祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています
定本宋斤句集 春 8
巨勢金岡が由緒の地
茶 山 金岡が別業の址や茶山晴れ
耕 島渡舟耕すなかへ陸りけり
野 火 野火止めて石工の足にふまれけり
入 学 ものゝみな春なり畔を入学児
卒 業 卒業證書しばし畳に日を吸へる
春の人 春の人來て詩仙堂の添水描く
挿 木 沈丁花雨中挿木す花のまゝ
踏 青 青き踏んで想ひ出すことみな遠し
目 刺 天井へいやしき煙目刺焼く
摘 草 摘草の背いま曇る水も帆も
春 愁 春愁の心をわれとさいなまん
春愁の眉に寒しや蝶の風
百合根堀 大百合根抱えて胸に山のつち
桜 漬 桜漬滂沈たるゝを遺しけり
種 痘 芽ぞろいを仰いで待つや植疱瘡
釈 尊 釈尊や堂後の李花に床を置く
天王寺
彼 岸 彼岸會や埃のみちの経木書き
中日の八丁鉦や急霰に
薪 能 芝能や葉さくらをちる夕日の斑
十三詣 十三詣りむすめをつくるこれよりよ
定本宋斤句集 早春社刊
定本宋斤句集 春 7
伏見にて
春 田 春の田にちるや伏見の陶の屑
新羅三郎義光之墓
春の山 笹むらの斜日が墓や春山邊
春山のいさゝか深し水の音
紀伊南部にて
春の砂 春の砂に漁家の姥たち脚投げて
宇野
春の湾 朝宿に著いて欄前春の灣
春の徑 春の徑の失せたり墻を越し易し
春の堤 春の堤蕪村歩くとふと思ふ
那波より赤穂へ
春の町 町春や海へひろがる峡どころ
二月禮者 橋南の小辻に二月 二月禮者かな
種 蒔 植うる蒔く猫額の土餘すなく
白 酒 白酒に愧なき舌をのばしけり
雛 雛の座のみなでも足らず祖母が歳
雛店を人の父母覗きゐる
草 餅 妻が好き母が来て好き草の餅
桜 餅 さくら餅にみな指先をぬらしけり
椿 餅 くちびるに冷めたき葉なる椿もち
汐 干 常にして夕鳥低き汐干哉
汐干宿に泊まってしまひ海黒き
定本宋斤句集 早春社刊
定本宋斤句集 春 6
春の露 吉崎の御忌へ踏むなる春の露
八尾常光寺、狂言八尾地蔵のこと
凍てゆるむ 凍てゆるむ閻魔の返書又五郎
末黒野 末黒野の月は細けれ風の雲
野を見たし末黒の中を歩きたく
河内八尾
春 野 水を知らず家鴨よごれて春野かな
彌生野 彌生野の木のいただきに鳥ほそき
水温む 辨才天水神におはし水ぬるむ
春の水 春の水鰌寝ているところかな
春の水 顔出して空知る魚や春の水
春の湖 草に臥し帆をゆかしむる春の湖
春 泥 蔵王堂の下みちゃゝに春泥す
春泥にたてばタクシにかこまれて
定本宋斤句集 早春社刊
定本宋斤句集 春 5
風光る 巻藁に立つ矢そくそく風光る
春 嵐 春嵐樹々におさまり波にあり
春の雲 春の雲仰ぐうちにも暢ぶるかな
春の星 春の星丘は家積む暗さ哉
春の月 山川に暈のひろがり春の月
風の雲みな春月のうしろゆく
春 霖 春 霖をほそほそ寒し葱坊主
春 雨 春雨を風にあそびて笹の末
春雨の山はるゝより棚かすみ
春の雨瀬越の浦は鯛網だ
日本中降る春雨を旅に濡るゝ
雪いつか春雨となり人の肩
春 霰 春霰鶴は飛ばむと檻の中
厨に来る春の霰のまめまめし
春の雪 縁そこに畝つくりして春の雪
定本宋斤句集 早春社刊
定本宋斤句集 春 4
夏近し 宿々や濱木綿植えて夏近し
菊五郎の汐汲を見る
朧 双の桶春のおぼろを汲みて舞う
死を談じ珈琲がうまし夜の 朧
烏賊の眼の笑える皺や厨おぼろ
魚棚や水をおぼろに烏賊の墨
東 風 東風吹いて港こゝらは農家かな
熊野よりの鯣干し足す東風つよし
播州那波
春の風 春風の入江浅波島二つ
春日南 咲くは無く東南院の春日南
春の空 起きあがるものを心に春の空
初 虹 初虹のたつや比叡山雲の上
海 市 水彼方海市は知らず夢の雨
陽 炎 雲見る眼地に落としたる陽炎へる
霞 能登島や霞のあとの薄霞
南部沖の鹿島
掌のうへの貝がものいふ霞かな
松江にて
江のかすみ雨降って居る庭の松
霞むなくはるかに筏だまりかな
定本宋斤句集 早春社刊