー・ドリューでシルバーは最後の二曲だけの参加である。最後の曲「ブルー・アンド・センチメンタル」が惜しい。レスターはパーフェクトなアンニュイの表出、ジェス・ドレイク(トランペット)のハイノートは至高の輝きを放っている。ホレス・シルバーのソロも無機質とリリカルを攪拌したような魅力溢れるピアノ打音が既に現れている。しかし尻切れという顛末。ケニー・ドリュー、コニー・ケイ(ドラムス)も後年の開花を彷彿させる演奏でレスターに対して神妙にかしずいている。レスターもパーカーも新世代の芽を育てることには長けていたようだ。

CDのレスター全集に登場する曲(LPではマーキュリー、ノーグラン、ヴァーブ原盤)でお馴染みの選曲だが「シーズ・ファニー・ザッツ・ウエイ」「町の噂」「中国行きのスロウボート」「インディアナ」が特に感銘したトラックである。レスターの脱力名人技をモダンテイストに支えようとする新潮流を感じ取ることもこのCDの魅力だと思っている。因みに以上に掲げた曲の収録日が期せずして1950年の本日、6月4日というのも面白いことだなと思う。