近詠
新薬師寺行
神苑とおもふのみにて冬山路
雲さむし奈良にて鹿を見ぬところ
冬の町一木が投げしかげを踏む
バス避けて居れば町辻もみぢ散る
柿赤く冬ざれ空に凝りにけり
冬の草築土がしらにほこえけり
冬凪ぎの洋館寺に古りまざり
寺塀を左右に見透きの稲明かし
香薬師拜み出てより冬うらゝ
あまりしずかさ南天の實をさはりけり
こゝら詠みし古句もあるべし枯尾花
麥は芽に豆も植えたる日南かな
枯れぬくゝなにかな迂り道したく
電柱も樹肌に並みて冬日かな
水涸れて奈良の宿屋の家裏徑
買ひし墨ふところにすれば暮早し
残暑
低き山ばかりを四圍に残暑かな
残暑汲む井の中の照りかゞやきぬ
蘇我吟行
嵐山下車
粉蟲をゆく手に拂ひ冬日和
嵯峨菊の冬これからを野にみたし
嵐峡へけふは往かざる冬かすみ
天龍寺
塔中やあるは閉せる冬木かげ
野々宮まで
人の背に眞晝の木の葉白く落つ
あたゝかく育ちのまゝの菊の花
蔦紅葉二木の空に遅速あり
去來の墓
去來の墓藪拓かれて冬明き
土高く名所の中の冬菜畑
藪徑の花添ひがやゝ廣く
鵯の弧に渡りけり磴半ば
この筧句せざるなし涸るゝ今日
祇王寺
目白鳴くや道藪に折れすぐ登り
大寺より小庵に來て石蕗の花
篝火屑露くろぐろとつめたけれ
燈も薄に冬を息する木像よ
冬日南仰いで芭蕉旺なり
嵯峨むすめ野菊の中に毛糸あむ
冬ぬくし南天畑があたごみち
厭離庵
小春日の藪のほそみちあれば入る
冬の庭にみだり入りたる我の音
廣澤の池
野の迂路をまためぐるなる冬の池
山かげを映しきざみて冬の池
吟行や休むと誰れか柿食ふ
鳴瀧へ
吟行の歩きすぎなるオーバ著に
道坦々桐の實枯れがあるばかり
水青別業
冬空のまつたくひろき暮れてゆく
暮れながら空地に冬の何か咲く
早春社十一月本句會
夜寒さ廂につれて山紅葉
葱のうへひろがり日南奪ふ雲
夜の山の従容とあり葱畑
水の香の夜寒仰げば月迅し
軒並に門燈ありて葱畠
青鈴會
大凪の海空らかけて霜夜かな
山畑の耕す遠音冬立ちぬ
霧の燈のさながらに冬立ちにけり
歸り花谷ふかき日ものぞかれて
滋賀冬麗 充爽句會吟行記
山茶花やこの庭の奥湖と聞く
午後霽るゝ豫報たのみに火桶たつ
鳰舳を逃げて殖ゆる數
時雨ばれ双舟の舳揃へゆく
魞口を舟のすり行く冬の湖の
冬うらゝ竹瓮のみちを漕いで行く
竹瓮あげて三年鯉の脂ぎる
竹瓮に鯉従容とありにけり
艸紅葉日南あつくて雨の降る
柊の咲くを道邊に冬の晴れ
冬の雨たくましきもの葱かな
いにしへや散りしく紅葉瓦屑
露寒のみちの一石只ならぬ
大紅葉日はこれを透き礎石あり
乳牛のつやつやとして紅葉中
粧ふ山に近江神宮御造榮
咳けば山中戀ふ夕もみじ
神さびて紅葉一枝のゆるぐなく