祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています
定本宋斤句集 夏 4
梅 雨 いまごろの洛北思ふ梅雨椿
梅雨畳漁讀いちめんひろがりて
梅雨はれや河鹿の蠅を大漁す
喜 雨 喜雨のなか草のなか飛ぶ蛙かな
梅雨出水梅雨出水朝のこころを欄に置く
五月浪 さ浪原島かたむいて船を退く
夏の用 夏の川谺をわたる蝶々かな
夏川や船も我が家も白き干す
赤目の滝
瀧 瀧詣り蝉とんぼうのひやゝかに
泉 鳥啼いて雨中あふるゝ泉かな
夏の露 夏の露ひとの垣内をなつかしむ
植 田 植田空浮雲ひとつ大いなり
名張
青 田 青田中桔槹あげて家遠し
早乙女 早乙女やこもこも立ちてまぶしがる
雨なめて早乙女の唇さめ居たる
水中花 あさはかの夏を見するや水中花
蚊 帳 蚊帳賣の浮世ぬからぬ口甞めり
山暮れて青きは蚊帳の燈りけり
ふるさとにまこと歸りぬ㡡の中
早春社移転
蚊 火 去り来れば蚊火の大物なつかしも
定本宋斤句集 夏 3
南 風 桟庭に車百合咲き南かぜ
夕 照 夕照りて街に女が帯のころ
夏の月 橋浦へにぐる蟹あり夏の月
夏の月寫楽の顔の人に逢ふ
赤目の瀧
夏の霧 渓せまくなを夏霧たちにけり
高見山金鶏のむかし夏かすむ
虹 青竹を切っては倒す虹の前
やかましき雀が虹を消しにけり
満 腹 いちゞくの地につく茂り油照り
土用風 土用風ひとつの燕街浅く
露涼し 露涼し桐の空までぬかご蔓
修学院離宮拝観
洗詩台露の涼しや御むかし
筍懲雨
卵の花腐 野や水や卵の花腐し霽れにける
梅 雨 大徳寺塔中へ行く梅雨の傘
夜中の川うちて真白し梅雨豪雨
梅 雨 病み居りていやな梅雨否降れ快し
露草にむらさきいまだ梅雨は降る
鶯の尾の抜けしも揃い梅雨降らす
梅雨さなか路に鯰を商へり
定本宋斤句集 夏 2
短 夜 短夜の六つ並びたる地蔵かな
暑 さ みちみちのあつさにながめ夏の蝶
洲本
炎 暑 藻のながき足にひかけて炎暑ふむ
大和薬水園別業
炎 暑 藻のながき足にひかけて炎暑ふむ
登り八丁鶯鳴いて炎暑かな
三 伏 三伏の月やいがみて丸ろき哉
土 用 山里は地に聞く蝉の土用かな
涼 し 駕できし人の阿保や山涼し
山涼し散歩して買ふ有馬筆
夜涼し 草の香をみだし入りたる夜涼かな
夏の夕 夏の夕遠き蛙を宛にゆく
夏の夜 潮を掉す巨木の筏夏の夜
芒 種 潮を掉す巨木の筏夏の夜
秋近し しらしらと雲育つなる秋近し
夏の雲 町空に山こそ見えぬ夏の雲
雲の峰 雲の峰きそふところに一碧す
薫 風 薫風や鉢に咲きたる葱の花
青 風 濠水に魚陣巴す青あらし
凌艸居
青 嵐 夏嵐たびたび蝶の垣を来る
香楽渓
暴山に夏あらし見ゆ蝶の晝
夏嵐筧が壺を外れゐる
芒種(ぼうしゅ)は、二十四節気の第9。五月節