早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十三年九月 第二十六巻三号 近詠 俳句

2022-01-31 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年九月 第二十六巻三号 近詠 俳句

   近詠

紀伊白濱にて
雲秋や内海の波に面して

温泉の窓に秋照る波をさし覗く

さわやかに入江左右より岬差す

網不知といふ浦凪の秋の朝

海を見てあそび居ればに秋の虹

潮底に階梯届き秋の魚

濱木綿は實を地に委して残暑かな

釣人の脛來る秋の蚊なりけり

草あつし宿のそこにてきりぎりす

舟蟲のさゝさや交はし秋の風

一湾を秋の澄むさまめぐりけり

秋の燈に立ち寄るどこも貝細工

巌敷にひたと鶺鴒太平洋

雲と水ときどき蝉に耳を貸す

温泉の町のみるものもなく桐一葉

秋の蚊帳海の朝日に逃げ出づる

秋の山往かずに遠く思ふ朝

旅人の我れに煙り來門火かな

海浴ひの徑と知らるゝ盆往來

浦波のこゝに聞えず盆燈籠

盆提灯かずかずの下くつろげる

盆踊今年は無しと温泉の廣場

花火してその人濱のくらき去る

たかたかと海より來たる蛾ありけり

   早春社八月本句會
   甲山の東大市〜武庫川畔吟行〜早朝句筵
甲山あす立つ秋を雲に見る

くもの糸ながれて涼し土用果

杜しづか翅でいきするくろとんぼ

藪騒にまぎれまぎれず蝉涼し

   波岑居秋夜口吟
初嵐といひつべしむしの和す

藤椅子にふかふかとゐて秋夜哉

蚊火ゆきて塗天井を流れけり

燈下すでに親し畳に青き蟲

秋草に秋思いつしか人の上

秋草の闇をうしろに更けつるか

銀漢の空ある思ひ脊の風同

遠き家の二階の起居秋ともし

庭騒いに秋の夜南明るけれ

むかしながら軒の一樹に秋蚊舞ふ

句座秋や箪笥に映る背中あり

思わずも句座となりつる蚊遣哉


    片桐古麻子氏送別會  市内日本橋ブラジル
    尼崎編集所時代より道頓堀発行所へ満7年有余間早春社内で働いていただいた。
よろこびて送る歸燕に惜しみあり

天の川露台水打ちうつる哉

    大角美樹子氏追悼
つばくりの去ぬるといふも句ひとみち









宋斤の俳句「早春」昭和十三年八月 第二十六巻二号 近詠 俳句

2022-01-27 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年八月 第二十六巻二号 近詠 俳句

    近詠
  燈を闇をひとつあそべる蛾の涼し

  住み馴れや日毎出水の朝顔に

  泥川のくろし蝙蝠かず黒し

  日盛りの川を見てゐる書架を背に

  白日を來る夾竹桃に落花なし

  紀州船姉妹来てゐて日覆並ぶ

  晝涼み團平船の阿迦にたち

  船住居甲板洗ふて茄子切って

  船妻の陸へ出てゆく浴衣かな

  寝惜しめば船の苔にも闇すゞむ

  白雲に桟庭が持つ桐一木

  桟庭に目高と猫と係わらず

  何がなしに茂るよろこび鉢ばかり

  鳴く蟲の子かな露草露の底

  蟻のみちに砂糖めぐみつ桟庭は

  萩の葉の寝てゐるそよぎ夕端居

  繪灯籠吊り出す咫尺船の腹

  張りきつていま潮やすむ夏燕

  夏川や船も我家も白き干す

    春田
  春の田に烏うつくしくろくろと

  春の田に夜を仰て雲白し

  春の田に溜れる水の波したり

    種痘
  眼を外らす雲のつめたく植ゑばうそ

  植ゑばうさう校門今日は片びらき

    早春七月本句會
  夜の涼し鐘くろくろと下りゐる

  夜の涼しラッパを習ふ川向ひ
  
  ゆかたびとの雨の藍染まつり哉

     青鈴會七月例會
  草いきれものいふ聲を野にとられ

  茶事の庭歩いて毛蟲見てゐたり

    


  






    
  

宋斤の俳句「早春」昭和十三年七月 第二十六巻一号 近詠 俳句

2022-01-25 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年七月 第二十六巻一号 近詠 俳句



