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元旦放送のテレビ番組「芸能人格付けチェック」で行われた、100万円の超高級ワインと5000円のワインのブラインドテイスティング。番組を見た視聴者から多くあがった声は、「一流芸能人を悩ませた5000円のワインは何だったのか?」というものでした。そこで今回は、6万部突破のベストセラー『教養としてのワイン』(ダイヤモンド社刊)の著者であり、元NYクリスティーズのワインスペシャリストである渡辺順子氏に、5000円のワインの正体に迫ってもらった。
● 超高級ワイン「ムートン・ロスチャイルド」とは?
お正月恒例のテレビ番組「芸能人格付けチェック」では、100万円の超高級ワインと5000円のワインのブラインドテイスティングが行われました。
このとき超高級ワインとして出されたのが、1959年のムートン・ロスチャイルド(ロートシルト)です。拙著『教養としてのワイン』でも紹介しましたが、イギリス系ロスチャイルド家が1853年に買収したムートン・ロスチャイルドは、パリ万博の際に行われたメドック格付けの際には「2級」に格付けされていました。しかし、2級には甘んじていないロスチャイルド家の当時のオーナー、フィリップ男爵の尽力により、1973年に見事1級に昇格することになったのです。ムートンを含み5つしかない1級シャトーは、「ボルドー5大シャトー」と呼ばれています。
マンモスワインの異名を持つ1959年のムートンは、パワフルなタンニンを含み、深い果実味とミントの味わいが特徴で100年は美味しく飲めると言われています。ボルドーの奇跡と言われた最良の年「61年産」でさえ出すことができなかったパワフルなタンニンが、驚異的な長期熟成を可能にしました。
タンニンは、熟成中の酸化による劣化からワインを守るとともにワインの骨格を形成し、より深く複雑な味わいを醸し出します。豊富なタンニンを含んでいた1959年のムートンも、醸造から60年を経て、柔らかく芳醇な果実味を醸し出す味わいに変化していたと思われます。
● 100万円のワインの対抗馬として出された 5000円のワインとは?
では、その対抗馬として出された5000円のワインとは何だったのでしょうか。番組では、このワインについては「フランス・ボルドー産」であること以外は明かされませんでしたが、一流芸能人たちを悩ませるその味わいに「このワインはいったい何なんだ?」と思った方も多かったようです。
もちろん、その正体は番組関係者のみが知るところですが、1959年のムートン・ロスチャイルドの特長を考えると、いくつかその候補があがってきます。
本命として考えられるのは、ムートンと同じ産地ポイヤック村の「シャトー・ペデスクロー」です。シャトー・ペデスクローは、1855年のメドック格付けで5級に選ばれたものの、長年低迷していたシャトーです。しかし最近では、2009年に新しいオーナーを迎え、恵まれたテロワールを最大限に生かした息の長いワイン醸造に着手しています。
シャトー・ペデスクローのワインは、ムートンと同じくパワフルなタンニンを多く含みます。しかし、1959年のムートンに比べると、まだ若いワインのために渋さと硬さが残っていたと思います。そのため、おそらく番組のテイスティングの際には、ダブルデカンタを行い、まろやかさを引き出してムートンにも負けない芳醇な果実味を醸し出していたのではないかと想像が膨らみます。
同じくメドック格付けで2級に輝いたシャトーデュルフォール・ヴィヴァンのセカンドワイン「ル・ルレ・ド・デュルフォール・ヴィヴァン」も良心的な価格で本格的なボルドーを堪能できる1本であり、その候補にあがります。「ル・ルレ・ド・デュルフォール・ヴィヴァン」の2008年産や2009年産はすでに熟成がピークに達しているため、1959年のムートンと同じくタンニンがまろやかに変化し、古典的なボルドーの味わいとなっています。
ちなみに、番組で出されたボルドー産ワインではありませんが、ボルドースタイルを極めるカリフォルニア・ナパのワインにも、ボルドー5大シャトーを彷彿させる中堅クラスのワイナリーが数多く存在します。パーカーポイントの評価も高い「ラ・ホタ」「エチュード」「ベリンジャー」「ルイ・M・マティーニ」などは口当たりがまろやかで飲みやすく、バランスもよいため、高級ワインとのブラインドテイスティングにもよく選ばれる銘柄です。