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早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十六年三月 第三十一巻三号 近詠 俳句

2022-07-28 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年三月 第三十一巻三号 近詠 俳句


    近詠
春風の耳に吹くなり草木より

料峭に霞む東の尊けれ  (遥拜所)

春の地の乾けるなかに水小さき

強東風を肩伍し友の兵とゆく

麥踏みつ老ひの思ひのひとつごと

しら紙にざらざら土す蕗の薹

ぬくき日の一日ありて天王寺

道添ひ茅木一列に叉銃また

末黒ばやしきれいな雨が地に泌むや

白酒に愧なき舌をのばしけり

坂なりに寺堀くねりて椿照る

水草生ふ田舟は橋と横たはり

砂時計春晝三分砂の落つ

植木車の尻ふさふさと沈丁花

城壕の薬研埋れて蓬満つ

時うつるほど陽炎の鮮らしく


  冬の星
冬の星はろかに持ちて窓の海

あるがなかに視れば遠のく冬の星

  兎
弾きずの血も凍りたる兎哉

あながまと先頭に兎棒になる

雉も兎も壁につられてランプの夜

  野の色
野のいろの霧し楠公生まれし地

野の色に住むだけの垣旗出して

野の色のひとつの背戸に臼の閑

山をのぼりつゝ野のいろをふりかへり

野の色に乙女ゆく足はやきかな

  早春社二月本句會 兼題「春耕」「残寒」
春たかく海女のある日を耕せる

雉子笛の机上にありて欄下谷

餘寒寺奥の奥から燈をはこぶ

  二葉會二月例會
二月野の入江抱いて夜に澄めり

二の替や雁追善のさくら丸



















宋斤の俳句「早春」昭和十六年二月 第三十一巻二号 近詠 俳句

2022-07-27 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年二月 第三十一巻二号 近詠 俳句

人の作る俳句ではあるが、本當の句は人の巧智に操られてはゐない。
自然の偉大が、作者の經驗と観劇とその純眞な生活に顯はれて來る。
日本の自然は日本人を造り、日本精神は詩化して日本の俳句を醱る。  

