早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十七年十一月 第三十四巻五号 近詠 俳句

2023-02-09 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年十一月 第三十四巻五号 近詠 俳句

    近詠
秋の雲夜半を匂ひて街にあり

ほそみちの秋の燈の窗擦りゆけり

北斗まつるを妙見と稱ふ尾花澄む

大露の相撲草やほのくれはひ

町古く寺と石屋と雛頭と

照空燈光芒織れり身に入むや

秋の暮れ飛ぶ蝙蝠の顔を見たり

女の手に鱗乾けり菊挿せり

赤蜻蛉つまゝれて翅のしらけけり

鳶ものを水に攫へり水の秋

萩の實の赤きは雲と淋しけれ

コスモスを剪り貧れり山ゆりとはちみつvs度絵

毛布干せるその上に肘を秋日南







宋斤の俳句「早春」昭和十七年十月 第三十四巻四号 近詠 俳句

2023-02-08 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年十月 第三十四巻四号 近詠 俳句



   近詠

明けわたり時化はさほども椿の實

照るも涼しく桑鷹の鳴く山畑

ほとゝ地に桔梗の雫なりしかな

芒そよげば照れば椎夫のたちはゆる

誘蛾燈旅人に明けしらけたる

秋そばえ國旗の家並對山す

菊の戸に海千里なる便りかな

秋さくら女郎花など谷ぬくし

月の川名残の簾照にけり

良夜なる鷽の寝すがた籠に見る

月圓か開發映ゆる大東亜

芭蕉像月見して一茶壁に拗る

鯉はねしあとのしばらく秋夕

萩にあり薄になり祭店

義仲寺の塀伸す芭蕉破れけん

月夜蟹つぶやくまゝに生かされぬ

老螽黄を吐き指を跳びにけり

鳴くぎゝを魚籠に落しぬ雨の中

そよぐなる地にかげのしつ吾亦紅

洲のかたちをつはくら新田鰡の飛ぶ

麓空雲のこづみに添水打つ

川霧の朝より著たり秋袷

    春の月
扉重く押し出て仰ぐ春の月

春の月牛おきてゐて反芻す

藤雲を山籩にぬぎし春の月

    麗
打水をかどひろくしぬ麗けき

麗かに野走る水のふくれあり

麗かや草に臥すより唄あがる

   子規忌 昭和十七年九月十三日  萩の寺
   兼題『子規忌』「秋澄む」「友善忌」「即事即景」

従軍の子規をおもひつ子規忌哉

萩あつし蝶のまぎれて土をゆく

人ゆきて萩むら澄むにかくれけり

碑文は露の萩の句友善忌

萩の中に彼はかく居し友善忌










宋斤の俳句「早春」昭和十七年 九月 第三十四巻三号 近詠 俳句

2023-02-06 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年 九月 第三十四巻三号 近詠 俳句




近詠

家の燈に船あからさま秋されぬ

草遠く走り戻り來秋の猫

蜉蝣や金龜子暴ばれて去し燈に

新涼や寺か社か小木の闇

城ほとり蓮うつ燈に夜學せる

朝鈴に朝の掃き拭きまづ濟みし

蜩や馬つながれて淋しがる

子どもらにうれしき出水木槿垣

桃あかしコップに漬けて水を染む

稲を知らず工場の煤けすゞめかな

とんぼうの深寝やかさと翅伏せて

舟これよりゆかず干泥に鴫のあと

紀伊船の盆しに歸る輪のけむり

佛壇を隠居あづけに魂まつり

露ぶかに彳ち語りゐる盆の人

葛の葉はところの名にて盆おどり

三更のそら薄雲に盆の月

蟲今宵もやひ筏の草しげり

はたをりや簾透く燈の細ろう地

九州四國暴風解報のなぐれ吹く

諸肌に野風よろしや鰶汁

秋の海の雲に照りけり峠平

   豆 飯
豆飯は河内の乳母がたき上手

豆めしをよそひ押さへて火打箱

豆めしの豆ぬきて喰べ子の楽し

池曇夾竹桃に落花なし

灼日の夾竹桃はかげちらす

見送れば丘にふりかへる友涼し

  二葉會六月例會
百合の香のほのとし泉明るけれ

芝ひろく一石の奇と竹床几

  二葉會七月例會
樹下石上夏日一書を懐に

蛇のあとつめたき土をふむ

  二葉會 須磨吟行
松籟に行燈消されな甘酒屋

土用凪沖遠きほど巨船なる