祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています
定本宋斤句集 夏 8
枝 蛙 萬葉に真昼風なく枝蛙
蛍 螢の飛ぶに歩るきて身のはなし
蛍の夜 蛍の夜近思の情けに女あり
夏の蝶 夏の蝶ゆきずりびとに失せにけり
蝸 牛 石竹の土に蝸牛の乾きかな
蟻 膝のぼるひもじき蟻と思ひけり
班 猫 班猫によきほどついて渓くだる
紙 魚 閃力紙百年紙魚に犯されず
金龜虫 羽少し尻にはみ出し金龜蟲
五器かぶり 大所帯夜はさかんに五器かぶり
定本宋斤句集 夏 7
花 水 花水女は作りほくろかな
住吉御田植神事 (二句)
御田植 降る雨を植女花笠美目透きて
夜も日笠御田戻って廓練り
祇園舎 祇園舎や攝待水に朱ヶの椀
楠公忌 楠公忌五幾の若葉に降る雨●
河内路の樟若葉なり菊水忌
茅の輪 濱砂をあるいて潜る茅の輪かな
博労町難波神社の御所氏子となる
夏 祭 移りきて今日の祭りの氏子かな
夏 行 夏行寺池に金魚の一つ浮く
夏の島 月の出へ雲掻く翼夏の鳥
保津を下りて
老 鶯 老鶯や保津しばらくは水緩く
時 鳥 時鳥去って百鳥朝となる
鷸 鷭鳴くや巨椋の蓮におくれ来て
鳥の子 父と来る日母と来る日の鴉の子
口開いて雨を食いける鳥の子
青 鷺 鷺飛んで雨は漁翁に霽れにけり
剖葦鳥 剖葦鳥や船の中にも阿迦の波
蝠 蝙 蝙蝠の寒し今宵の星すくな
鹿の子 鹿の子の雨踏んでゐる蹄かな
蝉 山中や晝の湯殿に蝉涼し
定本宋斤句集 夏 6
蘭 湯 蘭湯に海のあかるさましにけり
生 節 節生の木目みだしぬ杉の箸
葛 餅 葛餅を食って原稿せはしけれ
鮓をおす女に山は夕立かな
彌助鮓屋に憩ふ
鮎鮓や暖簾くぐって裏は山
深うみにほどけ沈むや酢の飯
柳川鍋 柳川や諸事ちんまりと燈の下に
甘 酒 鉾町やとある凹みに甘酒屋
ソーダ水 ソーダ水噴散眉を涼しうす
籐椅子 籐椅子に見て船住ひ具さ哉
磁 枕 寝もやらず膝邊つめたき磁枕哉
浴 衣 浴衣着てもたるる橋の片てすり
竹 伐 温泉の欄を竹伐る人のうかゞひね
土用灸 土用灸人が教ふる枇杷療法
走馬灯 藍染の宵より吊す走馬灯
裸 我が腕の膏薬無念裸かな