宋斤の俳句「早春」昭和九年十一月 第十八巻五号 近詠 俳句
近詠
秋の水の邉に人寝たる小芝かな
盛りあげて鯖の焼鮓秋まつり
秋の島に舟四、五艘が津なりけり
音のみに何の花火か秋ふかし
障子貼って切り窓川を覗くこと
籾干の通れるだけを郵便夫
絲瓜の水蟲が囃して溜るかな
手の平にそこばく盛りて今年米
蜻蛉の皺くちや翅が地をとべり
手拭いを縫ふたる栗の袋かな
草の實や隣の窓の機休み
野菊叢我影入りて濃かりけり
蓑蟲の逆だつ枝もありしかな
割箸を遅速割りゐる夜食哉
菊人形太夫かむろと冷めた顔
ふところに鹿笛ありて野の寒し
湖ひろく今宵の砧きこゑけり
山へ帰る學校の子あり曼珠沙華
我腕の青筋つたふ秋の蝿
尾花徑ふんでゆく日の失せにけり
蝗焼くこの香うばしさ霧ふかし
衣紋竹
川風のこゝまでゆるゝ衣紋竹
衣紋竹宿たつ朝に赤かりぬ
新秋
新秋やくだもの拭ふ掌
新秋のなにもせず闇よろしけれ
新秋や峠の風に跼みゐる
稲妻
稲妻や夜になるほどに川高し
稲妻の彼方より原ふくれたる
いなづまの一角さしつ机上哉
子規忌三十三回忌
露の萩ひとの面にかゞやきぬ
子規忌三十三回忌なり柿のいろ
早春社十月本句會
渡り鳥苫には雨の残り降る
陜つまりして月明るさや渡り鳥
渡り鳥夜明くる音が麓かな
早春社九月例会
日の暮れの窓の香ひが稲田哉
町の端や茶店のかげの秋らしも
水深きところ秋なる葉のながるゝ
初歩俳句會
秋の夜の野に来て水をめぐりけり
けふ捕りし鳥の寝ぬなり秋の夜
早春社無月例會
渡り鳥水の彼方に山もなく
渡鳥糸瓜うち合ふ風さむく
早春社神戸例會
一旦に風鈴落ちぬ夏あらし
山池に閃々ひゞく蝉の聲
近詠
秋の水の邉に人寝たる小芝かな
盛りあげて鯖の焼鮓秋まつり
秋の島に舟四、五艘が津なりけり
音のみに何の花火か秋ふかし
障子貼って切り窓川を覗くこと
籾干の通れるだけを郵便夫
絲瓜の水蟲が囃して溜るかな
手の平にそこばく盛りて今年米
蜻蛉の皺くちや翅が地をとべり
手拭いを縫ふたる栗の袋かな
草の實や隣の窓の機休み
野菊叢我影入りて濃かりけり
蓑蟲の逆だつ枝もありしかな
割箸を遅速割りゐる夜食哉
菊人形太夫かむろと冷めた顔
ふところに鹿笛ありて野の寒し
湖ひろく今宵の砧きこゑけり
山へ帰る學校の子あり曼珠沙華
我腕の青筋つたふ秋の蝿
尾花徑ふんでゆく日の失せにけり
蝗焼くこの香うばしさ霧ふかし
衣紋竹
川風のこゝまでゆるゝ衣紋竹
衣紋竹宿たつ朝に赤かりぬ
新秋
新秋やくだもの拭ふ掌
新秋のなにもせず闇よろしけれ
新秋や峠の風に跼みゐる
稲妻
稲妻や夜になるほどに川高し
稲妻の彼方より原ふくれたる
いなづまの一角さしつ机上哉
子規忌三十三回忌
露の萩ひとの面にかゞやきぬ
子規忌三十三回忌なり柿のいろ
早春社十月本句會
渡り鳥苫には雨の残り降る
陜つまりして月明るさや渡り鳥
渡り鳥夜明くる音が麓かな
早春社九月例会
日の暮れの窓の香ひが稲田哉
町の端や茶店のかげの秋らしも
水深きところ秋なる葉のながるゝ
初歩俳句會
秋の夜の野に来て水をめぐりけり
けふ捕りし鳥の寝ぬなり秋の夜
早春社無月例會
渡り鳥水の彼方に山もなく
渡鳥糸瓜うち合ふ風さむく
早春社神戸例會
一旦に風鈴落ちぬ夏あらし
山池に閃々ひゞく蝉の聲