両親の法要のため帰省した今年の夏。
北海道白老町の虎杖浜温泉でのこと。
人もまばらな寂れた大広間に可愛い小さな孫を連れたおじいさんがいました。
そのおじいさん私が湯船に浸かっていたところ、立ち昇る湯けむりからユラユラとやってきました。
近眼乱視老眼の私は目を凝らしますと、なんとおじいさん、全身ご立派な彫り物を施されています。
お互いに軽く挨拶し、あとは熱めのお湯に浸かります。
任侠じいさん、負けん気からかなかなか湯から出ません。
負けじとおっさんボクサーの私はじいさんより一秒でも長く浸かっていようと、しばらくジャブの差し合いをしました。
眼でフェイントかけたりしたりして。
リング中央でお互いの力量を探り合う一ラウンド目のボクサー同士と言ったところでしょうか。
そうこうしてしばらくの膠着状態の後、年齢、スタミナ、日頃の鍛錬で上回る私に挨拶して、そのじいさんがリングから降りて行きました。
勝ったあ~!
でも何に勝ったのだ?
じいさんに勝ったのか、己に勝ったのか?
俺、アホちゃうか?
と、思いながら脱衣所へ戻ると、そのじいさんが彫り物を背負いベンチに座っていました。
さながら、戦いに敗れて疲れ果てた佇まいです。
そして私に一言
兄ちゃん!いいカラダしてるねえ~!
なんかしてる?
と聞かれました。
え~、私は兄ちゃんじゃなくて58才のオッさんです。
ボクシングをしてまして、え?プロ?
いえいえ滅相もございません。ただ、トレーナーはファイティング原田ジムのA級ボクサーで、で、今度日本ランクをかけて云々。
え?私のジム?
え~と、ファイティング原田ジムです。(ゴールドジムじゃわかんないし)
え?私?
ウエルター級です?前はライトだったんですけど、減量がキツくて~
云々
などと、素っ裸のおやじふたり、寂れた温泉の脱衣所でまったり語り合ってしまいました。