早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十六年十月 第三十二巻四号 近詠 俳句

2022-08-31 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年十月 第三十二巻四号 近詠 俳句


    近詠
月をめぐっていよいよ雲の展けたる

雨餘を來て空なり地なり秋ふかし

汐騒にかゞやき應ふ艸の花

むし時雨往くほど道に昔あり

金風のあしたにひろし汀波

ふところにさし入る朝日登高す

爽かや掌にして壺中奏づるを

旦なる石も育ちて露秋の

霧ぬくく生む燈の山豊年

秋燈を外に出て雲の止まらず

合觀の實は花のあとゝも思はれず

瓶に挿す蚊帳吊草の二本かな

嵐雲に日あり秋雨面り

晝閑に草なき土に蟲何處と

橋を渡り頓に向く野や初嵐

秋めきて地に敷くけむり森の中

松茸鰯市場今日しも秋見ずる

葉かげゆれて爽かさ土の中にあり

毬のよに鼠の子ゐる厨朝寒

雨のひま照れば曇れば草香ふ

秋深し
夕やけの身にさむる時秋ふかし

秋ふかし今朝やもらひし串の魚

いそがしき中の日南は秋ふかし

  子規忌 第十六回早春物故者追悼句會
句に在るを祖國のめぐみ子規忌かな

濱木綿の實は伏霖をすぐ乾く

萩の裏人の住むなる日暮れ暮れ


秋の雲
萩むらのいやかむりして池干たる

日蝕をゆれて芭蕉のしづかなり

  早春者九月本句會
秋天や茜す方を海としつ

門入つてひゞく我が歩や秋のそら

杉の中枯れたるとがり秋の天

一水のさゆらぎもなく花野中

露を來て花野のやどの燈もぬるゝ

ひえびえと花野あかりが傘のうち

   土曜句會
秋の雨後巨材の筏鼻を棹す

退き潮の岸逆波や秋大雨

   名古屋句座 向陽館
萬葉に眞晝風なく枝蛙

水滴を眼に楽しめば枝蛙

枝蛙泉にやまぬ水輪あり

枝蛙堀外の海わすれゐる

蝙蝠の寒し今宵の星少な

蝙蝠の若し見上ぐる夕焼けに

  名古屋句座 二座
樫若葉透いて母家が崖の下

よその間の端居ぬすめば句の出來て

女貞花見るほと散りて梅雨のもの

夏蝶の松に楓に空わたる

麻布團句案ににじり亂しけり

筆硯へ人の戻らず庭若葉

梅雨曇雀ばかりが囀りて

  新涼句筵
秋の海は浪は鍛への音にこそ

途々に咲ける實れる露ゆたか

一歩一歩大地ゆくべし秋新たなり


























宋斤の俳句「早春」昭和十六年 九月 第三十二巻三号 近詠 俳句

2022-08-29 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年 九月 第三十二巻三号 近詠 俳句
  
   近詠
  棧庭日常
初秋や夜の音水のひろきより

新涼や川くる風の北々東

月澄めりビルの肩より我肩へ

秋されし稲の匂ひをきゝたくて

我縁の六橋見ゆる秋の空

水の秋遠く蜻蛉の失せずゆく

飛機しきりに來りて低し出水川

濱蔵の炭木材に地蔵盆

向ふ河岸筏しずかな草老ひ咲き

はたはたの交める跳びし露朝日

草すこやか踏めば踏まれて實をちらす

子規忌來併修百六十句友嗚呼 

秋の蝿拂子振るよりしばし來ず

病むもまたよかりし日あり天の川

秋光や手にイーチョール黒く塗る

病苦句にいふは卑怯やちゝろ鳴く

露草のはびこり塀に螇蚸付く

棧庭に葛かゝり咲く友よ見よ

  蜂
鳥のあと蜂のゆく空朝ひろく

山驛に汽車の停る間蜂の晝

蜂の翅いつもあたらし日を泳ぐ

  十五日會

かたばみの夜を寝る葉に蝿くろし

片づけのこゝつくるより海の砂

潮の香に藷茂り草しげる哉

  青鈴句會
萬兩のくれなゐさめず夏たちぬ

雲立夏湖にうつれば戰儀蹴り

餘花は朝一つの窓と崖のうへ

  二葉句會
鳥さとき中に沈もり栗拾ふ

菊の外夜を芒の老ひにけり

宋斤の俳句「早春」昭和十六年 八月 第三十二巻二号 近詠 俳句

2022-08-19 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年 八月 第三十二巻二号 近詠 俳句

