早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

定本宋斤俳句 春 8

2018-02-22 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


定本宋斤句集  春 8

          巨勢金岡が由緒の地
茶 山   金岡が別業の址や茶山晴れ
耕     島渡舟耕すなかへ陸りけり
野 火   野火止めて石工の足にふまれけり
入 学   ものゝみな春なり畔を入学児
卒 業   卒業證書しばし畳に日を吸へる
春の人   春の人來て詩仙堂の添水描く
挿 木   沈丁花雨中挿木す花のまゝ
踏 青   青き踏んで想ひ出すことみな遠し
目 刺   天井へいやしき煙目刺焼く
摘 草   摘草の背いま曇る水も帆も
春 愁   春愁の心をわれとさいなまん
      春愁の眉に寒しや蝶の風
百合根堀  大百合根抱えて胸に山のつち
桜 漬   桜漬滂沈たるゝを遺しけり
種 痘   芽ぞろいを仰いで待つや植疱瘡
釈 尊   釈尊や堂後の李花に床を置く

        天王寺
彼 岸   彼岸會や埃のみちの経木書き
      中日の八丁鉦や急霰に
薪 能   芝能や葉さくらをちる夕日の斑
十三詣   十三詣りむすめをつくるこれよりよ

定本宋斤句集 早春社刊

定本宋斤句集 春 7

2018-02-21 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


定本宋斤句集  春 7

 
        伏見にて
春 田   春の田にちるや伏見の陶の屑

        新羅三郎義光之墓
春の山   笹むらの斜日が墓や春山邊
      春山のいさゝか深し水の音    
     
        紀伊南部にて
春の砂   春の砂に漁家の姥たち脚投げて

        宇野
春の湾   朝宿に著いて欄前春の灣
春の徑   春の徑の失せたり墻を越し易し
春の堤   春の堤蕪村歩くとふと思ふ

        那波より赤穂へ
春の町   町春や海へひろがる峡どころ

二月禮者  橋南の小辻に二月 二月禮者かな
種 蒔   植うる蒔く猫額の土餘すなく
白 酒   白酒に愧なき舌をのばしけり
雛     雛の座のみなでも足らず祖母が歳
      雛店を人の父母覗きゐる
草 餅   妻が好き母が来て好き草の餅
桜 餅   さくら餅にみな指先をぬらしけり
椿 餅   くちびるに冷めたき葉なる椿もち
汐 干   常にして夕鳥低き汐干哉
      汐干宿に泊まってしまひ海黒き

定本宋斤句集 早春社刊

定本宋斤句集 春 6

2018-02-18 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


定本宋斤句集  春 6

 
春の露   吉崎の御忌へ踏むなる春の露
        八尾常光寺、狂言八尾地蔵のこと
凍てゆるむ 凍てゆるむ閻魔の返書又五郎
末黒野   末黒野の月は細けれ風の雲
      野を見たし末黒の中を歩きたく

        河内八尾
春 野   水を知らず家鴨よごれて春野かな
彌生野   彌生野の木のいただきに鳥ほそき
水温む   辨才天水神におはし水ぬるむ
春の水   春の水鰌寝ているところかな
春の水   顔出して空知る魚や春の水
春の湖   草に臥し帆をゆかしむる春の湖

春 泥     蔵王堂の下みちゃゝに春泥す
      春泥にたてばタクシにかこまれて


定本宋斤句集 早春社刊

定本宋斤句集 春 5 

2018-02-18 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集



定本宋斤句集  春 5

 
風光る   巻藁に立つ矢そくそく風光る
春 嵐   春嵐樹々におさまり波にあり
春の雲   春の雲仰ぐうちにも暢ぶるかな  
春の星   春の星丘は家積む暗さ哉
春の月   山川に暈のひろがり春の月   
      風の雲みな春月のうしろゆく
春 霖   春 霖をほそほそ寒し葱坊主
春 雨   春雨を風にあそびて笹の末
      春雨の山はるゝより棚かすみ
      春の雨瀬越の浦は鯛網だ
      日本中降る春雨を旅に濡るゝ
      雪いつか春雨となり人の肩
春 霰   春霰鶴は飛ばむと檻の中
      厨に来る春の霰のまめまめし
春の雪   縁そこに畝つくりして春の雪


定本宋斤句集 早春社刊

定本宋斤句集 春 4

2018-02-16 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


定本宋斤句集  春 4

 
夏近し   宿々や濱木綿植えて夏近し
       菊五郎の汐汲を見る
朧     双の桶春のおぼろを汲みて舞う
      死を談じ珈琲がうまし夜の 朧
      烏賊の眼の笑える皺や厨おぼろ
      魚棚や水をおぼろに烏賊の墨
東 風   東風吹いて港こゝらは農家かな
      熊野よりの鯣干し足す東風つよし
                         播州那波
春の風   春風の入江浅波島二つ
春日南   咲くは無く東南院の春日南
春の空   起きあがるものを心に春の空
初 虹   初虹のたつや比叡山雲の上
海 市   水彼方海市は知らず夢の雨
陽 炎   雲見る眼地に落としたる陽炎へる
霞     能登島や霞のあとの薄霞
       南部沖の鹿島
      掌のうへの貝がものいふ霞かな
        松江にて
         江のかすみ雨降って居る庭の松
      霞むなくはるかに筏だまりかな


               定本宋斤句集 早春社刊