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寝つきの悪い人に朗報! 多忙でストレスを抱えがちなビジネスパーソンの現実に適した、夕方以降(終業後、帰宅後)のちょっとした習慣で入眠を誘い、翌朝スッキリ起きられる「白濱式・48の睡眠メソッド」を解説した『9割の不眠は「夕方」の習慣で治る』から、すき間時間に誰でも実践できる睡眠のマネジメントを紹介します。
会社を出たらネクタイを外す
前回の説明で、眠るためにはリラックスが大事なのはわかったけど、ではリラックスってそもそも何?
このような疑問を抱いている人もいるかと思います。
ここでは、その答えを簡単に説明しておきましょう。
人間の睡眠メカニズムには、基本的には夜になると眠くなって睡眠を取るという生体リズムが働いています。これは遺伝子に組み込まれているもので、体内時計によってコントロールされています。
そして体内時計を調整するのが自律神経です。自律神経は、交感神経と副交感神経の2種類の神経で構成されています。
交感神経は緊張しているときに働く神経で、日が昇り始めるとともに活動を始め、昼頃にピークを迎えます。
一方で副交感神経は、リラックスしているときに優位になる神経です。一日の活動で傷ついた細胞などを回復させることを目的として、日没の頃から働きが活発になり、睡眠中に最も活動性が高くなります。
つまり、副交感神経をよく働かせ、交感神経の働きを鎮めることが、スムーズな入眠につながるのです。逆に副交感神経がきちんと働かないと、なかなか寝つけなかったり、眠りが浅くなったりして、心身を十分に休めることができなくなります。
前回説明したチョコレートの摂取も、副交感神経を活性化させるためのひとつの方法です。ほかにも、終業後にネクタイを外すだけでも、緊張状態を緩和させる働きは小さくありません。
些細なことですが、会社を出てからは少しずつ解放感を積み重ねて、リラックス効果を"自分の脳を騙すように"演出することがポイントです。
もちろん、ジムやコンサートなど、寄り道をしてプライベートな時間を楽しむのも手です。「興奮し過ぎると眠れなくなるのでは?」という不安を抱く人もいるかと思いますが、眠る直前ならともかく、適度な楽しみやリラックス効果は睡眠に欠かせない副交感神経の働きを活発にします。
帰宅時の電車の中では絶対に眠らない!!
夕方以降、リラックスすることを意識すると、電車の中でつい眠たくなってしまうことがあります。しかし帰宅途中の電車の中こそ、睡眠の質を左右する最も注意すべき時間帯といっていいでしょう。
ずばり、帰りの電車の中では絶対に眠らないようにしてください。
前回説明しましたが、朝起きた人間の体は夕方頃に自然と体温が高くなり、夜にかけて徐々に下がっていきます。この落差が眠気を催し、スムーズな入眠に導きます。
しかし、夕方に眠ってしまうと上がるはずの体温が上昇せず、眠る時間になっても体温が下がらなくなります。そうなると睡眠のリズムが崩れ、なかなか寝つけなくなります。
私のクリニックに初めて来る患者さんに、意外と共通しているのが「帰りの電車の中で寝ている」という点です。逆にいうと、この時間帯の睡魔をコントロールすることで、入眠のしやすさがグッと改善された患者さんも少なくありません。
夕方の時間帯は、いわゆる「睡眠の禁止ゾーン」。仮眠を取る場合は、「15時までに20分以内」という睡眠のルールを忘れずにいてください。
夕方以降はブルーライトを遠ざける
機能の高度化により、今や手放せない存在となったスマートフォン(携帯電話)やタブレットといった小型のIT機器。ただ、これらのディスプレイから発せられる光はブルーライトと呼ばれ、睡眠の質を低下させる可能性があります。
その主な理由として、ブルーライトが目や脳を覚醒させてしまうことが考えられます。ブルーライトは波長が紫外線に近く、目の角膜や水晶体を通り抜けて網膜まで到達し、交感神経を刺激する働きがあるとされています。
そうすると結果的に入眠の妨げとなってしまったり、睡眠の質に悪影響を及ぼしたりといった弊害を起こす可能性につながります。またこれらのIT機器が発する電磁波も、深い睡眠の妨げとなる可能性があります。
