早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十五年四月 第二十九巻四号 近詠 俳句

2022-06-09 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十五年四月 第二十九巻四号 近詠 俳句

    近詠
   
  橿原神宮
あたゝかに大和うらゝにありがたし

  吉野山(二十三句)
吉野山やなぎ櫻と芽なりけり

花近くうきうき千枝すみにけり

花の芽の参差ゆるがず透けるかな

細枝の花こしらへて泳ぎゐる

花未だ一木一木を登り坂

みのむしの無言明るし花に急ぐ

厚著して來て悔や蕗の薹

  吉野神宮
春高し山平らに踏む日の眞砂

囀りのあるやうにして聞えざり

霞むなくはるかに筏だまりかな

桑の藁解けざまそよぎ春小徑

春の山のはろかの線を腭にす

莟千本ひかる大猫柳など

蝶を見ず峰入衆の白衣また

春晝や花の吉野の骨董屋

百合買ふて花たづぬれば白ろといふ

大百合根抱えて胸に山のつち

花馬酔木小さき風を知りにけり

草青み月山貞勝軒に注縄

咲くは無く東南院の春日南

蔵王堂の下みちやゝに春泥す

花に早し竹林院の庭の苔

遠散歩吉野の莟見て來たり

芭蕉忌 蕪村忌 一茶忌
野の枯れに時雨そめけり翁の日

春星忌外を知らねば夜はぬくゝ

柏原のさくら知りつも一茶の忌
  収穫
とり入れや山より白き雲のびて

収穫や御陵の水に鴨を見て

とりいれや東寺の塔のいま夕日

  早春社三月本句會 兼題「苗床」席題「梅」「梅暦」「野梅』  
苗床や時より今日月まうき

  早春社尼崎新年句會 早春十五周年の記念年
焚火あと石をこがして庭あれし

かたはらや焚火の料の氷溶く

大寒や隼空をながれ去る

  二葉會復興前會
櫟山茶畠かけてよき日南 

下山こゝ尾花古りたる崖跳ばむ

老ひとりことこと冬の音にあり

  二葉會二月例會
春寒のおごそかにあり紀元節

門もなく住む家の楚徑したり

  青鈴會
霧匂ふ山の乙女のくるぶしも

白木槿風の直枝に咲きあがり

露秋や芝よりひくき大磐石

強ばいの里に敵なき左巻き

立冬や齒朶明うて浅ながれ

山畑の耕す遠音冬たちぬ

霜夜なる村ゆくほどに燈の高く

寒椿百樹の冬の底にあり

年超えの塔中普請寒椿

つまさきのひと草やくる野焼きかな

乙女はも手をにぎり合ひ野焼き佇つ

さくらもち折り疊む葉のこまやかに

  昆蟲と俳句展覧會記念俳句會 
冬ぬくゝ蟲の柱に頬をゆく

外套をみな抱へたり冬の蝶

陸橋に冬暖佇つや日和蟲

  溝咋神社献詠
初国の大妃神はも花は芽に

  京阪電車茨木驛より
たんぽゝに佇つて吟行第一句

二月や柳は枯れをなよなよす

吟行や野ごゝろにして蝶を見ず

  磯良神社
一行は獨活室にあり罌栗苗にあり

春寒の小深かを覗く疣清水

誰れも居ず小さき社草餅屋

  總持寺
春日南汽車の煙りに撫でられて

渡殿の埃涘つて春寂し

  溝咋神社
肇國のゆかり詣でゝ春の雲

松籟の社に聽きつ春耕す

  帰途
春の星吟行すこし歩きすぎぬ



 








宋斤の俳句「早春」昭和十五年三月 第二十九巻三号 近詠 俳句

2022-06-03 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十五年三月 第二十九巻三号 近詠 俳句 

   近詠
  河内八尾
春ぐもり野に飛ぶものに飛機去らず

  常光寺
凍ゆるむ闇庵の返書叉吾郎

寺いくつみな大きくて餘寒町

水を知らず家鴨よごれて春野かな
  市場
みちすこし泥にて來る荷菠薐草 
   
種もの屋町になかりし日南染む
  途上
白提燈戦死の家の春ならじ

  八尾城址
神社乃ち城址春寒む一碑せる

  
  恩地
蓬生に住めるやすらか咿唔の聲

村中は麓這ふみち春のみち

山戻る柴の媼に薄霞

  恩地左近満一の墓
    楠正成の櫻井決別に正行を護りて
    河内に歸り後京師に出て車駕を吉野に
    迎えたり但し其後傳はらず
苦忠然も終りを知らず霞寒む

家裏出て切岸ながめ花は芽に

九櫻の遺跡とありて春淺く

墳のほとり花待つ枝の空をさす

恩地城萌えて樹々疎なりけり

屋根替へ柑橘實るに藁ほこり

みち迷ふさびしさたのし春山邊

神宮寺小太郎正師之塚
     
塚に來て種撒く老がものがたり

ひるからの春風さむし山の藪

胡葱の畝あひ往つて垣内なる

春の土不覚ころんで双の掌に

山村に雲暮そめて梅暦

河内女や春風背の小風呂敷

春陰といふには冷えて花荷する

猫柳花屋がたばね山みづに

末黒野に枝つき立てゝ暫し在り

如月や雲漏る日すぢすだれして

   蟻の塔
蟻の塔をさなきときをおもはする

大木より花か粉か降り蟻の塔

   秋の星
松の根に見上げてもるゝ秋の星

窓かへて山見えずなり秋の星

秋の星壺を洗へば星の中

虬因翁の対話から
初日影洽ねし浦のこぼれ島

春の眼が雲の晴間の星にある

春泥に鉛筆さゝり落ちて在り

春の雨馬の睫にしづくして

手鏡を舐め渡りけり梅雨の蝿

猫の仔の尾眞立ちて秋の風

秋の水脛で押し行く板の上

秋林を掃現はるゝ和尚なれ

かまきりは小智に傾ぐ顔もちて

露秋や猫はけだもの野を飛べり

冬の町一木がなげし影を踏む

枯ぬくゝ何かな迂り道したく

  早春社二月本句會
ものゝ芽に雪のふりつゝあともなし

旅の身の朝ものゝ芽にこゞみけり

冬つくるそのひとふた日町の雪

ものゝ芽の崖鼻雪のちりあふち

冬盡の夜明けの雪を川へ掃く

句座のあと節分詣る近か社

雪降つて街のあかるく冬はつる

   青鈴十二月例會
芦かれに近年町の延び樣や

一堂に芦かれざまや歌まくら

煖房やグラスの水に平和あり

煖房のみなを許して大鏡

冬至訪ふて壁間の文字の曰く無事