   近詠
かれ芒正月すぎていとふるき

凍つるほど瓦は土に還らざる

皇兵の霾降る寒を戦える

落葉照る小さき湊の丘祠

北風落ちしらし川舟の夜をひたひた

比叡いくたび西塔を知らず霜を踏む

冬晴れや村の峠の切り通し

温泉の宿の裏畑雪のほうれん草

マスク笑ふ意固地ながらに矍鑠と

日脚やゝ伸びし鶴飼ふ檻の芝

星鋭しと宵に聴きゐし風邪の床

干し菜して人また住めり庭の奥

杜は舊に寐にきて增ゆる寒鳥

時局化の人緊張し火事の無し

牡蠣船の霜の歩板が旦かな

冬眠を露はされたる蚣迅し

水仙の満咲夜は狐鳴く

寒玉子たゞ一飲みに吸へといふ

芳鮮を射て寒燈のゆるぎなく

寒の池金魚は緋鯉よりも濃き

飛機いかに快き音雲に冬盡くる


  秋
樹々の中ひろきに秋を坐りけり

船聽いて一日秋の小窓ぬち

  秋暁
庭のもの左右に濃ゆくて秋の暁け

秋暁の口嗽ぐ水岸にふかし

秋暁に蝶を見しことうたがわず


早春社初回本句會  兼題「初飛行・乗初」 席題「今年・破魔矢・初漁」
大空のまつたき光初飛行

艦隊の一せい放つ初飛行

東まばゆきよりぞ初飛行

土いじり心今年にはや慣れて

初漁の幸打ちもどる太鼓なれ

  神戸土筆初句會
寒の鳥枝を具さに登りけり

灘五郷海の光つて初霞

寒ぬくし障子の外に摩耶の山

寒鵙を額に聞きつ山かつら

寄する波舳の敷きて初霞

正月や雨忘れ降る雁の夜

  大阪市土木部俳句同好会 兼題「凍て」席題「梅」
凍てつよくこゝら石崖家高き

凍てはれてある時走る水の皺

凍天の映るものなく手水鉢

瓶の底凍てたるものは雨なりし

ふうさとは蔵の日南に梅の花

   二葉會一月例會
初港陸つて小町ふかく行く

海風の木偶の冠りを正すなく

  青鈴句會
猿曳の家毎入る見て城下町

金網に凍鶴の嘴やらやらす

凍鶴のひと羽根綴りほつれたる

凍鶴のきわまる白さ照り曇り

寒凪や町川空の鳶◆
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  






  










宋斤の俳句「早春」昭和十六年一月 第三十一巻一号 近詠 俳句

2022-07-23 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年一月 第三十一巻一号 近詠 俳句

   近詠
元日の光山河に鎭りぬ

大初日一億民が面に照る

仰いではかゞやく朝日初詣で

生まれましゝ神と嶋とが初光り

あらたまの年のはじめの風とはな

初霞けさに濃きまし魚符の島

はろかはろか空より降れる淑気なれげん

元朝や厨に音のひとつひとつ

野に出でゝ元日巌とさむきかな

戦地よりの句が間に合ふて初句會

南天をゆる風何處と土ぬくし

照り鷽の胸こそ赤し初明り

刈垣のたひらな日南お正月

正月のまことに凪や大漁著

新年の玄關の軍靴誰なるや

いにしへの賑ひ星にお正月

初凪の椿にはれし漁村かな

欄は海や初漁と見たりけり

新支那の南京わたりその春聯

初刷りや第一面の日章旗

月涼し
草の花濶ひきたり月涼し

海の戸に訪ふ見えて月涼し

月涼し茶山いつしか屋根のみち

  春の天
窓あけて見ること楽し春の天

春の天きらきらと降るものゝある

春天に梢のきほひのぼりゐる

  下冷え
下冷えの落葉が土をすべりけり

瀧ありといふ宿の音下冷えぬ

下冷えや砂利敷いてゐるかどの道

下冷えやサイレン枯れて晝を鳴る

   早春社十一月本句會
白菊のばかりあしたをそよりとも

やまなみを菊の東籬に泊り明け

石の上に瀬水走りて菊の下

朝焼けのいまはじまりしけらつゝき

啄木鳥や谷底南人小さく

一山の露そよぎたちけらつゝき

  阪急早春社十月例會 兼題「秋の雑詠」 
燈れば人に隅あり菊の花

露曳いて石にのぼりぬ枯螽

峡の娘はコスモスの中朝早き
  
  東京早春社十一月句會 十一月十九日 日本商工会館 席題「枯野」兼題「小春」
窓小春うちらくらくて壺の花

しらじらと眞上の雲が大枯野

まどの人かれ野見てゐて暮れて行く

   野火止平林寺行
暮れちかくことに紅葉の障子かな

水走りて紅葉の外は大根畑





   目黒雅叙園
巌石を玄關の景に菊の咲く

冬燈間敷五百と聞くからに



  



















宋斤の俳句「早春」昭和十五年十二月 第三十巻六号 伊勢路尾張路

2022-07-15 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十五年十二月 第三十巻六号 伊勢路尾張路