しっかり睡眠時間を確保しているはずなのに、どうも疲労感が取れないという人は、睡眠直前まで長時間スマートフォンを操作しているようなことはないか、振り返ってみてください。
目安として、睡眠の1~2時間前はブルーライトをなるべく見ないようにするのが理想です。思い切って寝室ではスマートフォンを操作しない、というのもひとつの方法です。
スマホ画面にブルーライト用フィルムを貼る
とはいえ、現実的には仕事関係の着信がないか定期的に確認しなければならない人や、帰宅後は趣味のゲームを楽しみたい人など、どうしてもスマートフォンを手放せないというケースもあるかと思います。
そんな人におすすめしているのが、ブルーライトをカットする液晶保護フィルムです。
市販商品のなかには20~25%前後もブルーライトをカットするものもあり、貼るだけで目の負担は大きく変わってきます。価格も1000~2000円程度なので、それほど高価なものではありません。スマートフォン本体を遠ざけて使用するよりは、気軽に実践できるかと思います。
画面輝度全体を機器設定で下げるのもひとつの手ですが、「文字が読みづらくなるのは避けたい」という人は、効率的にブルーライトを遮断する専用フィルムを貼るのがおすすめです。
もし可能であれば、会社の個人用パソコンもブルーライトカットの対策フィルムを貼りましょう。睡眠への影響もさることながら、ブルーライト対策は眼精疲労の軽減にもつながるでしょう。業務は長時間のデスクワークが中心という人は、ぜひ試してください。
最初はちょっと暗いかな、というくらいがちょうどよい按配です。早ければ30分後にはすっかり慣れているはずなので、しばらく使い続けてみるのがコツです。
会社を出たらパソコン用メガネをかける
ブルーライトをカットするアイテムで、もうひとつ紹介しておきたいのがパソコン用メガネです。
これは、メガネのレンズがブルーライトの吸収や反射をしてくれるという商品です。メガネ量販店などで気軽に購入でき、度つきの商品も販売されています。
このアイテムのよいところは、帰宅途中の様々なブルーライトをカットしてくれるということ。
ブルーライトは何もスマートフォンやタブレットの画面に限った話ではなく、LED照明や昼白色の蛍光灯にも含まれています。
つまり駅のプラットホームや電車の中、あるいは飲食店の照明など、街中のいたるところでブルーライトが溢れているのが現状です。
そこで役立つのが、パソコン用メガネ。これを装着することで、夜間のブルーライトによる悪影響をさらに軽減することができるというわけです。
個人差はありますが、夕方以降にパソコン用メガネをかけるだけでも、不思議と心がリラックスでき、自然と眠たくなるような心地よい感覚が得られます。逆にいうと、いかに日頃大量のブルーライトを目に浴びているのかがわかります。
ただ、注意しておきたいのはアイテムに頼りすぎることです。パソコン用メガネも液晶保護フィルムも、ブルーライトを100%カットするわけではなく、あくまで習慣改善の補助として使うツールです。
就寝の1~2時間前はなるべくブルーライトを遠ざけるというルールを忘れず、上手にこれらのアイテムを睡眠習慣に取り入れることを心がけましょう。
帰りは階段を使う、一駅歩くだけで入眠のスイッチが入る
帰宅時に意識すべきポイントとして、あわせて紹介したいのが「運動量を増やす」ということです。
といっても、何も走って帰るというようなハードな運動をする必要はありません。むしろうっすら汗をかくくらいの、ささやかな運動の方が望ましいでしょう。
これは、体温の緩やかな落差を作るための働きかけの一環です。前回説明した通り、体温を意識的に上げておくことで、その後放熱により体温が下がり、スムーズな入眠につなげやすくなります。
具体的な内容では、ストレッチやヨガなど、比較的軽い運動を15分程度、自宅で行うのが理想です。
ただし、たった15分とはいえ、帰宅後の貴重な時間のなかで運動を習慣化するのは想像以上にハードルが高く、長続きしない人も少なくありません。
そこでおすすめなのは、帰路の駅内ではエスカレーターではなく、階段を使うこと。また駅から自宅まで距離があり、自転車通勤をしている人は徒歩で帰宅。駅まで近い人は、一駅分歩いて帰ることを心がけるとなおよいでしょう。