  近詠
夏かすみ軍旅南へ澎湃へ

旦なる打水を發つ部隊なれ

晝顔や砂丘のすその籬なせる

濱木綿のけふ咲ける桟庭出水して

夕焼のいま濟む如し行水す

兵一人つゝましく行く片かげり

草の香をみだし入りたる夜涼かな

蝿舞うてうつくしき日あり松の鉢

門涼み醫師の俥がベル軽く

頬をゆきし風噴水に見たりけり

大世帯夜はさかんに五器かぶり

夏ぶしのあはれ首まだ据らぬ兒

蛾はさみし燈なければ壁にあり

我腕の膏藥無念裸かな

土用炙人が教ふる枇杷療法

  産業報國吟詠
ざうざうと籔は空なる筍に

筍を樂しみにする手摺哉

   五月鯉
石にかげり水に映りし五月鯉

厨の湯気樹の中消えて五月鯉

五月鯉入日を山にひと日遂ふ

五月鯉けふはあがらぬ雨燕

  鳴瀧徹夜 夏行修練不夜
   第一句座
藪里の燈卯の花腐しかな

加茂まつりすぎたり河原乙鳥

しきたりは幟の枠に置く石も

夜を誘ふ島の燈卯波哉

  第二句座
山藤は馬上をさらに高きかな

若駒に雲は野とともはてしなく

馬の目の涼し翠徴の夏うつる

わらびぜんまい馬の仔柵をぬけて出て

みじか夜の多忙立命句の内外

  第三句座
清和天石を叩いていらへある

薫風や田に浮く油むらさきに

  第四句座
柏若葉厨の煙筒朝を吐く

味爽をそよともゆれず若楓

夜を離るみな欄にたち雨若葉

残燈に若葉迫って洛の暁け

鐘かすか明けつゝ夏の霞にて

夏夜明手摺に反りて空を見る

山つゝじ咲きすがれたるあけの露

あかつきを山霽れてゆく松みどり

   早春社七月本句會  「蠓」「夾竹桃」  
蠓や瀬見の小用に久しぶり

まくなぎやすゝきしまゝの濡顔を

蠓がはゞむ遠山夕やけて

梅雨あがるから夾竹桃あつし

夾竹桃と石垣ぬれて雨あがる

   第十五回楠公忌俳句會
楠公忌そらは矢車鳴りまさる

騎馬武者にかゞやく雨の楠公忌

この日この地若葉ぐもりの楠公忌

  



 







































宋斤の俳句「早春」昭和十六年七月 第三十二巻一号 近詠 俳句

2022-08-12 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年七月 第三十二巻一号 近詠 俳句

