宋斤の俳句「早春」昭和十六年三月 第三十一巻三号 近詠 俳句
近詠
春風の耳に吹くなり草木より
料峭に霞む東の尊けれ (遥拜所)
春の地の乾けるなかに水小さき
強東風を肩伍し友の兵とゆく
麥踏みつ老ひの思ひのひとつごと
しら紙にざらざら土す蕗の薹
ぬくき日の一日ありて天王寺
道添ひ茅木一列に叉銃また
末黒ばやしきれいな雨が地に泌むや
白酒に愧なき舌をのばしけり
坂なりに寺堀くねりて椿照る
水草生ふ田舟は橋と横たはり
砂時計春晝三分砂の落つ
植木車の尻ふさふさと沈丁花
城壕の薬研埋れて蓬満つ
時うつるほど陽炎の鮮らしく
冬の星
冬の星はろかに持ちて窓の海
あるがなかに視れば遠のく冬の星
兎
弾きずの血も凍りたる兎哉
あながまと先頭に兎棒になる
雉も兎も壁につられてランプの夜
野の色
野のいろの霧し楠公生まれし地
野の色に住むだけの垣旗出して
野の色のひとつの背戸に臼の閑
山をのぼりつゝ野のいろをふりかへり
野の色に乙女ゆく足はやきかな
早春社二月本句會 兼題「春耕」「残寒」
春たかく海女のある日を耕せる
雉子笛の机上にありて欄下谷
餘寒寺奥の奥から燈をはこぶ
二葉會二月例會
二月野の入江抱いて夜に澄めり
二の替や雁追善のさくら丸
近詠
春風の耳に吹くなり草木より
料峭に霞む東の尊けれ (遥拜所)
春の地の乾けるなかに水小さき
強東風を肩伍し友の兵とゆく
麥踏みつ老ひの思ひのひとつごと
しら紙にざらざら土す蕗の薹
ぬくき日の一日ありて天王寺
道添ひ茅木一列に叉銃また
末黒ばやしきれいな雨が地に泌むや
白酒に愧なき舌をのばしけり
坂なりに寺堀くねりて椿照る
水草生ふ田舟は橋と横たはり
砂時計春晝三分砂の落つ
植木車の尻ふさふさと沈丁花
城壕の薬研埋れて蓬満つ
時うつるほど陽炎の鮮らしく
冬の星
冬の星はろかに持ちて窓の海
あるがなかに視れば遠のく冬の星
兎
弾きずの血も凍りたる兎哉
あながまと先頭に兎棒になる
雉も兎も壁につられてランプの夜
野の色
野のいろの霧し楠公生まれし地
野の色に住むだけの垣旗出して
野の色のひとつの背戸に臼の閑
山をのぼりつゝ野のいろをふりかへり
野の色に乙女ゆく足はやきかな
早春社二月本句會 兼題「春耕」「残寒」
春たかく海女のある日を耕せる
雉子笛の机上にありて欄下谷
餘寒寺奥の奥から燈をはこぶ
二葉會二月例會
二月野の入江抱いて夜に澄めり
二の替や雁追善のさくら丸