要は帰宅までの過程で、入眠のスイッチを少しずつオンにしておく、ということが有効です。軽く交感神経を刺激して、その反動で副交感神経を活性化させ、じわじわと眠気を演出する、というのが狙いです。
逆に避けたいのが、激しい運動を就寝までの3時間以内に行うこと。体温が上がっても、交感神経を著しく刺激してしまい、興奮してなかなか眠れないという失敗に陥りがちです。
たとえばジョギング習慣のある人は、就寝予定までの時間を逆算して走行時間を調整するのがベターです。
夜のお酒は眠る3時間前までに
ある統計によると、日本人は世界一寝酒が好きな民族という特徴があるそうです。
確かに私のクリニックの患者さんのなかにも、「ベッドに向かう前に飲まないと眠れない」という寝酒が習慣化してしまっている人もいます。
しかし、断言します。寝酒は睡眠の質を確実に低下させます。今日からでも、睡眠の直前にアルコールを摂取することを控えてください。
お酒を飲むと一時的に血行がよくなり、体温が上がります。その反動で体温が下がるためにスムーズに入眠できるのでは、と考える人もいるでしょう。
確かに眠くなりますが、アルコールは摂取してから3時間ほど経つと、アルデヒドという毒性物質に分解されます。これが交感神経を刺激して、覚醒効果を生じさせます。
つい飲み過ぎてそのまま眠ってしまった夜に、ふと数時間後に目が覚めてしまった経験がある人もいるかと思います。それは、アルデヒドが交感神経を刺激していたからなのです。
飲酒のタイミングは、激しい運動と同じく就寝の3時間前まで。もし、仕事上の飲み会などで遅くまで飲酒をする機会があるときは、就寝時間をズラして、アルコールが分解されるのを待ってから眠るのが鉄則です。
そのほか、タバコのニコチンやコーヒーなどに含まれるカフェインも、覚醒作用があります。これらの摂取も、就寝の3時間前までにするようにしましょう。
飲酒や喫煙で体がリラックスできているつもりでも、実は交感神経を刺激しているので、体は覚醒に向かって働きます。そうなると、いくらスムーズに眠ることができても体は休まらず、疲労感は取れません。
睡眠の質を低下させないためにも、飲酒や喫煙は摂取のタイミングをコントロールすることを意識しましょう。
いかがでしたでしょうか?
これまで2回に渡って「眠りにつながる夕方以降の習慣」を取り上げてきました。
入眠のポイントは、体温リズムを知り、夕方に体温を高めることです。
ここでお断りしておきたいのが、取り上げた方法のすべてが、すべての人に効果があるとは限らないということです。
もし、実践後になかなか睡眠の質が改善されないと感じたときは、「不眠症」の可能性も考えられますので、睡眠に関する専門医のいる医療機関で受診されることを強くおすすめします。
人生の3分の1の時間を費やす睡眠は、仕事だけでなく、プライベートや健康管理などにも関わるライフスタイル全体の「基盤」となっています。つまり睡眠の質は、人生の質を左右するといっても過言ではありません。
夕方の習慣が快眠のきっかけとなり、それがあなたの豊かな人生の支えとなれば幸いです。
(了)
【著者】白濱龍太郎(しらはま りゅうたろう)
睡眠専門医・RESM(リズム)新横浜睡眠呼吸メディカルケアクリニック院長。関東初の睡眠時無呼吸症候群の病院長を務め、現在は新横浜に、寝具メーカー丸綿本社内に、睡眠障害、呼吸器内科疾患専門のクリニック「RESM(リズム)新横浜」を開設。いま多くのビジネスパーソンを悩ます、睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、むずむず脚症候群、REM睡眠行動障害等の保険診療が可能な専門施設として注目される。治療にとどまらず、栄養指導や生活習慣指導を実施。自身も体調管理や健康への意識は高く、休日にはサーフィンやトライアスロンの大会に出るなどアクティブに活動。最近はワールドビジネスサテライト出演、日経新聞掲載をはじめマスコミ露出が多く、休診日には全国にて講演を行うなど、「睡眠」の分野でいま最も注目されるドクターである。著書に『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』(アスコム)、『9割の不眠は「夕方」の習慣で治る』(SB新書)などがある。