    近詠
  我庵桟庭の夜明け(十句)
梅雨出水蝙幅朝に歸るかな

短夜は對岸ひたと蔵ばかり

夏旦凡そ葉のもの風を生む

うかうかと夜明けて梅雨のいま降らず

夏夜明け川より音のはじまりぬ

我れ寝ざり金魚時々夜を寝ざり

おくれ咲く熊野躑躅に朝そみぬ

濱木綿の實生も朝の見つけもの

朝になり汗を行水してこまそ

蚊の逃げてくらきへゆくが浮きにけり

梅雨の雲四山のそとにひろがれり

瓶の水目高晒れしと思ふかな

目盛りの草はおのれに音のして

夏の月冩樂の顔の人に逢ふ

汗ぬぐひホテルの森を借りにけり

  住吉御田神事(五句)
お田植えや稚児の見参すでに雨

松もみどりお田植女の肩たすき

霞膳植女や月の十二人

降る雨を植女花笠美目透きて

梅雨荒ぶ風流武者が高足駄

一舟の用意つなげり泉殿

夜々に減る籠の蛍の光りかな

夏山に蝶多きかな露を行く

   花烏賊
厨水の花圃に流れて烏賊の墨

烏賊の墨鯛白魚をよごしけり

   石蕗の花
奥の宮鳥居も石蕗の咲く中に

掃き止めて日坻見るや石蕗の花

   早春社六月本句會
山百合の谷むく蕾さきかけて

山百合の霧にさゆれて目路もなく

ためらへる目高と見しが既になし 

   充爽俳句會創會
若葉野の南あかりに雨あがる

やむ雨と窓に見てゐる若葉かな

庭さまざまひと隅午蒡蕗若葉

母の来て幮なき夜をさびしみぬ

   福井太十氏追悼俳句會
      悼句
思い出をおもへば夢や若葉寒

   六橋觀句抄
梅雨の燈の低く軒燈一様に

提燈を低くずらして梅雨のみち

夏菊のうすくれなゐを雨に咲く

梅雨荒れて夜の煙筒ほのと吐く

船蟲の陸つて來たり梅雨疊

俳安居梅雨百句より志す

   徹宵吟座
    第一句座 「ピアノ」「砲」「拍手」
    ピアノ
瀬は日なり朝をピアノのひゞし

    砲
砲塔に兵等左右して雲の峰

    拍手
樓上に拍手湧くあり瀧は夜に

    第二句座
     「更夜矚目」
人は夜は更くるにまかせ瀧の音

瀧の音一點遠き燈のあきらか


眼つむれば背の柱に瀧通ふ

渓の空ひとつ燈りに蛾霽れたり

更けてよし河鹿時雨と申すべし

闇しろく河鹿途絶えしひと間時

句座に時聞くべからずも蛾の更けて

    第三句座 
      「各人深題」
水郷や夏暁つばめの高く濃し


夏ひたと水にたかぶり志摩の国

日ざかりの水面やぶれて海女の浮く

梅雨霽れの島は赫つち海女戻る

志摩はあが土日向葵さきて海女の家

    第四句座  
      「夏暁矚目」  夏暁が白々と谿より浸透
明易く天井の蛾の動かずに

夏山の暁くる巒気に人の顔

一睡もせずに青葉に朝あけて

夏あけの谿むかひ家の干衣哉





















宋斤の俳句「早春」昭和十三年六月 第二十五巻六号 近詠 俳句

2022-01-24 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年六月 第二十五巻六号 近詠 俳句


