定期勤務を辞めて水曜のアルバイト以外の日はフリーになった。閑居するわけだから時間が有り余ると思ったらそうでもない。未曾有な積雪に見舞われた甲州や佐久・軽井沢地方に住む敬愛しているブロガーの日記から滲みでる苦渋の呟きに同情しながらも、自分もバイクを通す為の除雪、駐車場に積み上がった屑雪の山を除けたり、いつもよりも汗をかく事が多い二月である。
今年に入って思いたったことは、歩くことの自覚化だ。一日5キロ程度歩けば体内に沈殿する不要脂肪は燃えてくれる。定期勤務のしばりから開放されて弛緩した時間を過ごすうちにいつのまにか体重が増えている。これを克服しようと一念発起することにした。いつも愛好している散歩に少し色をつけて引き締めればいいだけの話だ。近距離ではバスに依存しない。時間の余裕があれば電車も一駅程度は歩くに限る。
二月に入って最初のトライアルがあった。葉山に住む知人から旭屋肉店の葉山コロッケをあげるから逗子駅まで届けると電話があった。その申し出を断って旭屋肉店のある元町の海沿いまでJR逗子駅から歩くことにした。県道を逗子の新宿海岸へ抜けてマリーナなどの景色を横目で眺めながら、30分をリズミカルに歩く。ここで揚がったばかりのコロッケを友人が用意してきてある千切りキャベツ、キュウリなども挟み旭屋の専用パンに挟んでコロッケサンドができあがった。近所のテラスに座ってこのサンドと珈琲を楽しむことになった。速足の消費エネルギーはこの食事によってすぐカロリーチャージされたことになるけど、人生は小さな美味の満足によって成り立っているものと揚げたばかりのジャガイモと挽肉のハーモニーを味わう。これを機にさまざまな散歩バリエーションが潜んでいることに気づくことになる。
国道246号の西原という無粋な場所に隠棲する住家がある。これを南に歩いても相鉄電車が走るさがみ野駅までは2キロ足らずである。以前はバイクで一走りという簡易な方法を辿っていたが、急がない場合はこれもウオーキングコースにしてしまう。さがみ野の駅付近には小休止しやすいスペースもある。数日前は駅前までウオーキングしてブックオフで汗をぬぐうと同時に持ち前の目利きも発揮する。京都の何必館(かひつかん)という河原町三条にあるモダンアートのギャラリーを運営する梶川友久が監修したフランスの写真大家ロベール・ドアノーのモノクロ写真集をゲットする。500円也。2001年に開かれた展示会用のカタログらしい。
これで得をした気分になり今度は、駅前の北側にある小さく優れた「OJI-PAN」に寄ってみる。手作りパン屋さんらしい個性が主張されているオレンジやチョコをあしらった菓子系のパンにいつも唸ってしまうお店だ。そこで昼用の調理パンを購入する。小さめなピッザ生地パンにズッキーニやパプリカがチーズ等と溶け込んで楽しそうにひしめいているこの店らしい美意識が反映したオブジェパンである。
ドアノーのビストロで腕組みしている物憂げな女の肖像でも眺めながら、ネスレの偽ココアを喫しつつパンのカラフルを頬張るのは愉快そのものだ。因みにパリの広場でキスをしているもう1点の有名写真のオリジナルプリントは2005年の4月にパリで行われた競売では15万5千ユーロ(約2100万円)という高値で落札されたという曰くのある写真でもある。
昨日は雪の痕跡も薄らいできた巡礼大橋の袂で白梅をもいできた。ウオーキングの往路ではみ出した野生梅を発見して心にインプットする。復路で100均ショップへ寄る。ここで園芸バサミを臨時購入する。枝には寒冷に戸惑っている様子の蕾がびっしりとついている。ほんとうにこの春は遅い。これを帰ってきて益子のモクレンをあしらった偏古壺へと活けてみる。窓辺には地味な春が漂い始めてその消えそうな香りをしばし慈しむ夕刻となる。
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