早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和九年十一月 第十八巻五号 近詠 俳句

2021-08-31 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年十一月 第十八巻五号 近詠 俳句

   近詠
秋の水の邉に人寝たる小芝かな

盛りあげて鯖の焼鮓秋まつり

秋の島に舟四、五艘が津なりけり 

音のみに何の花火か秋ふかし

障子貼って切り窓川を覗くこと

籾干の通れるだけを郵便夫

絲瓜の水蟲が囃して溜るかな

手の平にそこばく盛りて今年米

蜻蛉の皺くちや翅が地をとべり

手拭いを縫ふたる栗の袋かな

草の實や隣の窓の機休み

野菊叢我影入りて濃かりけり

蓑蟲の逆だつ枝もありしかな

割箸を遅速割りゐる夜食哉

菊人形太夫かむろと冷めた顔

ふところに鹿笛ありて野の寒し

湖ひろく今宵の砧きこゑけり

山へ帰る學校の子あり曼珠沙華

我腕の青筋つたふ秋の蝿

尾花徑ふんでゆく日の失せにけり

蝗焼くこの香うばしさ霧ふかし

  衣紋竹
川風のこゝまでゆるゝ衣紋竹

衣紋竹宿たつ朝に赤かりぬ

  新秋
新秋やくだもの拭ふ掌

新秋のなにもせず闇よろしけれ

新秋や峠の風に跼みゐる

  稲妻
稲妻や夜になるほどに川高し

稲妻の彼方より原ふくれたる

いなづまの一角さしつ机上哉

 子規忌三十三回忌
露の萩ひとの面にかゞやきぬ

子規忌三十三回忌なり柿のいろ

  早春社十月本句會
渡り鳥苫には雨の残り降る

陜つまりして月明るさや渡り鳥

渡り鳥夜明くる音が麓かな

  早春社九月例会
日の暮れの窓の香ひが稲田哉

町の端や茶店のかげの秋らしも

水深きところ秋なる葉のながるゝ

  初歩俳句會
秋の夜の野に来て水をめぐりけり

けふ捕りし鳥の寝ぬなり秋の夜

  早春社無月例會
渡り鳥水の彼方に山もなく

渡鳥糸瓜うち合ふ風さむく

 早春社神戸例會
一旦に風鈴落ちぬ夏あらし

山池に閃々ひゞく蝉の聲





宋斤の俳句「早春」昭和九年十月 第十八巻四号 近詠 俳句

2021-08-24 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年十月 第十八巻四号 近詠 俳句

  近詠
街空を渡る聯鴉が秋の風

おとろふるさまに草莖のいと赤し

草わけて馬はたてがみ露の秋

霧のなか人来て話す山の窗

ひとり生江の白雛頭や子規忌月

朝寒や水底映る波のかげ

句座の燈をふりかへりゆく花野哉

雲の遠ちくろずむさまが秋の島

暮れてくるしゞま青栗仰ぎけり

蝶々も木の葉のたぐひ里夕

   大風大水害 (九年九月二十一日 近畿を襲った大風大水害) 
颱風の眼とか川空彼の時ぞ

風白魔矢を雨黒魔槍をたゞ面り

船が筏が颱風いまや川たらず

颱風や硝子をいのち支へ居し

観念に掻き込む飯や颱風なほ

颱風のはれて夢飛ぶ鷺しろし

  吟句座 
こゝらより蟲深くなり月の徑

石垣に耳を寄せゆく蟲の徑

