早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十七年八月 第三十四巻二号 近詠 俳句

2022-09-22 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年八月 第三十四巻二号 近詠 俳句


   近詠
夏深く村気朝照る壁にあり

雲の峰知人しきりに南洋へ

杉檜の風が肌に明易き

父と來る日母と來る日の鴉の子

鮎の水鐡橋架り人家なし

緑陰に繙きてあり圖南の書

桑の實をふゝみ涼しき雨に佇つ

露古りてでんでん蟲と凝りにけり

ぎす捕りの草伏す古井怖れけり

日盛りて御旅所まつり常の町

しゃぼての餘りの多變憎みけり

跣足熱し蟲のきこゑて嗄れてゐる

鮒一尾金魚のなかに素直なり  

茄子はむらさきころびてまろし露のもつ

蟹の眼の人を見なじみあはれなる

夜の欄に裸の背を海は闇



   初雷
初雷を野はたひらかに水とあり

初雷に
うすき日ざしの海にあり

   艸々先生歓迎句筵 六月十日 帝塚山勝田木山人邸
支那海の話となりぬ蛸肴

まつり蛸淀に伏見に荷役して

井の中や碇にかけて蛸一かい

蛸市や墨垂る籠を大秤

大阪の祭りへ蛸の二番船

   菫
すみれ原戻りの我に魚籠重し

すみれ原夜になるうしろ顧みつ

すみれ原松の下來て海近く

  草刈り
草刈りや女ばかりか露の顔

草刈りや己れの音に露ふりて

草刈りや社の近くひとめぐり

  早春社七月本句會  警戒警報下の本句會 兼題「練雲雀」席題「梅雨明けず」
飛び村の岬に高しねりひはり

藪どころいちにち凪ぎて練雲雀

蠅若き光にとんで梅雨明けず

梅雨明けず日を見するとき山のひだ

   二葉會五月例會
葉櫻に透く高館の燈りけり

よべの燈の島は夏暁にいと近し

  早春句道報國委員會前座句催 大阪中央公會堂
里ゆけば茂りふかきに人親し

 





宋斤の俳句「早春」昭和十七年七月 第三十四巻一号 近詠 俳句

2022-09-20 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年七月 第三十四巻一号 近詠 俳句


     近詠
暁天の星こそ夏のみなぎれり

友等戦ふ南に北に雲の峰

梅雨出水街川空に月朱なり

青鷺や筏䌫ひて人去れば

汁襲を解きつ青葉の縁ひろし

宛字して義山と書せし筺も古し

馬洗ひ戰野の夏を瞼にす

紫陽花のあかるきに頬々女の子

かたばみの咲十薬の咲住むとなく

空地畑閑却されて胡蘿匐咲く

梅雨豪雨來竹桃の確と咲く

滴りの諸手を漏れてしたゝれり

根あらはに咲く月見草貰ひけり

蓮池の隅の板橋家路なる

小判草茂り束ねて鉢に植う

ものゝ音しづかに遠し燈に守宮

凌宵や土塀は大和奈良外れ

蛸の木は知らねど似たり木下闇

尾が消えて園内の徑寺山へ

露草はたくましの莖もろく折れし

植田のぼりに來て峡づまり巌壁す

可々大笑壁に背を打ち蚊火を揺り

    近江にて
降らぬまま旅來し湖の夏霞

義仲寺の芭蕉のすそを梅雨の蝶

梅雨の湖全く拾ひ日和なれ

翁の墓前の金魚の水に心解く

湖ぞひの町すでに夏つばくらめ

梅雨晴れや打出の濱の一官署

   雄琴溫泉
溫泉のあれば町少し付く植田道

脚病めど溫泉なれば登る新樹坂

青蛙溫泉の庭下駄を履けば居る

垣杉に張る女郎蜘蛛湖高し

みづうみを簾越しなる一日す

  第十六回「楠公忌」修営記

しばらくは村家の茂り夏山路

石崖の土塀の小みち歯朶は夏

  恩智地城址
葉櫻のなかに一碑が城址かな

  山麓
若竹の底の明るさ蝶のゆく

眺望や投げ出す足を蟻わたる

  黄檗禅寺 梅巌寺 
山の晝つゝじが褪せて縁のさき

  梅巌寺句座
楠公忌河内山邊のつづきゆく

楠公忌母木の里の山光に

  冬の菊
冬の菊うしおrはるかに丘の線

山水の末の厨邊冬の菊

冬の菊雲にみだれのなき日哉

かれ芝の中一石と冬の菊
   
  大阪護国神社献詠俳句會 昭和十七年六月七日
百合ひとつひとつを神のしろしめす

北満の百合を移して神寶

百合の花神に齋きてそよぐなる

  故越野麥存氏追悼俳句會 兼題「春寒」席題「椿」
奥瀧のひゞきといふを春寒き

春寒く寺へのぼりの地の蒼み

掌上にさらにたゞれし椿かな

  六橋觀偶會
高き燈のひとつ咲きゐる新樹かな

新樹なか街道なれば燈のならぶ

跫音を地がぬすむなる新樹かな

  爽明會
降る空のいちにち保ち女貞花

ねづみもち寺内俗住みもの干して


  




   
 














宋斤の俳句「早春」昭和十七年五月 第三十三巻五号 近詠 俳句

2022-09-16 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年五月 第三十三巻五号 近詠 俳句