   近詠
人々はふるさと語り田植ごろ

陰と入る若葉に堀の掛け社

ひとり旅磴を青葉にのぼりきり

一燈を楓しげる葉つゝみかね

夕人のゆきつ停りつ丘の夏

濱木綿の蕾の筆と雲の峰

炙あつし木下闇をみつめつつ

青東風の硝子に魚族映り出づ

はつちくを立て掛けて賣る寺側あり

蝶を清水にはらひ旅つかれ

花は葉はあしたに正し夏の菊

露草にむらさきいまだ梅雨は降る

梅雨雲の夜を峯つくる街いらか

底抜けに梅雨降り細き梧桐一木

電柱をしづかと思ふ梅雨夜頃

守宮また守宮枝ゆく梅雨夕

飛行機をながめずには置けぬ梅雨晴間

らんちゅうの子が豆ほどな力泳す

舟々に梅雨振り沈み燈は棲める

  名古屋にて
雨後の山を咫尺たらして青すだれ

梅雨はれや河鹿の蠅を大漁す

寺内より野の透く小門梅雨曇り

家々の土橋石橋梅雨出水

萬葉に真晝風なく枝蛙

蝙蝠の寒し今宵の星すくな

   松の花
すこやかな日なり丘なり松の花

松の花ゆれずも風を光らする

松咲くや泉の國の御陵村

   爪切草
門畑に立つ朝風の爪切草

早春社六月本句會  兼題「虹」席上「街頭吟』
虹の下みづみづしくも熟るゝもの

虹の橋海女の焚き火の彼方して

虹渡る方におもひを消しにけり

葉柳をかむりて遠し街の音

  二葉會四月句會
春陰やつやつや齒朶が朱をほどく

落葉嵩さつき根に掃き春旱

  二葉會五月句會
麥秋やげんげも末の踏み亂れ

常雨となりし輝き金鳳華

  二葉會六月句會
夏霞夜明くる匂ひ艸にあり

枝蛙寺内四壁にひゞきけり

  能瀬早春社創會
麓に岑々午下を闌くる哉

囀りをいまふときかず山池澄む

  いなづま句會  大和當麻寺
囀りを仰つ牡丹見るつかれ

牡丹や地にしむ雨の空になく

山水のかよふ牡丹の畑づくり

多忙より気をぬきに來て筍の雨

筍の雨男炊ぎに主客なく

螢の舳ながるゝ寒さかな

いただきの茂りに星の澄み出でぬ

松の秀へ空をこぼるゝ螢かな

  産業報國吟詠
田も街も人はいきれて産業す

  六橋觀偶會  「飛魚」
夏の雨あがらんとして浦の蝶

飛魚に歸帆舳を並べつゝ

船窓のそこ飛魚の波をさす






  































宋斤の俳句「早春」昭和十六年六月 第三十一巻六号 近詠 俳句

2022-08-11 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年六月 第三十一巻六号 近詠 俳句

    國母殿下を京洛に迎え奉りて
わか葉雨浄きに仰ぎありがたき  永尾利三郎 

    近詠
五月雲富士より生まれて昇るか 

五月なる旦の空ゆ瀧の鼓

夏來る樹々の中なる欅ぞ

初夏の海の霽るゝ遠島暈生み

沙羅咲けり廊下に雨をふみて佇

まへ梅雨の葉桜を降り垂れにげ

好み好みの窓にて薔薇を置くもあ

蝉聴ひて夏はっきりと雲にあ

草矢しつ洫満水の樋尻よ

いとまありて蝿をとる手に自信あ

住みし縁の釣しのぶ何時何處なり

美女爪を剪る湯あがり圖青す

尾を曲げて雲を怖るゝ日高かな

老鶯や梢ひろきに水せまく

日本全島即空母艦たれ薫風裡

鮎涼し小皿にあまり結ぶ口

桐の花移轉訪ねて此處ならず

雨の日の矢車に見る風の宋

梅落ちて弾むを渓の奪ひけり

舟蟲の金魚を覗く相不識

しもと屋の船場の庭に蟻を見て

儀禮章を胸に薫風街路かな

降る雨は雨後照る楠は楠公忌

太陽を毛蟲の背に與え置く

夕ながし芭蕉玉巻き人とあり


丘のそと小浦してゐてよもぎ摘み

蓬の上撫でゝあしたの露つめた

水をゆき石原もどりよもぎ摘み

  十五日會句抄
二尊院のあたりの梅雨をふと思ふ

梅雨未だはちす浮く葉のかゞやけり

百合をかざし掌上に蟇を童子あり

  早春社五月本句會  兼題「五月雲」席題「松蟬」
たちすゝむ五月の雲や滝のうえ

五月雲夜風となれば海に散る

松蝉を湖からきいて登り來し

松蝉や山から海へ白一路

  神戸本句會四月初會
夜かすみの岬邊燈込みにけり

ひた凪の海をましたに花のくれ

花ふかく潜つてちりもそめざりき