蟲腫れて月の木の間をひろふかな

蟲の徑筧のもれに馴れて往く

耳に選る蟲いろいろと萩の下

馬追は木の中らしも闇に彳つ

溝流れこゝに音して蟲もまた

かんたんの音と言ひ合ひて立ちにけり

萩さやか夜目にも花の蟲時雨

ゆき馴れの戻り馴れなる蟲の夜

  干飯
白川や石のうへなる干飯笊

干飯ひろげて石臼の目もなかりけり

  萩の寺圓座
秋なれば萩こそ寺へみち親し

くれぐれや萩に芭蕉に雨の降る

松の下遠明かりして秋の天

  早春社九月本句會
芋畠の露に起きたる泊り哉

芋畑の風なるところ喜雨あり

芋畑のしどろ野露に風立ちて

冷じの野伏せびとの鼾かな

冷じの背負ふて帰る草の丈

  宋斤先生歓迎句會(郡山)
    於郡山赤膚山楽焼の窯元 尾西楽斎氏居
水團扇鵜飼どころの絵なりけり

陶床に露しめりなる團扇かな

夜の蝉や樹々ふかく来て露匂ふ








宋斤の俳句「早春」昭和九年九月 第十八巻三号 近詠 俳句

2021-08-24 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年九月 第十八巻三号 近詠 俳句

   住吉神社社頭 (四句)
四社拝みめぐりて朝は露の秋

松に鷲の御絵扉も秋はじめ

朝露の土に薬草ひさぎけり

蟇の子は露の木肌を登らむと

   尼崎大物の舊盧を偲ぶ(二句)
蚊火うつる壁のむかしの大物よ

移し来し芭蕉と我れとの今宵哉

秋待ちし眼を病み居れば露待ちし

泉澄む秋立ちてけふ幾日かな

この壺のつめたさ秋は膝のうへ

大濤は夢にて醒めぬ秋の蟵

流星をたがひに知りて黙し居る

走馬燈按摩が犬がよく走る

草市にだゝ食ふ瓜を購ひぬ

裏町や鳴れる風鈴秋の風

盆燈籠往来廓のほとり哉

犬の耳地に秋雷を疑ひぬ

秋暑し川の明るさ天井に

草わけて来ていたゞきや秋の山

秋の蝶峡たかたかと雲をゆく

遠海の波こそ光る秋の暮

朝露や茶店女何を兜蟲とる

  我桟庭に竹と夾竹桃とを増す
みづみづと竹三四竿秋のかけ

夾竹桃秋に交りてそよぎけり

かんたんを買ふてせめての奢りかな

四十七歳眼に入る汗の残暑哉

   夜店にて碧悟桐、鉄幹二氏の句歌二葉の短冊を発見して買ふ、何も明治の物
   一つは明星派盛なりし頃歟一つは新傾向句も六朝書風もなかりし頃のものにてなつかし。
   稲妻のすさまじくなる夜半哉  碧悟
   くろ雲をほのほにやきて魔の手より人の子かくす神わざの歌 鉄幹

幾よるの露のしめりの古短冊

  身邉消息句物語
  夜
釣しのぶ川に夜更けの雫かな

夜が匂ふ鉢木ばかりの茂りにも

夜はしづか網の河鹿のとぶ音も

    宋斤「私は夜が来ると初めてその日が来た様に思ふ生活をしてゐます。夜になられば何も書く気がせぬ永年の習慣で遂に毎夜の如く夜更かし、否夜明かしになります。その三句ではありますが『夜が匂ふ』の句は私の家は裏がすぐ道頓堀の河で川上の方と違って静かですが庭といふものがなく全部が桟橋の上の鉢木です。夜半時にはそこに下りて立つと頭を冷やすのであります。