    近詠
この堤伏見京まで雲雀空

蒔きしものかたゞ草の芽か箱の土

若竹を左右に登って門の跡

春暁の雲いとけなし野をのぼる

藤棚の下に皓齒を遺し去る

海風を眞面の岡に花果つる

塀を來てはづれの小畑春のこる

書中句に戻るとありしわか葉窗

春蝉に磴のぼる脚おとろへぬ

林中に歩のとゞまらず夏近し

園丁に馮く蝶すでに暑きかな

残鶯に渓下りるみち岐れたり

廣庭のこの家の子等がよめ菜摘む

瀧それは筧を落ちて若楓

敵機來待つなく仰ぐ松緑

空襲警報いとまは鳥に繁蔞やる

街中や椶櫚花咲きて醫の構へ

行春の砂を城址に蹴りて居つ

草の絮散りて城阜に小祠のみ

頬杖を佛したまひ若葉寒む

夏あさく低き燕の光り踏む

霞照る五月島山二里の沖

滴りの草を握れば拳漏る

舗道は映える雨水兵に夏らしも

五月山朝雲一朶ひろがりつ

薫風や里人楠氏の城を指す

   滴り
滴りや閃々として日のひろ葉

滴りを諸手片手のさし合ひて

滴りの見上ぐる巌蝶登る

滴りに山空せまく仰けり

 早春同人大會 四月二十日 宝塚植物園 兼題「霞」
遠かすみ花に得行かで日々す

  植物園即景
山吹のあかるさみちのまた通ず

夏近き楓の秀ゆく蝶のあり

すでに余花池の隅々ちりしける

  早春社四月本句會 兼題「花の冷」席題「大根の花」「屋根替」
燈籠の火袋うつろ花の冷

照れば暑し大根の花の亂れたる

すずしろの花そよぐ風藪誘ふ


   二葉会二月例會 
一夕のこゝろはこべの花に置く

世にまじり渡りゆく橋柳芽に

   二葉会三月例會
春南風たんぽゝの絮胸につく

春雷や柳そのまゝ池の面




 












宋斤の俳句「早春」昭和十七年三月 第三十三巻三号 近詠 俳句

2022-09-16 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年三月 第三十三巻三号 近詠 俳句

    感激・新嘉坡陥落
日本一億東亜十億風光る

凍てゆるむされど油断のあるべきや

    近詠
止止呂美の檪の枯れが散る春歟

二三子の佇ちて夕日の黄水仙

春めきて對窗の燈の胸にある

草に臥し帆をゆかしむる堤春

川に入り傳馬舟卸され春の潮

往く肩に切戸が開いて春の庭

うちの猫男となりし雨を往く

鳥雲に入りて町端が大入日

濱木綿の實は何時埋む春日南

初諸子締めたる口に紅ふくみ

野は雲雀啼いてゐしとて獨活呉れし

春宵の猫に獣臭なかりけり

桟庭に我が春小さく飛機西す

嫁や良し春光に振る干竿や

机の上いつに片付く春の夜

春雨を川面に覗き妻のいふ

てくさりの無駄茂りして冱返る

ひと杜の眞晝に入りぬ落椿

魚影して池の深かみづぬるむかな

馬は喰み春雪厭ふ瞼なる

雲うすく絶へずも春の山を湧く

蘆の芽に水輪切れても擴がれる

青みける細きながらに瘤柳

梅一本はなれて二木鳥居ぬち

熊野よりの鯣干し足す東風つよし

某夜二月熱ありし時の林檎汁

叉の寒剥落寺の古襖

丘の上の平らの芽木に人散れる

草の香
草の香に石階白き夜なりけり

草の香や水平らかを蟲の聲

草の香の岸擦る舟に捲けてゐつ

草の香に離房の燈訪はんかな

   早春社二月本句會  兼題「早春」席上「春落葉」
早春のつめたき心野に正す

早春のさす日を肩に保ち讀み

春落葉ぬれてゐたれば脛に付く

春落葉蔀戸卸りて暮れ一途

春落葉論じて僧の皓齒なる

冬ざくら欅の空と交はしりけり

底の石に觸れずも冬の金魚かな

  安孫子子浪君追悼俳句會
子浪しのべば水仙に座す細おもて

早春社俳句報國結成式 昭和17年2月1日 
主宰宋斤当日発熱臥床中で欠席 會に続いて、子息要 明子の新婚披露の挨拶あり 一同好機として記念撮影






































宋斤の俳句「早春」昭和十七年二月 第三十三巻二号 近詠 俳句

2022-09-06 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年二月 第三十三巻二号 近詠 俳句

   近詠
正月や毎日よき日いくさ捷つ

年立ちし皇土に膝をしたりけり

初鳥山川澄むを黒々と

水仙や山の正月日の匂ひ

正月や鳰の水の打ち照るよ

正月やはろけき雲に影落し

梅椿正月やゝに日をたりし

正月の池に水鳥顔高し



炭あける音朝にあり病みてきく

雀おかし汚るゝばかりに炭船に

窓の燈の外に高々炭積める

  護国神社境内外
ひろ前の砂に沁む雨淑氣かな

  途上觸目
枯草に降る雨踏みつ初吟行

松の内かど畑なれば雨耕せる