宋斤の俳句「早春」昭和十三年九月 第二十六巻三号 近詠 俳句
近詠
紀伊白濱にて
雲秋や内海の波に面して
温泉の窓に秋照る波をさし覗く
さわやかに入江左右より岬差す
網不知といふ浦凪の秋の朝
海を見てあそび居ればに秋の虹
潮底に階梯届き秋の魚
濱木綿は實を地に委して残暑かな
釣人の脛來る秋の蚊なりけり
草あつし宿のそこにてきりぎりす
舟蟲のさゝさや交はし秋の風
一湾を秋の澄むさまめぐりけり
秋の燈に立ち寄るどこも貝細工
巌敷にひたと鶺鴒太平洋
雲と水ときどき蝉に耳を貸す
温泉の町のみるものもなく桐一葉
秋の蚊帳海の朝日に逃げ出づる
秋の山往かずに遠く思ふ朝
旅人の我れに煙り來門火かな
海浴ひの徑と知らるゝ盆往來
浦波のこゝに聞えず盆燈籠
盆提灯かずかずの下くつろげる
盆踊今年は無しと温泉の廣場
花火してその人濱のくらき去る
たかたかと海より來たる蛾ありけり
早春社八月本句會
甲山の東大市〜武庫川畔吟行〜早朝句筵
甲山あす立つ秋を雲に見る
くもの糸ながれて涼し土用果
杜しづか翅でいきするくろとんぼ
藪騒にまぎれまぎれず蝉涼し
波岑居秋夜口吟
初嵐といひつべしむしの和す
藤椅子にふかふかとゐて秋夜哉
蚊火ゆきて塗天井を流れけり
燈下すでに親し畳に青き蟲
秋草に秋思いつしか人の上
秋草の闇をうしろに更けつるか
銀漢の空ある思ひ脊の風同
遠き家の二階の起居秋ともし
庭騒いに秋の夜南明るけれ
むかしながら軒の一樹に秋蚊舞ふ
句座秋や箪笥に映る背中あり
思わずも句座となりつる蚊遣哉
片桐古麻子氏送別會 市内日本橋ブラジル
尼崎編集所時代より道頓堀発行所へ満7年有余間早春社内で働いていただいた。
よろこびて送る歸燕に惜しみあり
天の川露台水打ちうつる哉
大角美樹子氏追悼
つばくりの去ぬるといふも句ひとみち
近詠
紀伊白濱にて
雲秋や内海の波に面して
温泉の窓に秋照る波をさし覗く
さわやかに入江左右より岬差す
網不知といふ浦凪の秋の朝
海を見てあそび居ればに秋の虹
潮底に階梯届き秋の魚
濱木綿は實を地に委して残暑かな
釣人の脛來る秋の蚊なりけり
草あつし宿のそこにてきりぎりす
舟蟲のさゝさや交はし秋の風
一湾を秋の澄むさまめぐりけり
秋の燈に立ち寄るどこも貝細工
巌敷にひたと鶺鴒太平洋
雲と水ときどき蝉に耳を貸す
温泉の町のみるものもなく桐一葉
秋の蚊帳海の朝日に逃げ出づる
秋の山往かずに遠く思ふ朝
旅人の我れに煙り來門火かな
海浴ひの徑と知らるゝ盆往來
浦波のこゝに聞えず盆燈籠
盆提灯かずかずの下くつろげる
盆踊今年は無しと温泉の廣場
花火してその人濱のくらき去る
たかたかと海より來たる蛾ありけり
早春社八月本句會
甲山の東大市〜武庫川畔吟行〜早朝句筵
甲山あす立つ秋を雲に見る
くもの糸ながれて涼し土用果
杜しづか翅でいきするくろとんぼ
藪騒にまぎれまぎれず蝉涼し
波岑居秋夜口吟
初嵐といひつべしむしの和す
藤椅子にふかふかとゐて秋夜哉
蚊火ゆきて塗天井を流れけり
燈下すでに親し畳に青き蟲
秋草に秋思いつしか人の上
秋草の闇をうしろに更けつるか
銀漢の空ある思ひ脊の風同
遠き家の二階の起居秋ともし
庭騒いに秋の夜南明るけれ
むかしながら軒の一樹に秋蚊舞ふ
句座秋や箪笥に映る背中あり
思わずも句座となりつる蚊遣哉
片桐古麻子氏送別會 市内日本橋ブラジル
尼崎編集所時代より道頓堀発行所へ満7年有余間早春社内で働いていただいた。
よろこびて送る歸燕に惜しみあり
天の川露台水打ちうつる哉
大角美樹子氏追悼
つばくりの去ぬるといふも句ひとみち