打ちあわせ時間には少し早く新宿へ到着する。「かのや」にて「とろろせいろ」480円の立ち食いの昼食になった。付近の立ち食い蕎麦を凌駕している茹でたて蕎麦のよく締まった味わい!しかし量の少なさも関西気風的狡猾路線が滲みでていて残念也。どこかで食後のお茶を思案していて東口、新宿通りへ出る。紀伊国屋ビルを抜けるうちに久しぶりの「 DUG」にてジャズを聞きたくなった。
アドホックと向かい合っていたあの味わい深い旧「DUG」はすでにない。あちらでは千駄ヶ谷のジャズカフェが最終期になっていたころの村上春樹にもよく出くわしたことがある。何年ぶりだろう。後発の靖国通り「 DUG」もすっかり貫禄がついている。床も煉瓦、壁も煉瓦の室内はめまぐるしい変貌が特徴の新宿ではすでに立派な古典店舗になりきっているようだ。
客は午後の半端時間に入って数人、それも50歳以降の男性客ばかりだ。みんな、新宿へ来たら足が向いてしまうという若き日からの習い性のせいだろう。珍しくパイプをくゆらせている紳士を見かける。パイプの煙と「DUG」はお似合いの光景である。
BGMはCDでベニー・グッドマンバンドの麗しい数々のヒット曲が流れていてとても気分がほぐれる新宿の午後である。途中のシンガーが歌う「そして天使は歌う」などは大昔のマーサ・ティルトンの歌が好きだが、この声の抑揚はヘレン・フォレストあたりだろうかと推測しながら聴くのも面白い。
展示しているモノクロ写真はセロニアス・モンク、アリス・コルトレーンと打ち合わせをしているジョン・コルトレーン、いかにも硬骨な時代を生きてきた「 DUG」オーナー中平穂積さんの気質を反映した新宿ジャズ遺風を感じさせる景物である。コーヒー420円を飲んでから小田急ハルク2Fの「ビックカメラ」を眺めていたら、打ち合わせの午後3時が近づいてきて、西口交番前へと向かう。