かりん

夕べから台所の天井の方からコソコソガサガサ音がする
虫の羽音にしては少し大きい
母は気になって仕方ない
表に出て外に出てみるが　屋根のほうを見ても何もない
雨どいに耳を当てると　音の原因はこの中にあるようだ

「かりんおいで」
母はかりんを連れて二階へ上がる
台所の上の部屋の窓を開けて　かりんに屋根の端にある雨どいの入り口を指さす
「ちょっと見てきて」

物音がかりんにはよく聞こえるのだろう
窓からぴょんと屋根に降りたかりんはまっすぐに雨どいの方へ向かった
首をかしげてといの中を少し覗き
腕をおもいっきり突っ込んで雨どいの中をかき回す

すると雨どいの中から黒いこうもりらしきものが慌てて出て行き　物音はしなくなった
かりんは再び首をかしげて　飛んでいく黒い物体を見送り　母の待っている窓の方へ振り向き意気揚々と戻ってきた

「かりん　ありがとう」
母はかりんを迎え　階下の台所へ戻る
「あんた、猫よりマシね」
後ろを歩くかりんに声をかけてはっと振り向く

「あんたは猫だったわね」

母の娘への最大級の褒め言葉は「猫よりマシね」だった
かりんは母を見上げて　丸い目をクルンとさせて
母を追い越し　階段をトントンと降りて行った