    近詠
山川に大いなる夏定まりし

夏がすみ近畿の山の老いにけり

楠公忌和泉は和田氏ゆかりの地

浪高けれど清朗はさも記念の日

短夜や桐植ゑてより一桐居

ぽっぽ船のひゞき桟庭薔薇の散る

日傘たかくかひなを揚げて惜しみなく

初の葉を三尺芭蕉空たてぬ

濱萬年青の實生と知りし夏日かな

海光の沖一線に雲はじむ

零餘子丈に暢びたちしかば蔓配る

蠟涙の手にこゞりけり瀧の宮

身をまげて浮き堪えてゐる目高あり

撒水車二つが往つて來てはする

蛍売りまことに夏の町更けし

夜濯ぎの星空うつるたのみかな

甲板はや浴衣に港見かへけり

月見草遠くを人の往來へり

夕焼けを川上よりぞ水太き

矢車草蕾ならべてひとつ咲きぬ

船蟲の疊に迷ふゆうゆうと

緑陰や門のほかなる壁切戸

   楠公忌修営吟行
    浄瑠璃寺への参詣
話し立ちこゝらぜんまい若葉かな

睡蓮の眼をうつす塔の岡

   笠置歴史館
山往くや空のうれしく楠若葉

楠公忌笠置しみじみ若葉冷え


   秋時雨
秋時雨草木石よりぬれにけり

水原は秋の時雨の底明かり

   夏の動物
班猫を追ふて石みちまた登り

夕顔の夕を舟蟲來りけり

鶯飼えばこの頃羽ぬけて毱のやう

霽るゝ霧雷鳥そこにあらはれぬ

佛法僧室生の朱橋夜にも赤し


   途麓抄
     少数會合にて、一夕みつちり句作に勉強する催し 会場早春社樓上道場で宋斤指導
旅の子はもみこぼす砂の夜光蟲

夜光蟲渚に蹴れば怒りけり

濱宮の祭近しや夜光蟲

桐一本二階當面夏めきぬ

萍に丘の一燈すべりゐる

初夏に夜に咲く白きあやめかな

夜の泉まぎれなければ汲みにけり

たちよりて暮色をのぞく泉かな

青葉川遡るほど石しげく

夏暁や山にある日の甍にも

葉蘭鳴る間近の音の夏暁哉

ひと溪にみな打つ燈青葉やど








宋斤の俳句「早春」昭和十三年五月 第二十五巻五号 近詠 俳句

2022-01-22 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十三年五月 第二十五巻五号 近詠 俳句

   近詠
あかつきや天長節の松緑

   靖国神社臨時合祀祭遥拜
黙禱す春雲いつとむらさきに

佐保姫や野のふかければ霞山

春愁のわれともなくて湖畔の夜

   京都
菜花來て御室の花に早かりし

仁和寺をわきみちへ出て古すゝき

鷹ヶ峰へ往けるこの路木瓜朱かし

京の花にあちこちとして夜を祇園

   笠置山
鶸群れて櫻間はろか木津の水

花の雨霞まじりに肩打てり

雷晴れて雨滴花より高きより

   河内平尾山にて
笹枯れに蝶のいきして春まひる

春蝉のやむ時人語あらはるゝ

野の蝿になぶられてゐてあたゝかに

蕨狩水ほとりより採りのぼる

ぜんまいや碧玉を巻きほどけたる

   菅生天神社
若草の底をいろいろ蟲せはし

雲も山も南走りに春閑か

つばくろの高きひとつに野山かな

さくら實となれる下枝に眉よせぬ

里の名の菅生の名残遅日かな

春晝や屋上園に街ごころ

永き日や大工たのまむ書架のこと

野をゆけば野に倒れむとす春ねむし

書けてきて春夜更けゆく我世なれ

松押して椅子の空やみどり摘む

   春の雪
なみの音を春降る雪の中に聴く

春雪や庭いつぱいの小さき池

茶店にて腹ぬくもりぬ春の雪

   節分
節分や何か植ゑたき土を見る

節分や家人揃ふて宵の燈に

節分や雲と明るく芹の水

   夜學
夜學すや窓は崖にて苔匂ふ

降る雨に山にぎはしき夜學かな

人來ねば夜學すゝみて淋しけれ

夜學子の來ぬなり老師ひとり讀む

露けさに燈もぬるゝ夜學哉

   途麓抄 第一夜
すみれ野やしばらく潜る松の下

厄神の繁昌に棲み春の村

春まつり夜に備へて篝あり

春まつり花の頂上仰ぎつゝ

水ぬるみしきりに海の帆を入るゝ

春の闇神の燈りへぬけて行く

岸柳や蛤舟の來ては著く

亜字蘭や人出でゝ吊る雲雀籠

   途麓抄 第二夜
花すぎていよいよ山の日和かな

花すぎの雲あり遠し道ゆくて

花過ぎの簀の子の風に吹かれけり

柳絮や湖邊乘りゆく人力車

木の實植うとけふの日記の冒頭に

木の實植ゑて在る礎を尊みつ

木の實植う垣外の老いのいふまゝに

   早春社四月本句會
    従軍直原放青氏凱旋歓迎
仲春の日のゆらゆらと壺の水

仲春や夜は更け更けて窓の外