   第一信
   大和から伊勢路へ 
   車窓
秋風の草にひかって水まぶし

   松坂
城をさして町ありくなり秋日南

   第二信
   松坂鈴廼屋
鈴廼屋へ脊戸から入るや身に入みて

秋の晝かゝる家ぬちに居りたけれ

鈴廼屋の秋の蚊なれば刺されけり

箱段梯子ちと冷やかにきしむかな

秋の天宣長翁の書斎から

   第五信 湯の山晩餐後、旅情初めての句席
   途上
豊年の神の伊勢路に一日して
  
   松坂
つつしみて振るに身にしむ秋の聯

鈴廼屋の厨をも拜し晝の蟲

秋日南城に空井を覗きけり

城の上の小社秋なりぬかづきぬ

  菰野湯の山
峽の月雲一刷けを放ちたり

障子しめて渓の音なし秋深かき

小男鹿の湯とこそ浸る澄む秋の

   十三夜の後の月、峽の空に冴えざえと午前三時まで句稿整理等。
山の蟲渓に鳴く蟲後の月

ところところ楓紅葉の月にぬれ

旅の夜は一つ机にみな夜長


  第六信 「早春俳句」船済句稿一袋 別送
秋日ざし柱に当てて端書かく 

  第七信 
  熱田神宮参拜
秋の日のさやけき帽をとつて進む

秋眞晝の御まへに陰もなし

神の前身に沁み日本またこゝに

黍の穂の秋日にみだれ桶狭間

秋雲や古き景色の松街道

秋の蝶空より降れば地にも湧く

爽かや海見展けて冬近み

海澄んで旅館は旗をあげてゐる

  第八信  名古屋東山公園 動物園

  第九信
  蒲郡にて
深秋の夕日は雲にともりけり

沖の帆のかたむきしづと秋の暮

入日雲飛ぶ茜してさわやかに

潮風や芒の老いて釆はらふ

鳥付いて魞の浮標筋秋の夕

  第十信
  蒲郡より名古屋に引かやして名古屋城へ
山雲の迅きに野菊かゝはらず

礎も案内の僧も露のもの

露の聲一壷の湛えみだすあり




  







宋斤の俳句「早春」昭和十五年十二月 第三十巻六号 近詠 俳句

2022-07-15 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十五年十二月 第三十巻六号 近詠 俳句

   紀元二千六百年祝式典 聖紀奉仰
菊さのおもひを菊にあつめけり

   近詠
初冬の漁村にしかと海青し

泊り明けて隣り社に落葉掃く

戻り舟を受け取り繁ぐ冬の人

冬の燈に向いて正しき菊の顔

冬晴れや街になりても椋の顔

栗ひとつ小棚の冬に見つけたり

高く登つて石段終り落葉寺

太巖に來あたりべたと冬日南

瀧ほそし寒さが脇を締むるかな

冬夕暮れ空に注ぐは石叩

   上京 野火止あたり
武蔵野や芋枯れにまた一丘す

小菊黄にみだれ練馬の大根時

牆内は茗荷黄葉して厨の冬

竹林を茶の花に出て日弱ゆく

冬穹の曇り雲なく燕見し

野火止や歩にさゝやきて冬の溝

  平林寺
冬紅葉一山諸堂藁で葺く

山茶花のしづかさにゐて旅ならず

水底の朽葉に杖を眤ましぬ

豪館に驚いてよし外套脱がずもよし (雅叙園)

   名古屋にて
大枯れにいまの時雨の乾きけり

里小春ならべて買へば賣る柿ぞ

うしろにも火鉢あるなり句座旺ン

   中村公園(努吉清正の誕生地隣)
日吉丸の日南虎之助の冬日南

食堂車に折からむ小春富士光る

   鰯雲
島影を擁して迅し鰯雲

野のひとり石にやすらひ鰯雲

鰯雲沙もひろゞろ旺んなり

   蜻蛉
蜻蛉のむれを植木師空に在る

村の中さびしさと思ふ赤とんぼ

海あがる雲や照る空赤とんぼ

  一番町句會十月例會 兼題「菊」席題「渡鳥」
菊の花山のしゞまのこゝにあり

山に時雨の湖また波をこまかにす

鳥渡る村は祭りの次ぎつぎに

  二葉會十一月例會
鶏犬のかどにとりいれ夕かな

冬ぬくゝ半月のうすれたり

  青鈴句會第四十二回報
燈台へ峠急下し十三夜

渡鳥眞上となりて風顔に

大濤をふたゝびしたり渡鳥