祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

定本宋斤句集 春 11
白 魚 くちびるに触るるを吸いぬ白魚汁
初 蝶 初蝶に逢ふてたのしもひとりゆく
蝶 款乃に岸は芦間の蝶々かな
蝶を見ず峰入衆の白衣また
片蝶の水に春き去りにけり
せせり蝶の道化の顔や放ちやる
猫の戀 うちの猫男となりし雨を往く
春の蝿 水仙の乱れに入りぬ春の蝿
鮎の子 鮎の子の寸餘が口を結びたる
若 鮎 若鮎のすゞしく全き春

定本宋斤句集 春 10
雀の宿
雀の宿 雀の宿の網行燈も巣なりけり
春の鳥 みな鳴いて梢に出たり春の鳥
鳥帰る 御僧の眉しづかなり鳥帰る
松代車中
雲 雀 見凝らすや川中島に立つ雲雀
この堤伏見京まで雲雀空
琵琶湖船遊
鷺 巌の鳥鷺の外なき白き散る
龜鳴く 亀鳴くや柳重たく大おぼろ
桜 貝 ひとの掌に羨みあるや櫻貝
春の貝 舌出して夢見ているや春の貝
蛤 蛤の閉じたる中のたつき哉
櫻 掘の下厨に引かれて蜷の水
諸 子 初諸子諦めたる口に紅ふくみ
櫻うぐひ 丹生三社詣でゞ泊まり花うぐひ
飯 蛸 飯蛸や紅梅すでに散り失せて
蝌 蚪 巴してコップの底の蝌蚪ふたつ
定本宋斤句集 早春社刊

定本宋斤句集 春 9
壬生念佛 壬生念佛雲うらうらと淡きゆく
十萬人のひとりに待てり 壬生念佛
般若寺 般若寺いでゝ廓の宵ともし
西吟忌 風こまやかに花に直ぐなり西吟忌
淡路に嘉兵衛忌を修す
嘉兵衛忌 嘉兵衛忌の淡路島空雁北す
春の雁 吟行子みな仰ぎつる春の雁
いく雁の雲には入らぬ羽打ち見ゆ
鶯 鶯を頂上に聴き山暑し
鳥の巣 鳥の巣にちるものありて水の上
燕 水村の空ひろく来し燕かな
大原三千院
大 原 大原や山吹に飛ぶつばくろめ
囀りや清冽顔に押しあつる
囀りや花か木の芽か雨匂ふ
貝の夢に鳥の囀り通ふかな
島交る 人はみな野良に啞なり鳥交る
定本宋斤句集 早春社刊