    青柿  
この里に来てなじみなる柿青し

青柿や山家も雨後の二三軒

    麦酒
一息のビール前山みどりかな

山にうたふてビールを捧ぐものありぬ

  早春社八月本句會
蕉林に立って空なる秋近し

秋近し雲ひろがってちりきたる

幾筋か海に入る水露臺かな

かたはらの落葉ぬれたりし露臺かな

露臺の夜同郷かたることながし

  早春社桜宮例會
雲往来たのみある夜の登山哉

霧ふんで登山のわらぢしめにけり

  若狭俳句研究會第三回
青嵐笠流れ来し水の上

青嵐鳥の病気を籠に見る

宵の内泉にあそぶ草泊り

鷺飛ぶを仰ぎ来りし泉哉

山中に何も寫らぬ泉かな

  五句壇互選
栗の花月夜の村に散りにけり

頂上へ往けぬ道らし栗の花

思はずも堂後谷なり栗の花

山小屋の廂々に栗の花

石のうへ散りたまりたる栗の花



宋斤の俳句「早春」昭和九年九月 第十八巻三号 俳語

2021-08-24 | 宋斤の俳語・句碑・俳画、書
宋斤の俳句「早春」昭和九年九月 第十八巻三号 俳語

   私
俳句は私を詠ふのである。

わたくしの生活味到である、よそよそしい眺めごとのいはゆる

新風流に安逸しゐては俳句はつまらなくなるばかりであろう

そして然も俳句は自然讃仰の詩である。

私の上へ私をのみ積み重ねてゆくのとは俳句は根本的に於いて違ふ。

私を大自然に放つのである。

大自然から私をとらへるのである。

                  宋斤

宋斤の俳句「早春」昭和九年八月 第十八巻二号 近詠

2021-08-23 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年八月 第十八巻二号 近詠

朝涼の乙鳥に渡舟あがりけり

鳴く蟲の微細生れて庭の土

雫する雨に葡萄の花を見る

  室生桂村君より、はつちく筍を送られて(二句)
黒筍の蕗の山露匂ひけり

黒筍はきりそろえたる輪口かな

枝なりの實梅なかなかこぼれけり

梅雨出水欄下四國へ船出づる

日盛りの甍對岸一木なし

潮を棹す巨木の筏夏の夜

どくだみの花の田舎の廻り庭

起き出でて喜雨をながむる川の面

喜雨の音かくもはげしや川を打つ

喜雨のなか草のなか飛ぶ蛙かな

  大和郡山赤乾膚燒を訪ふ (五句)
夏のれん麻潜り出て陶土干す

山と積むそこら陶もの葭簀陰

  ロクロ場
水の手に土いぢる業の片かげり

老山に炎涼々やのぼり竈

陶に句をこゝろみつ夏座敷

しみじみと見る雲の峰他郷かな



  山野に往きし時、あたりの土地を持ち帰り
  一鉢にする私癖あり程經ていろいろの草の生ひたつに
  會游の追懐甚し (四句)
雑草にまかせさながら露涼し

  そのうち山城木幡の鉢
齒朶涼し實生の松の一木して

  河内三日市山の鉢
咲き出でて釣鐘草や梅雨の晴れ

  奥吉野の姥ヶ峠の鉢
夏木して柏楓とそよぎけり

  昨日鹿壺君播磨の損保より、今日は是雲君より吉野の鮎を贈られて
膳上に富むは鮎たり夕端居

うたかたの花と面に箱眼鏡

班猫によきほどついて渓くだる

夏かすみ鳥の行方のふかき哉

毎日の机上亂雑極暑哉

  芳里君より止々呂美の河鹿を貰ふ
櫓が鳴いて欄下はあれど河鹿哉

河鹿鳴くやとある旦の雨知って

河鹿笛夜更けの獨り弄ぶ

蛇涼し三千院の石崖に

鳩逃げ逃げ寺僕追ひ追ひ打水す

月見草汀に風の消ゆるかな

  早春社同人大會 <涼一切 花ざくろ>
樹下石上夫子臥したる臍涼し

梅雨いつと明けて梢のざくろ花

花ざくろ垣外往来あるなしに

一枝の赤さ折り来ぬ花ざくろ

網の音打つなる聞いて窓涼し

かぶとむし露を甲にちらしけり

甲虫しなへの枝にゐたりけり

枝の腹わたりて朝の甲虫

  薫風
野に出でて荷馬車はずむや風かほる

  早春社七月本句會
さわさわと燈にする風の夏山家

  早春社天王寺例會
川狩りの先陣廻る山のやみ

川狩りの我家の崖にもどりけり

こゝに水わかれて一社夏木立

  西宮早春社改名祝宴句會
宵なればみな水打って初夏の町

暮れてくる庭が初夏なるそよぎ哉