早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句 「早春」大正十六年一月 第三巻一号 十夜吟 七夜〜十夜

2020-05-29 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
十夜吟 (下)
 

第七夜 十月二十一日 日本冷蔵会社 
    鳰 梟 千鳥 五句 来し道 五句

日の波のちりちり暮るゝかいつむり
交々と厠に立つが梟聴く
寺男梟の啼くと馴染気に
宵浅く虫鳴く塀の大長寺

第八夜 十月二十二日 海老江 八阪神社 
    商売往来 十句

枯草を領して傘屋日一日
野の宮や糸瓜も並べ賣たぐひ
寺前や花屋門掃く朝の霧
家傳薬乞へば賣る也冬木宿

第九夜 十月二十三日 松下寺町  菩提寺 
    八時まで雑詠句数作り  

やれ蓮雨の音たち来りけり

第十夜 十月二十四日 玉造 三光神社 運座の袋廻し
    凧 海鼠 朽野 霜除け 干菜 朽艸 百舌鳥 莖漬 焚火 

朽野の鳥は地に飛ぶながながと
茎漬や日のうすらぎに雨散れる
枯草の吸ふばかりなる小雨哉

結夜 十月二十五日 曽根崎 露天神社
   結夜は十一夜目である。 菊五句 燈(晩秋、初冬にて)五句 

菊澄めるあまりに遠き山を見る



 

宋斤の俳句 「早春」大正十六年一月 第三巻一号 十夜吟 一夜〜六夜

2020-05-18 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
十夜吟 

第一夜  大正十五年十月十五日 鰻谷 光清寺
     露十句
土倦みて露を流しぬ庭径

第二夜  十月十六日 難波衛生組合事務所
     一題三句十分間吟 五題十五句を息つく間もなく作る
     菌 山雀 初霜 草紅葉 小春
火に埋む菌や小夜の香にみつる
天王寺塔の小春の暮れて行く
垣の上小春の蝶の𡑭へにけり

第三夜  十月十七日 北野 太融寺
     虫寒し 雁渡し 椿の實 下冷え 師景 五題十句
爽に愛染堂の燈の遠く
雁渡し茶店にあたる日の淋し

第四夜  福島 攝取院
     一人に一題 二十一題それぞれ十句
紅葉燈にあらはれて山小深けれ
機村や紅葉これから人通る
紅葉濃き夜のあけかゝる雲長し

第五夜  安治川 小野方
     舟 十句秋冬
工女等の皆小風呂敷渡舟寒く
秋の夜の水に渡舟の櫓うねうね
霧の燈をもちあがり渡舟仕舞ひ哉
人秋や夜の渡舟に襟合わす
町さびれ来て渡舟場の柳散る

第六夜  十月二十日 十三 也陶居
     後の月 色彩
蟷螂の鎌も草中枯色に
菊白し僧の浅沓石の上




    

宋斤の俳句 「早春」大正十六年一月 第三巻一号 御所拝観

2020-05-14 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句 「早春」大正十六年一月 第三巻一号 近詠

御所拝観

丹のいろに昔の冴えて日華門
高空に鳥鳴き冬の御門かな
紫宸殿
御額の繧繝仰ぎ冬うらら
高御座かしこくも冬日明かりかな
壁代や冬晴れを濃き朽木がた
小春なる御間十一二十一
あたゝかの左近のさくら冬の枝
陣座
薄畳のみんなみ日向よき
小六月陣の小庭に踏む沙
小御所
良へ小御所と拝し冬むくゝ
聴雪の一字小春の蒼乎たり
清涼殿
漢竹の呉竹の北風吹き立たず
東庭や竹臺に冬朝日
滝口の溢れや冬の長閑澄む
冬の水の北に黒戸の御廊
御溝水またぐ恐れに寒さあり
晝の御座近かぢか拝む冬日晴
見参の板や小春に踏みて鳴る
殿上の間
上の戸に御倚子かげして冷かに
大臺盤ならぶ二つに冬日いる
照る冬に日給簡くろぐろと
櫛形の窓やうすうす冬日透く
圭殿司
冬日南窓柱にまはりして
仙洞御所
冬かすみ松の枝間の醒花亭

宋斤の俳句 「早春」大正十五年十二月 第二巻六号 近詠 句会

2020-05-07 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
近詠

場内や枯木低きに鶲来たる
冬木坂雲片朝の東に
川波に照らされて往く人寒し 
山ねむる障子一軒あるばかり
水鳥に食籠のものを落としやる
捨て犬にをろかなじまれ霜月夜
冬の峠かがやく尻を砂に委す
灰剥いで朝の炭團を劬りぬ
腮まで乾鮭切って上がりけり
我亦紅に冬一日の日南かな
宗鑑忌幾夜の庵の尼ヶ崎
枯柳に目をのばしつれ冬かすみ

句会

鳥瓜腰に吊るして霧ぬく
池の波一日よせる苅田かな
 茸山句会
茸山へいざと家の裏急のぼり
秋晴や炭を叩いて金の音
 尼崎句会
行く秋の梢よりちる小鳥かな
 白藤例会
よべの風なほも芒に渡りゆく
 玉造例会
虫籠の夕に吹ける野分かな
 池田例会
夜の虫鳴きうつりして肌寒し
肌寒の矢立は腰にこたえける
 蜆心亭水曜夜会
玉あられ男おんなも文平はく
霰うつ帆の下飯が煮えにけり
田靴にてぺたぺた霰つぶしたり
 五月雨吟会
霧の街一寺聲えて夜の更けゆく
艸句会子規忌 神戸放光庵
柿つやつや凡上に九月十九日
打出句会
橋の下風の寒さに櫨紅葉